茶畑の九龍城(埼玉県・入間市)

 

 

 香港の町のど真ん中に飛行機が離着陸していた頃、空港脇に「九龍城砦」という超巨大な高層スラム街があった。

 清の時代、軍が駐留する要塞だったこの場所は、香港がイギリスの植民地となってからも、清国(当時)の飛び地として治外法権の扱いを受けていた。

 ところがその後、イギリスの圧力で城砦内の役人が退去。さらに持ち主の清国が滅亡したことで管轄権が宙に浮き、香港の法が及ばない無国籍スラムとして、不法移民や犯罪者の逃げ場となった。

 人口が増え、高層・迷路化した城砦では違法行為が横行。一度入ったら二度と出て来れない……などと伝説に尾ひれがついて、暗黒街の代名詞みたいな存在となるも、香港返還を前に取り壊された。

 

 そんな取り壊し前年の1992年。滑り込みセーフで実物の九龍城砦を拝んだときの衝撃は今も忘れられない。無数のアンテナが突き出た屋上を探検中、足を踏み入れた暗い小屋で、手すりの外れた13階の吹き抜けから転落しそうになり、小便をちびりかけた記憶がある。 そんな「九龍城」の名を冠したホテルが関東に2つもあると聞けば、行きたくなるのが人情。

 ひとつは亀戸(江東区)の煤けたビジネスホテル「ホテル九龍城」。近所の中華料理店から出前がとれるのがウリという、どうでもいいホテルである。これは見る価値なし。そしてもうひとつが埼玉奥地のホテル「ザ・ロック:九龍城」。紹介するのはコチラだ。

 

 何年か前、バイク好きの知人が埼玉のど田舎をツーリング中、茶畑の奥に異様な建物を発見。「九龍城」という看板の文字を覚えていたのが取材のきっかけだった。

 問題の建物はラブホテル。何かをテーマにしたラブホは珍しくないが、キタナイものをテーマにするのは異色である。

 気軽にホイホイ行ける場所ではないので、記憶に留めた数年後、ようやく足をのばしてみた。

 

 一番近い西武線の武蔵藤沢駅からでも徒歩1時間。仕方なくタクシーで片道2千円の出費。敷居が高すぎて憂鬱になる。

 ホテル前のローソンは薄暗く、商品はどれもひとつとかふたつずつ。パッケージは変色し、うまい棒だけ山ほどあった。まるで夢のような話だが実話である。

 外装も内装も気合い充分のホテル九龍城は、異国情緒というより金のかかったお化け屋敷。九龍城砦ってこんなだっけ? と喉まで出かかる気合いの入りっぷり。詳しくは写真を見て頂きたい。

 同じく九龍城砦をテーマにした川崎のゲーセン「電脳九龍城」を100とすると、45点。泥酔状態とかなら、香港スラム気分を味わえるかも。

 ホテル九龍城:埼玉県入間市宮寺2693ー1