ヤルダはいった。「直交星群、つまり直交する世界が、始源世界から逆むきに 分かれた破片だとしましょう。それらは宇宙をぐるっと一周してきました。そしてわたしたちは、増大するエントロピーの矢が一致するように、それらと並んで動いています。両者の 矢が一致することはわかっています。なぜなら、そうでなければ、直交する星々はわたしたちの目に見えないからです。
しかし、ネレオの方程式は、輝素の周囲の場を、その来歴の方向を指すベクトルと結びつけます──そしてその 矢が、エントロピーと関係している理由はありません。輝素の来歴全体と同じ方向をむいてさえいればいいのです。そのベクトルで、輝素が正であるか負であるかが決まります。もしベクトルがわたしたちの未来を指している輝素と出会えば、それを正と呼びます。もしベクトルがわたしたちの過去を指していれば、それを負と呼びます」
「それなら、だれが輝素に矢を描いたんですか?」ファティマがジョークを飛ばす。
「まあ、それをいわれると」ヤルダは認めた。「このベクトルがなにを意味するか、じつはだれにもわかりません。それでも、ふたつの輝素が異なる符号を持つなら、区別できるはずです。近づけば、負の輝素は正の輝素と反発し 、負の輝素の周囲にある、正の輝素から見た位置エネルギーのパターン全体は逆さまになります。通常の峰はすべて谷になり、通常の谷はすべて峰になります」
「だから、ふたつを混ぜあわせたら、大変なことになるんですよね」プロスペラがいった。
「かならずしもそうではありません」ヤルダは答えた。「固体の中では、正の輝素をまったく同じ位置にある負の輝素と置き換えることはできません。しかし、負の輝素はとにかくそこにいたがらないでしょう──それから見れば、位置エネルギーのカーブは逆さまですから、谷の中よりは峰のほうにいたがるはずです。そしてもし峰に位置していれば、負の輝素はもとのパターンを乱さずに、補強するでしょう。