ヤルダはそのアイデアの大ざっぱな図解をスケッチした。「この図解を円環に巻きつけたものを描く気はないけれど、ふたつの方向の破片群がいずれ重なりあう可能性は、想像できるでしょう」
「では、始源世界は後方と前方の両方にむけて爆発的に分裂をはじめたんですか?」エウセビオのわくわくしているような声には、うっすらと疑いが混ざっていた。
「奇妙に聞こえるのはわかっている」ヤルダは譲歩した。「でも、始源世界がエントロピーの値が最小になる場所だとしたら、一方向と同時にその正反対方向にも爆発的に分裂するのが、当然というものでしょう。宇宙は無秩序な糸──全物質の粒子の来歴──のもつれあった巨大な塊でいっぱいだと想像してみて。そしてそのすべてがどこかで ひとつに束ねられて、完全な一直線に並べられている、と考えて。どうしてそんなことが起きるのかは全然わからないけれど、なにか特別なルールが最優先で押しつけられるようなことがないとすれば、糸は締めつけられてくびれた部分の両側に、同じ形で逃げだそうとするでしょう──そして正反対の方向を指す、ふたつの局所的な時の矢を生みだす」
「でも、細かいあれこれは置くとしても」エウセビオがいった。「宇宙が有限であるかぎりは──そして光方程式はそうに違いないといっているわけですが──疾走星群がもっと悪いなにかの前兆だという潜在的可能性があります」
「潜在的可能性 。そのとおりね」ヤルダはエウセビオに、その点を忘れてほしくなかった。「宇宙には、ふた組の世界の進路が交差しあう場所が存在しうるからといって、それがいまここで起きていることに違いない、ということにはならないわ」
「いまここで起きていること についてのほかの説明が、どれもあまりうまく答えを出していないことを別にすれば、ですね」エウセビオが言葉を返した。「もし疾走星群が、いちどきりの途方もない爆発の残骸にすぎないとしたら、破片はしだいにゆっくりとやって来るようになるはずでしょう?」
ヤルダはいった。「そうね──でも、速度の変化がほんの二、三年で測定できるかどうかは別問題。疾走星の速度を数値化するだけでも、大変な仕事なんだから」
エウセビオは納得しなかった。「でも、速度の変化を見てとるのが、どうしてそんなにむずかしいんですか? 爆発した星が、一陣の高速の塵とともに、もっとゆっくり動く大量の小石を放出するというのはわかります。でも、それでほんとうになにもかもの説明がつくなら、速さの違いは大きさの違いと同様にはっきりわかるはずなのでは?」
「そのはずよね」ヤルダは認めた。
「ぼくの伝聞の情報源によると、あなたはこうなることを」──エウセビオは空に次々とあらわれる色の尾を手で示した──「ほとんど二年前には、ある程度予測していたようですね。ぼくたち自身がその中にいると思われるものとよく似た、惑星や恒星の星群団 が存在して、それは細かい塵のかさ に周囲を取り巻かれている。その周囲の奥深くへ入りこんでいくにつれて、より大きな物体と遭遇するものと思われる」
「どんな構造をしているかを確実に知るのはむずかしいわ」ヤルダはいった。「わたしたちには世界の分裂についてなにもわかっていないのよ、重力や、破片どうしの衝突の長期的影響はいうまでもなく」
「でも、希薄な塵が縁のほうにあり、もっと大きさや重さのある物体がより中心近くにある、と想定するのは」エウセビオが食いさがる。「理屈に合わない意見 ではないでしょう?」
「そうね」ヤルダがどれだけそんな結論に大した意味はないといいたくても、自分がこれまでおこなってきた議論を丸ごと撤回することはできない。
エウセビオがいった。「だとしたら、もし時間 に関するぼくたちの概念が、空間 に関する星群団 の概念のひとつに該当するとしたら……ぼくたちはすべてがほぼ同じ速さで動く、だんだんと大きさを増す物体と遭遇していくことになるはずだ。まちがっていますか?」
エウセビオは図解を見せた。