流浪のワラビスタン(埼玉・蕨市)
日本最小にして、人口密度日本一を誇る埼玉県・蕨市。周りの市が続々再編されるなか、どこからもお声がかからず未だ独立を堅持。共産党市長が支配する、埼玉で最も貧乏な自治体である。
駅を出て東口の繁華街に入ると、ヒゲの濃い平井堅みたいな通行人が一気に増える。彼らは亡命クルド人だ。
中東一帯に分布しながら固有の国家を持たないクルド人は、各国のマイノリティとして漏れなく迫害されている。
在日亡命クルド人の大部分を占めるトルコ系クルド人たちもまた、迫害や差別に追われ、日本にやってきたクチだ。トルコと日本には相互ビザ免除制度があるため入国は簡単。一旦入ったら帰りのチケットは捨て、家賃が安く、働き口となる町工場が密集し、知人友人が多い埼玉県南部に定住するのだ。
日本とトルコとの外交的な事情により、亡命クルド人の難民申請が認められるケースはほぼ無く(親日国トルコの迫害を認めたことになるから)、彼らは人道的見地から強制送還を猶予された特殊かつ不安定な身分のまま、ダラダラと暮らし続けなければならない。
原則として就労できず、健康保険もなければ、許可なく埼玉から出ることも許されない。やむを得ず不法就労で銭を稼ぎ、毎年3月に行われる「クルド人祭り」を唯一の精神的拠り所としながら、未来に不安を抱きつつ、暇さえあれば蕨駅周辺を徘徊するというわけだ。
クルド人の地──という意味の「クルディスタン」にかけて、蕨を「ワラビスタン」と呼ぶ人がいる。事情を知ると、そこはかとなく悲惨な響きだ。
彼らが正式な滞在資格を得る唯一の道は、日本人との結婚しかない。裏を返せば婚活女子にとって、蕨は最高にホットな場所なのかもね……。
東口がワラビスタンなら、西は中国人の縄張りである。
蕨駅西口からJRの線路沿いをしばらく北上すると、前方に巨大なビル群が現れる。
こちらの「川口芝園団地」は総戸数2500。広大な敷地にスーパー、公民館、幼稚園、医院、運動場まで完備した、ちょっとした「街」だが、実は住民の半数が中国人。
横浜・大阪・名古屋に続き、在住中国人の数が全国4位という川口市。実はその大半をこの巨大団地が収容している。
期待いっぱいで訪れてみると、たしかに貼り紙・ポスターの類は全て日本語・中国語の二ヶ国語表記。しかしそれも、後に紹介する相模原の多国籍団地と比べたら可愛いレベルだ。
団地内で中国雑貨店も見かけたが、異国情緒を感じるまでには至らず、言われなければ普通の団地。かつてはゴミ出しルールや騒音で、中国人と旧住人の間に摩擦が発生。深刻な問題に発展したこともあったそうだが、住人の半数が中国人となった今、それも彼らの中の問題になりつつある。
川口芝園団地:埼玉県川口市芝園町