「もしエネルギーがひとつの系からもう一方に移るなら、ふたつの系の運動量空間の体積の積は、この長方形の一辺に沿って増え、別の辺に沿って減る。だから、全体として積が増えたかどうかは、どちらの変化が大きかったかしだいというわけだ」
ヤルダはいった。「あなたは、ひとつの系はより熱く、ひとつはより冷たいという話をしている──でも、いったいどこから、この話に温度が出てくるの?」
コーネリオが答える。「それぞれの系で、運動量空間での体積を、エネルギーが変化したときの体積の変化率で割ったものを計算する。そうすることで、あらゆる関連する情報をただひとつの数字──温度──の中に集約することができる。このとき、もしひとつの系の温度がもう一方よりはるかに高いとしたら──両方ともが正、あるいは負だとしてだけれど──それは即、最初の系が二番目の系にエネルギーをあたえたなら、可能性の総数が増加する、ということを意味する。それが、エネルギーが熱いものから冷たいものに流れる理由だ。その結果は、より多くの可能性を含むことになる」
「ふぅ」ヤルダはコーネリオの最初の図表を自分なりに書きかえたものを呼びだして、最終段階の計算をしてみた。「そうすると、いちばん単純な例において、温度は最終的に……運動エネルギーと比例することになる! あれだけの計算をしておいて、両者がほんとうは同じものだという、素朴なアイデアに帰りつく」
コーネリオはヤルダに追い打ちをかけるのをこらえた。「もちろん真の定義は、きみが教わってきたこととなにひとつ矛盾しない──古い物理学での理想気体については。でも、もしきみが温度とエネルギーは同じだという考えにまだ固執しているなら、きみ自身の研究がぼくらになにをもたらしたか、見てごらん」