とことん粘ればひと財産手に入る!

 

 

 最後に、東京・多摩川の川沿いにひろがる「コリアンスラム」にも触れておこう。

 多摩川の河川敷は、東京で暮らす僕が大好きな場所の一つである。生い茂る葦の中にうねうねした道が伸び、歩いて行くと大規模な闇畑やら、発電機や地デジ完備の大規模ホームレスハウス、大量の犬猫を飼っている馬鹿でかいオリなど、ヤバイ物がいっぱい出てくるからだ。

 建物だけではない。猫に毒のエサを食べさせる通称「猫殺しババア」や、猫を殴って殺す「猫殺しジジイ」など、エキセントリックな人もたくさんいる。

 ディズニーなんか目じゃないワンダーランド。そんなワンダーランドのコリアンスラムが楽しくないはずがない!

 

 多摩川のスラムには教会まである。せっかくなので日曜礼拝に顔を出してみることにした。

 地図を見ながら足を運ぶと、教会があるはずの場所にごみ処理工場があった。覗き込むと、工場を通り抜けた向こう側に教会らしき建物が垣間見える。

 入り口が分からずオタオタしていると、礼拝に来たらしき人が現れ、工場の敷地を堂々と突っ切って教会方面に歩いて行く。

 他人の敷地を踏み越えなければたどり着けない斬新な『川崎戸手教会』は、大きな原っぱの水たまりの上に建つ、ボロくて不思議な民家だった。

 

 教会ではすでに説教が始まっていて、牧師さんが聖書のヨハネ福音書第二章を朗読していた。

 キリストが神殿でブチ切れ、縄でムチを作って動物を逃し、両替商のお金を撒き散らし、台をひっくり返すという、なかなか暴力的な場面だ。

 さすがコリアン、聖書でもファビョっているシーンを選ぶんだなあ……と感心。説教の後は、集まった皆でご飯を食べたり話をする。僕ものびのびにのびきったおそばをいただいた。

 

 周りにいるのは基本的にお年寄りがほとんどだが、若くてかわいらしい女の子も来ていた。みな、気さくな人たちで色々な話を聞かせてくれる。ちょうど北朝鮮の核実験が行われた時期だったが、

 

「北朝鮮が悪いって言われるけど仕方ないよ。アメリカに対抗するため、水爆実験をするしかなかったんだ」

 

 と、なかなかの北朝鮮擁護発言が飛び交う。ヘイトスピーチ反対の市民運動中、目の前で「ババア死ね!」と罵られた、なんて切ない話も聞けた。

 コリアンスラムの昔話も興味深かった。スラムに電気や水道を引いてくれたのは共産党と朝鮮総連だったそうだ。

 不法占拠のスラムだろうと、圧力さえかければライフラインを引いてもらえるんだな……と驚いた。それなら、ホームレスのテント村にも電気くらい引いてやれよと思ってしまう。

 最後に、教会の下が水たまりになっている理由を訊ねてみた。

 

「昔ここは川で、この教会も川の上に建ってたんですが、スーパー堤防ができて川は消えてしまいました。あの水たまりはトイレの水とか生活排水ですね。水に栄養があるから、この辺りはカエルの数がすごいですよ……」

 

 垂れ流しかよ! カエルが繁殖とか、微笑ましく言ってるんじゃないよ!

 

 教会の周りにも不法占拠の集落がある。トタンを組み合わせた粗末なバラックっぽい家が多い。

 銀色の屋根が見えたので、おっ、ソーラーパネルかな? と近づいてみたら、銀色のシートを貼りまくって雨漏りを防いでいるだけだった。

 辺りは人の気配もあまりなく、遺跡のようなたたずまいである。ず~っと置き去りにされたヤマハの原チャリ「パッソル」にまで幾重にもシダが巻きつき、天空の城ラピュタに出てくる死んだロボットみたいだった。

 

 このエリアはスーパー堤防にあたるのだが、堤防の横に高層マンションを建てる計画が着々と進んでいて、集落のかなりの部分が立ち退いているが、目立った反対運動は特にない。

 これには理由があって、スラムの住人は新しく完成したタワーマンションに部屋をもらえるからだ。ついでに2800万円の保証金も支払われると聞いた。

 

 勝手に家を建てて河川敷に住み続け、新築のマンションと大金をもらえるって、どんだけラッキーなんだろう。

 ホームレスのオッサンたちにも、スラム住民の執念深さを見習うようアドバイスしてあげたい。粘ってる間にほぼ全員死んでしまいそうだけど。

 以上、代表的なコリアン住居型スラムを3つばかり紹介したが、残念なことにどれも消滅秒読みの状態だ。残念でならない。

(了)