おまけ:ある外国人専門引っ越し屋のうちあけ話
日本と海外を結ぶ、特殊な引越し会社で働く友人がいる。
彼のお客は外国人。それも在日米軍の高級将校や多国籍企業の社長、大使館の偉い人などVIP揃いだ。
運ぶ荷物も細心の注意を要する高級品ばかり。そのぶん料金はぶっ倒れるほど高いが、1年通して休みが無いほど忙しい。
主な出先は麻布だの目黒だの六本木周辺。間違えて呼び鈴を押した家からデヴィ夫人が出てきたり、マンションの通路で身体が触れた故・川島なお美から小一時間もネチネチ説教されたり、おもしろエピソードには事欠かないそんな彼が、外国人VIPの引っ越し事情について語ってくれた。
──今まで見た中で最高に汚かったのはインド大使館だな。どこから入ってきたのか知らないけど、カラカラになった猫の死体が転がってたりね。カレー臭くて気がつかないのかなぁ。
高級マンションでも、台所とかムチャクチャ汚くしてるのは大抵インド人だよ。あれ見たらインド人に部屋貸そうとか絶対思わないわ。
もうひとつ、シャレにならんから国名は言えないけど、麻布の某大使館でひどい目に遭ったよ。
毛唐のVIPってわがままで気苦労が絶えないんだけど、ここは札付きでね、業界でも有名だから誰も仕事を引き受けないんだけど、あるとき、押し切られる形で上が受けちゃったの。
その国は役人の出世の頂点が大使で、そこで散々税金で無駄遣いしたり豪遊してから引退するわけ。だから引っ越しもすごくて、バカみたいに大きくて高級な彫像とか絵画がゴロゴロしてるんだよ。
その日も部下のスタッフ連れて、緊張しながら行ったんだけど、大使館にいるフィリピン人のメイドが、尋常じゃないくらい怯えちゃってるの。
しばらくしたら大使が来て、あれ運べ、これ運べ、もっときちんと梱包しろだの、やかましく指示を出してくるんだけど、言われた通り丁寧にやってたら来年まで終わらないような量なのよ。
それでも注意しながら作業してたら、スタッフのひとりがやらかしちゃった。額縁を2枚重ねただけなんだけど、それが純金だったわけよ。
大使は発狂してね。マジで発狂したかと思った。周りにあったものを手当たり次第ぶん投げて、怒鳴ったり奇声上げたり、こっちは全員凍りついたよ。
見た限り、額は無事で傷もついてないんだけど、説明して納得するようなタマじゃないから。そしたらいきなりその純金の額を床に叩き付けて、そのへんの高そうな花瓶をバチバチ割って、全部弁償しろって言いやがった。普通じゃないよな。
そこでちょっとした口論になったんだよ。そしたら血相変えた大使が言ったよね、
「お前ら死ぬまでここから出られない。一生閉じ込めてやる」
叫び出した途端、いきなり轟音がして、見たら玄関の電動ゲートが動いてるんだわ。
ここは大使館だから、一旦ゲートが閉まったら警察だって入れないからね。僕らも必死だよ。
慌てて部下をひとり、閉まりかけたゲートの真ん中に立たせて、アホの大使をなだめながら会社の連中を呼んで。
本社から偉い人が来て僕らは解放されたけど、結局、他に誰も引き受ける会社が無いから「続けてやってくれ」って頼まれて。もちろん断ったけど、こんな話、山ほどあるよ……。
(了)