借金ソムタム

 

 

 休まないイトゥーです。単行本化の暁には「イトゥー母・覇王への道」を書き下ろす予定。もしくは「義姉屑列伝・本物のクズの生き様」にしようか。

 

 前回は職場の工場で発生した泥棒事件について書きましたが、今回も職場の話です。そうです、工場でまた事件が起きました……。

 オフィスワーカーと工場労働者って、はっきり言って人としてのレベルが違うと思うけど、ヤバいのは製造ラインの労働者だけじゃなくて、事務の子も充分ヤバイ。隙あらば仕事上のミスを押し付けてくるし、客先に荷物を引き取りに行くよう指示すれば「ドライバーが寝てるから無理です」って……。寝てるなら起こせよ!

 

 そんな彼女の名前を、仮にソムタムとしておきましょう。

 

「あのねイトゥーさん。実は俺、ソムタムから金を貸してくれって頼まれてさ……」

 

 ある日、日本人工場長から相談を受けました。事務のソムタムから借金を申し込まれたという良くある話ですが、なんとその額、25万バーツ! 日本円にして100万円超……。相手が日本人でも貸すのを躊躇する額なんですけど! そんな大金、何に使うんだ?

 

「理由を聞いても言わないんだ。ブランドのバッグが欲しいとか、そういうのでもなさそうだし、第一、あの子すげえ地味じゃん?」

 

 工場創立時から働いているソムタムは、もうすでに勤続十数年の古株です。歳は40過ぎだけどまだ独身。言われてみれば、確かに市場の端っこでナマズでも売ってそうな、そんな地味なおばさん風の外見でした。

 服装も地味、化粧はスッピン、普段使いのバッグも屋台で買った奴っぽくて、擬態した爬虫類みたい。つまり、いるのかいないのかわからない地味な女。

 ところが職場の噂を検証すると、誰かれ構わずカネの無心を繰り返し、同僚たちから借金を繰り返している強者なのでした。実は工場長も今回が初めてじゃなく、以前にも10万バーツ、ソムタムにカネを貸していたのです。

 この10万バーツに関しては毎月細々と返済していたそうですが、未払いだった最後の三回分を指摘すると「全額返した」と言い張られ、面倒くさくなって残金は請求しなかったんだとか。

 

 この工場長、面倒くさいことや揉め事が大嫌い。トラブルを全てお金で解決するタイプ。ソムタムからの借金返済も記憶だけで管理していた。つまり、だめ日本人です。

 そんなさなかの追加借金依頼。25万バーツって普通に大金ですから、無担保で理由は言いたくないじゃ済みません。よってイトゥーが調査に乗り出したのです。

 手始めに同じ工場で働くタイ人ゲイの現場監督をこっそり呼び出し、ソムタムについて訪ねると、奴は「よくぞ聞いてくれた」と喰い付いてきました。そうです、ソムタムはこんなところからもお金を借りていたのです。

 

「僕、家を買うため頭金を貯めていたんですが、ソムタムさんからその金を貸してくれって頼まれて……」

 

 ふむふむ、で、貸したの?

 

「マイホームは僕の夢ですから。断ったんですけど、しつこく食い下がってきたもんで、そこまで困ってるなら工場長から借りなって言ったんです」

 

 非常識にも程があるわ。ところでソムタム、何でそれほどお金に困ってるんだろう。ゲイの現場監督曰く、家の修理に必要だと言われたとか。

 実はソムタム、生意気にもマイホームを持っているんですよ。無論ローンで買ったものですが、ちなみにスマホもiPhone6sで、言うまでもなくこれもローンです。

 前回、工場長から10万バーツを借りたときは、雨漏りの修理代という名目だったらしい。それ以前も「家の外壁が壊れたから直したい」と同僚から5万バーツ借りていたことが判明しました。おい、廃墟でも買ったんか?

 

 そしていよいよ、ソムタム本人からの事情聴取です。なぜ他人から借りてまで25万バーツも必要なの?

 

「4枚のカードで限界までキャッシングしてたんですが、首が回らなくなって……」

 

 ソムタムの申告によれば、カード会社からの借金が4枚で計14万バーツ。友達から現金で借りたお金が6万バーツ。当座の生活費に5万バーツ。だから25万バーツ欲しいというのが言い分。

 って、私の質問に対する説明になっていないんですが……。なぜ、どうして、何に必要なの? 問い詰めても、家の修理代という漠然とした答えしか返ってこない。

 いっそこれが男にでも貢いでいるのであれば、それはそれで安心できるんだけど……。ソムタムは最後まで明かそうとしませんでした。

 

「お願いです。お金貸してください! 私はこの先もずっとこの会社で働きますし何処にも逃げません。毎月5千バーツずつ返済します! 金利もつけます!」

 

 ソムタムの悲痛な訴えが部屋に響き、重い沈黙が流れます。遂に根負けした工場長がひとこと。

 

「──わかったよ。貸すよ。ボーナス時は5万バーツの返済ってことでいいか?」

「それは嫌です」

 

 え! なにそれ……ガクッとなりました。

 結局、ボーナスは関係なく、毎月一律5千バーツの返済でお金を貸すことになった工場長。返済までの期間は約4年。すげーな、次のオリンピックが始まっちゃうよ。

 

 一応、ソムタムには我々の目の前でクレジットカードにハサミを入れてもらったが、どうせ、速攻で新しいカードを再発行したんだろうな。

 そんなソムタムは例の如く、初めのうちは5千バーツ+金利(といってもたった2百バーツ程)を振り込んでいたそうですが、気が付けば金利分の振り込みは有耶無耶になっていたとか。

 

 金利はどうした! と言わないまでも、なんとも言えない嫌な気分になった工場長。Xデーは近いな……とふんでいた矢先、やはり追加融資の依頼があったそうです。

 学習能力の無い女だ……。続きは次号で。

(つづく)