2月17日 東京

 吉倉槇一、エポック伊藤の両氏と寄り合い。

 別れ際、新大久保の「王将」でメシを喰う。見るからに性格の悪そうな、口のひん曲がった日本人社員が、満員の客の前で中国人のバイトをいびり倒している、非常に居づらい雰囲気。甲高い奇声でオーダーを連呼する兄ちゃんも怖い。平然と食事するサラリーマンの皆さんが眩しかった。

 

2月20日 東京

 シックスサマナの新刊が出た。成績は上々。ポッドキャストを始めてから、本誌にほとんど絡まなくなってしまったキテレツさんの並々ならぬ存在感を再認識。

 夕方、折角東京にいるのだから……と王子のGA(ギャンブル依存症)自助会へ出かけた。会場はとある精神科医院。この種の集まりに行くときは、過食症、アル中、ドラッグ中毒、セックス中毒等、テーマとなる依存症者になりきった状態で臨んでいるが、博打だけには生まれてこのかた全く興味がなく、遊びで麻雀を少々嗜む程度。

 とびきりのエピソードを仕入れるには、自分もいっぱしの依存症者として会を盛り上げねば申し訳ない……というのが私の信条。麻雀の点数計算すら覚束ない「依存症者」では偽物感バレバレである。

 結果、会場前でコーヒーを飲みながらしばらく悩み、気分が乗らず引き返した。こういうこともあるのです。

 

2月21日 東京

 昼どきの池袋東口。「トロント」という名のやつれ果てた喫茶店に迷い込んでしまう。夜はスナックとして営業しているそうで、確かに店内は薄暗い。

 迷った末、生まれて2度目のハヤシライスを注文。チェーンスモーカーのマスター。そして、平日の真っ昼間からカウンターの隅で言葉少なにマスターと語り合う、堅気とは思えないアンニュイなおばさん。

 夕方、東十条で人生初の大衆演劇を見る。開場1時間前から熱心なファン(全員女性、ババアと思いきや若年層も……)の列。全身ドラえもん人形をぶら下げた、精神の病を幾つか背負っていそうなアラフォー女性が気になる。

 5時過ぎ、木戸銭を払って入場。係員も売店のババアも皆、一癖もふた癖もありそうな面構え。座敷にぎっちり座ると知って、腰痛持ちの私は帰りたくなったが、折角ここまで来たからと歯を食いしばって腰掛けた。

 最前列にはなんと小学生らしき女の子。開演直前に20代女性が10名以上大挙してゾロゾロ現れ、予約席に陣取る。若いは若いが猛禽類系。プレデターみたいな目をしている。

 この日の公演は劇団九州男。座長の大川良太郎は大衆演劇界のアイドル的存在で熱心なファンも多く、貫禄抜群だった。演劇の類には全く興味がない、一万円札のレイが見たかっただけの私にも訴えかけるものがあった。

 

2月24日 東京

 3日前の観劇で腰がクタクタになり、我慢できず地域の巨大病院へ。受け付けで「予約が無い? だと一時間半は待ちますねえ」と言われ覚悟するも、10分そこそこで診断。「椎間板が傷んでますね」といつもと同じ事を言われ、コルセットを買わされた。結局使ってないけど……。

 

2月25日 東京

 以前から気になっていた上池袋の「アマゾン昆虫館」へ。池袋は住み慣れた地元だが、古びた住宅が密集する上池袋はほとんど来たことがない。

 肝心の昆虫館は彷徨っていたら偶然発見したという感じで、死ぬほどわかりにくい場所にあった。玄関前には南米の狂った置物や彫像がわんさとあったが、雑草が生い茂る敷地内は荒れ果てている。

 どうしようかと迷ったが、意を決してインターフォンを押す。しばらくするとマスクをした中年男性が現れ、警戒の目つきで私を睨んだ。

 この男性、最初は大層とっつきにくかったが、よくよく事情を説明すると「館長の息子です」と自己紹介してくれた。館長は二年前に死去。昆虫館はとっくに閉鎖しているが、今日は荷物整理のため偶然来ていたとのこと。残念……。

 

2月26日 東京

 エポック伊藤氏と、池袋西口の純喫茶「フラミンゴ」訪問。店内で無数の熱帯魚を飼っている一部で有名な喫茶店だ。

 メニューを持ってきた初老のウェイターに「いつオープンしたんですか?」と訊ねると、寝ぼけるなよ──みたいな雰囲気で「もう40年はやってますが」と言い返されてしまう。

 

2月28日 東京

 (文京区)春日へ。小石川植物園を経由して、目指すコリアブックセンターに到着。遠かった!

 総連のキムチ臭い息がたっぷりかかった北朝鮮書籍専門書店。店もすごいが、店のある建物はもっとすごい。レンガ色した20階はあろう中途半端な高層ビル、その名も「朝鮮出版会館」である。

 屋上には北朝鮮との連絡用に使われていると噂の、直径20メートル近い巨大アンテナ。2月と思えないポカポカ陽気のなか、高層ビルなのに大半の窓が全開で、つまり空調が動いてないらしい。

 一時は総連本部の移転先と目されるも、闇から闇へ売却され、ビル全体が解体待ちという話だが、今日のところは普通に営業中。

 書棚には苦労に苦労を重ねた同胞の写真集とか、装丁が安っぽい朝鮮語の書籍、朝鮮観光ガイド、関東大震災のさいに飛び交った流言飛語をまとめた同人誌などが並んでいる。民族教育用に作られた、社会主義を賛美する子供向け絵本も興味深い。

 この日は大震災の同人誌を無言でレジに突き出し、お姉さんから「カムサハムニダァ」と言われ、釣りをもらった(後日、立ち退きによりコリアブックセンターは閉店)。

 買い物の後は秋葉原で旧知の神田さん(仮名)と合流。ケータイ乞食でキャッシュバック12万円。さらに端末売り飛ばして13万円ゲットする瞬間に密着させてもらった。先々月もやって、4ヶ月後にまたやるそうだ。

「株と同じで毎日値段が乱高下しますから、買い取った在庫はその日の夜中に全て処分します。行き先は全部海外。中身をいじってシムフリーにして転売するんですよ」

 買い取り店の兄ちゃんは饒舌だった。店に積まれた新古品のiPadを眺めていると、

「こういう店(自分の店だよ!)で買うのは気をつけた方がいいですよ……。赤ロムとか訳ありの端末が混じってますし、買ったその日は使えても、3ヶ月後に使えなくなる可能性ありますから」

 売ってる本人が言うのだから間違いない。やめといてよかった。

 

3月2日 東京

 中野でラエリアン・ムーブメント主催「地球人は科学的に創造された」講演会に参加。駅前ではラエリアン公式キャラの着ぐるみが通行人に媚を売り、会場のサンプラザはBL系イベントで大混乱していた。

 ラエリアンの技術力・情報網は世界一とか言いながら、新聞の切り抜きみたいなピントのずれた話ばかりする。

 我々はグーグルを研究し尽くしています、うそだと思うなら「最新 UFO」と検索してみてください。ね、三番目に我々のサイトが出るでしょう?(ドヤ顔)。みたいな。

 終わった後、関東地区リーダーが参加者の女をナンパしていた。

 

3月3日 東京

 「傷だらけの天使」の舞台となった代々木会館を巡礼。その後、DVDの委託販売をお願いしている中野のタコシェに向かい、苦戦中の我が作品に無言のエールを送った。

 

3月6日 東京

 新宿東口で本因坊と打ち合わせ。集合場所のローソンで本因坊を待っていると、ボロボロの服をまとった乞食オヤジがペヤングソースやきそばを購入。ポットでお湯を入れ、湯の中にソースをドボドボ注ぎ、青のりとスパイスをふりかけ、店の真ん前の地べたにドカッと座り、湯切りせぬまま喰い始めた。

 ソース色に染まったスープ?からもうもうと立ち上る湯気。付近でカモを探すぼったくり居酒屋の客引きたちも、これには度肝を抜かれていた。しかもオヤジは裸足だった……。

 本因坊と同席した海外取材の多いライターのXさん(仮名)。つい最近、某国のひったくりに荷物を盗まれたはいいが、保険会社から支払いを拒否され激怒していた。東京海上、大丈夫なのかよ。

 

3月7日 東京

 子供の頃、母親に連れられてよく遊びに来た、池袋西武デパートの屋上を久々に再訪。最後に来たのは中学2年の頃だから、なんと30年ぶりである。

 かつての賑わいは片鱗もなく、屋台も遊具もきれいさっぱり無くなって、雪がちらつくなか、熱帯魚店と釣り堀が寂しく営業していた。

 

3月8日 東京

 池袋駅西口の博大書店へ。実はここ、あの法輪功直営の書店である。老婆と言っても差し支えない店長が、たどたどしい日本語で話しかけてきた。

 中国人かと思いきや日本の方で、生まれは新宿。一年間の予定で中国に渡航後、相次ぐ動乱で帰国できなくなり、結果、39年間を中国で過ごす羽目になったという数奇な人生。

 毛沢東が死に、文革が終わってようやく帰国が叶い、中共への反感から法輪功に入信。現在は直営書店の店長を勤める傍ら、法輪功のサイトに当時の回想録を執筆しているという。

 私が訪れたさなかも、中国人のカップルが法輪功の書籍を箱単位で大量に運び出していた。こっそり大陸に持っていって、極秘にばらまくのだという。そんな重要かつ危険な任務の一部始終を、一見客に公開してもいいのか……と私が心配になるほどあけすけだった。

 色々ひっかかるところはあったけど、総じて善意の人々である。

 

3月9日 東京

 大久保近辺で知らなきゃモグリ。ド派手な看板で一帯の景観を下品に破壊し、ぼったくり料金で怪しげな治療を繰り返す性病のエキスパート・性病科マスダ医院の前を通りかかった。

 20年前、友人のひとりがこの病院で数万円ぼったくられ、それを知りながら受診した私もまた、顔色の悪い蝶ネクタイの院長先生から散々脅され、異次元的な診察を受けた。

 その顛末は拙著「アジアの路地裏に魔界を見た!」をご覧いただきたいが、久々にマスダの前を通り、興奮して写真を撮っていると、突然通りがかりの老人から声をかけられた。

「どっかの雑誌の記者? ここの先生、身体を悪くして休診中だよ。ほら、あの看板(高さ十数メートルのど派手なネオン看板)、近所じゃみんな困ってるんだよ、なにもてっぺんに性病科って書かなくてもいいのに……」

 と愚痴を言いながら、ヒヒヒッと底意地悪い含み笑いを漏らした。見上げると、二階の窓が金網で覆われていて、相変わらずすごい病院だと感心。

 撮影を終え、大久保通りを歩いていると、駅から離れるに従って、日に焼けたアイドルの写真や、韓国のテレビを録画しただけのDVD等をワゴンに入れて叩き売るような店が増えてくる。

 そんな界隈に「あそびにおいでよ!」というこれまだ巨大な看板を掲げた名物ペットショップ「ZOO」がある。

 店の2階は珍獣コーナー。「温和な性格のハムスターです」と書かれた檻に巨大タランチュラ。NHK大河ドラマ出演!と掲げた檻にネズミが一匹。狂ってる……。

 定価8万円のヤギ「メーさん」の檻を掃除するおっさんは、なんと片目の白内障。髪の毛はボサボサのホームレス風で、作業着は動物の毛まみれ。なんというか、2階で一番の珍獣はこのオヤジのような気がした。

 

3月11日 東京

 某社スマホの本体新品交換を20回以上繰り返したという伝説のケータイ乞食に教えを乞うた。

 曰く、家族名義のMNPには大量の委任状が必須。事前にショップで50枚ほどゲットしておけ。スマホは毎年買い換えろ。キャリアも毎年乗り換えろ。長く使うと損ばかり。ケースに入れるな、傷が付いたら新品交換。

 腰が重いと損をする。小銭だろうが儲かるなら迷わず金にしろ。ジーニアスに決定権はない。全てはマニュアル。 マニュアルに則った理由を述べれば即ち、連中が交換を断りたくても断れない。新品交換までの最短所要時間は8分。

 

(つづく)