従って、輝素の入れ替わっている塵の微小片が通常の岩石に衝突したとき、同じスピードで飛んでいる通常の塵の微小片よりも大きな損傷をあたえる理由は、じつははっきりしていません。しかし、それをいうなら……植物由来の解放剤がどういう風に作用するのか、じつはわかっていないし、すべての岩石がひとりでにあっさりと火だるまにならない理由も理解できていません。従って、なにが任意の固体に点火して、なにがしないのかを特定することからは、ほど遠いのです」

 ヤルダはいったん言葉を切って、生徒たちの表情をうかがった。だれが自分たちの直面している不確実さに苦しげな顔をしはじめており、だれがなにかまったく新しいものを探すという期待に浮き浮きしているかを知るために。

「わたしは答えを持ちあわせていません」ヤルダはいった。「わたしにできるのは、こうした謎を探求する助けになる道具をいくつかみなさんにあたえ、それから脇へ退いて、みなさんが発見するものを見ることだけです」


「ヤルダ、ちょっと話を聞いてもらえますか?」

 ヤルダがノートから顔をあげると、ラヴィニオがオフィスの入口でロープにつかまっていた。「もちろんよ」

 近づいてくるうちに、ラヴィニオの深刻な顔つきが明らかになった。「小麦だなんていわないで」ヤルダは請うようにいった。

「小麦は問題ありません」ラヴィニオが安心させるようにいった。「しかし、セイタカアワダチソウの一部に胴枯れ病が発生しました」

「一部というと?」

「すべてのセイタカアワダチソウが感染の徴候を示しているわけではありません」とラヴィニオ。「しかし、四つの薬草園すべてに、感染した植物が存在します」

「どうしたらそんなことが起きるの?」薬草園ごとに異なるスタッフが作業に当たっており、ラヴィニオさえそのすべてを訪れることを控えているのだ。一カ所で発生した感染が、ほかの薬草園にかんたんに広まるはずがない。

「はっきりしたことはわかりません」

「推測できないかしら、再発を防止するために」もし病気を制限する手続きに不備があるなら、早急に訂正しなければならない。

 ラヴィニオがいった。「おそらく回転開始の直前におこなった、植え替え作業のせいでしょう。空中の塵すべてを封じこめておくことは不可能でした。山じゅうに広がったはずです」

 それならすじが通る──そして災厄が避けられなかったとしても、少なくとも、二度と繰りかえさないですむ見こみはある。

 ヤルダは気を強く持った。「それで、どれくらい保つの?」

「それぞれの薬草園から三本ずつ、セイタカアワダチソウの挿し穂を取り、一ダースの新しい場所で育てはじめています」ラヴィニオは答えた。「移植は細心の注意を払っておこないました。どの薬草園にも入ったことのないふたりの運び人が、それぞれの挿し穂を別々に途中まで運びましたし、その植物の世話をする人々は新たに採用しました。しかし、じつをいうと、すべてが胴枯れ病を免れるとは期待できません」

「できないわね」

「その挿し穂から花びらを収穫するリスクは絶対におかせません。それが生長しきるまでは」ラヴィニオが話を続ける。「いまのところ、もとの植物からも多くを取りすぎないほうがいいかもしれません。少なくとも、新しいセイタカアワダチソウの一部がよい状態になるとわかる前に、それらをひどく弱体化したくありませんから」

「わかるわ」次の数ステイント のあいだ、ホリンの生産は低調になるだろう。それは避けがたいことだ。

 しかし、ラヴィニオは将来の供給を守るために、打てるかぎりの手を打っている。少しのツキがあれば、不足は苛酷なものではなく、長く続くこともないだろう。

 ヤルダはいった。「なにか変化があったら、知らせてちょうだい」


 薬剤部で、セフォラがホリン角剤の在庫を確認した。「現在の使用量でおよそ七ステイント は保ちます」セフォラがいった。「まだ処理中の花びらがいくらかありますが、一日か二日分しか供給量は増えないでしょう」

 打ち上げ以来、〈孤絶〉に乗っている女はひとり残らず、ダリアが用心に用心を重ねるために作成した表を使い、年齢に応じてホリンを定期的に服用してきた。いままで、薬草園は在庫を切らさないどころか、余りが出るほどのセイタカアワダチソウの花びらを供給してきた。備蓄を増やすのを制限していたのは、じつは薬の有効期限だったのだ。

「新しい服用表を作ってもらえないかしら?」とヤルダ。

「なにを基礎にするんですか?」

「在庫を保たせなければならない──でも、ホリンを温存しすぎて、ダメにしてしまったら元も子もない」

「それなら……どれくらい保たせるんですか?」セフォラが重ねて質問する。

「かんたんにはいえないわ」ヤルダは認めた。「薬草園がいつ生産を再開できるか、はっきりしないから」

「どの程度まで服用量を減らすつもりです?」

「どれくらい減らせるの、人々を危険にさらすことなしだと」

「その数字はだれも持っていません」セフォラが答えを返す。「ホリンの効力はきちんと研究されたことがなく、定量化されたこともありません。あるのは、裏づけの乏しい報告だけ。もし任意の年齢の女が、本人のいっていた服用量では守られなかったという話を聞かされた人は、服用量を増やすほうがいいと決めこむでしょう」

〈孤絶〉では、その不確実さは薬の絶え間ない余剰で帳消しにされることになっていた──そして収量豊かな薬草園が四つあれば、それは可能なはずだった。

「樹精でテストをはじめるのは遅すぎるんでしょうね」ヤルダは嘆いた。

「何年もかかります」セフォラが同意した。

「じっさいにホリンを割けるかどうかはいうまでもなく」

 セフォラがいった。「備蓄を十ステイント は保たせる服用表を作成します。それ以上は、質に信用が置けません。例外を作ってほしいですか?」

「例外というと?」

「年長の女の服用量を、ほかの全員と厳密に同じ割合で減らすと」セフォラは説明した。「直面するリスクがかなり大きくならないとは約束できません」

 ヤルダはいった。「つまり、もしかすると年長の女の場合、服用量を、たとえば十個のうち三個分、減らしただけでも……?」部屋の床にじっと横たわっていたトゥリアの姿を思い浮かべた。だれも数字を持っていない。だが、だれもが不安をかかえている。

「年長の女の服用量は、ずっと変えないままでもいられます」とセフォラ。「たとえばもし、一ダースと十歳以上の全員を例外にするなら、それは女性人口の六分の一足らずにすぎません。その人数分の減らさない量を、それよりも若い仲間全員のあいだで均等に配分すれば、ひとり当たりの余計に減る量はほとんどわからない程度になるでしょう」セフォラはヤルダとぴったり同じ年齢ではないが、同じカテゴリーに入るだろう。

 ヤルダはその提案をじっくり考えた。乗員たちの中でもっとも脆弱なメンバーを守るのは、より公平なことではないだろうか? 確実に、分別がある選択だとはいえる。もっとも経験豊富な女たちをいきなり奪われ、〈孤絶〉があてどなく宇宙空間を漂流するハメになる危険をおかすわけにはいかない。

 ヤルダはいった。「そうするべきだと思うわ」


「もし粒子が放物線の形をしたエネルギーの谷の中で動いていれば」ヤルダはクラスに告げた。「それは同じ調和振動を何度も繰りかえし、その周波数は、放物線の形状をあらわすたったひとつの数字によって決まるでしょう」

「バネの先端で揺れている重りのようにですか?」とプロスペラ。

「あるいは、重力下にある振り子のように?」ファティマがつけ加える。

「理想的なバージョンでは、そうです」ヤルダは同意した。「けれど、じっさいは、どちらのシステムにも摩擦がありますし、どちらも放物線的な位置エネルギーとはわずかにズレています。

 それでも、摩擦がなければ──あるいは、光の生成がなければ──粒子のエネルギーは保存されるでしょう。そして、それが一次元だけで行ったり来たりしているなら、たとえ谷が放物線のような形をしていなくても、粒子はつねに出発点に戻ってくるでしょう。従って、その運動は完璧に周期的になり、その周期よりも低い周波数を持つ調和振動は含まれないことになります。

 しかし、二次元以上の場合、物事はもっと複雑になりはじめます。エネルギーが保存されるときでさえ、粒子はその経路を正確になぞる必要はありません。もし谷の形が完璧に放物面であれば、こうなるでしょう──」ヤルダは例をスケッチした。