関東最果てのアジア(神奈川県・横内団地)

 

 

 いちょう団地に規模は劣るも、よりディープな外国人の巣窟として県内では有名な「横内団地」。

 関東屈指のDQNゾーンでもあり、夏の「横内団地祭り」は別名「モンモン祭り」とあだ名されるほど。当然、住民のタトゥー率も県内随一。ベトナム人やカンボジア人の彫師もいるらしく、知り合いのカンボジア人のタトゥーは横内で入れたものだった。

 

 横内団地にコワモテイメージがつくきっかけとなったのが、1974年に34号棟で発生した「ピアノ騒音殺人事件」である。

 事件を起こしたのは横領やひったくりの前科があり、ホームレス(当時の呼び名は乞食)経験もあるOという男。

 うるさい犬を何匹も殺すなど、騒音に敏感だったOの階下に、騒がしい4人家族が越してきたのが運の尽き。

 Oの抗議にも動じない一家は、数年後、当時流行だったピアノを購入。長女のドヘタな指さばきにブチ切れたOは殺害を決意。父親の外出後、階下に乗り込み刺身包丁を振り回し、母と2人の娘を滅多突きにして殺害した。

 事件は日本初の騒音殺人として新聞やテレビを騒がせ、横内団地の悪名は全国に轟いた。ちなみに犯人のOは死刑判決を受けながらも執行はされないまま、2016年の今も東京拘置所でピンピン。絶賛呼吸中だ。

 

 いちょうと比べ、外見もくたびれた横内団地。最寄り駅まで徒歩1時間。バスなら22分だが、そのバスが2時間に1〜2本という、陸の孤島のような場所にある。

 ハトよけなのか、それとも低層ゆえ泥棒がはびこるのか、ベランダ全体をネットで覆う部屋も多い。そのベランダもゴミだらけだったりして、どこか殺伐とした雰囲気。ピンクの自転車に乗った浅黒い少女の笑顔が唯一の救いだ。

 

 極めつけは、団地に隣接する小さな八百屋だった。

 行きすがら、小柄な店主にジロリと睨まれ、居心地悪くその場を離れようとしたそのとき、野菜の値札が目に入った。

 サツマイモ4本100円。ナスは8個で50円……。安売りスーパーの半額以下だ。目を丸くして立ち止まると、店主がニヤリ。「安いだろッ?」と声をかけてきた。

 初老の店主は横内に住んで40年。無口の頑固オヤジと思いきや、実は無類の話し好き。しかも話が毒々しくて、いちいち虜になる面白さ。ここからはオヤジの口調を再現しながら、忠実に書き起こしたいと思う。

 

 ここは神奈川で一番物価が安いんだよ。この団地だって、どスラムにいたクズどもを突っ込むために作ったモンだしヨォ。

 いちょう(団地)は若いのドンドン入れてるから活気があっていいけど、ここはジジイとババァばっかりだぜ。しかも10人いたら7人は創価学会だしよッ! 貧乏人のくせして権利意識だけは旺盛でヨォ、2万だの3万だのしけた家賃しか払ってねェくせに、手すりが壊れただのドア直せだの、文句ばっか言いやがって、管理事務所の電話が鳴り止まねぇんだ。

 ホントにインチキ野郎ばっかりだから。又貸しや老人ホームがわりの部屋なんて、ザラだぜ。

 

 そもそも県営団地とは生活困窮者のためのもので、貧困家庭には家賃の減額など便宜がはかられる反面、入居基準は厳しく、所得の高い人は審査でハネられる(ことになっている)。

 しかしそこは蛇の道。所得を低く偽って入居したり、格安で借りた部屋を第三者に又貸ししてみたり、離婚した母子家庭の部屋に、別れたはずの旦那が常駐するケースなど、不正は後を絶たない。

 言われて見れば、セピア色に変色した団地の前に真新しいベンツが……。ここにも深い闇がありそうだ。

 

 アンタもここに住みゃいいじゃん! やったらいいよ老人ホーム! どうせみんなインチキしてんだから……。

 住民票を神奈川に持ってきてヨォ、家族名義でいっぱい借りて、又貸しすれば儲かるぜ。やれよ! やっちゃえよ!

 

 店主は半ばヤケだった。八百屋の前を通ったインド系の通行人を指差し、でかい声で「ほらあれッ。バングラデシュ人だ。場違いなんだよッ!」と叫んだ後、低い声で続けた。

 

 こおんな(1メートルくらい)犬、預かってくれって言うから預かってやったら、10年経っても取りに来ねえしよッ! 

 オリャア横須賀出身だから、小さい頃からガイジンに慣れてるから偏見はねぇけど、ここの田舎モンはガイジンと壁作るからヨォ。

 

 と、買い物客が現れたので話を中断。「お客さん来ましたよ!」と促すと、オヤジは破れかぶれみたいな感じで、

 

「いいよもうッ!」

 

 と吐き捨て、折角の客をシカトするのだった。まあ、ナス8個を50円で買いに来る客なんて、客であって客じゃないのかもしれないが、横内団地というより、この八百屋が最高だった。オヤジのトーク、皆さんにもぜひ体験していただきたい。

 横内団地:神奈川県平塚市横内