「そのとおり」コーネリオがいった。「だがここで、運動量はベクトル であることを思いだしてくれ。エネルギーは、そのベクトルの長さを教えてくれるが、方向に関する情報はまったくなにもない。粒子がむかっているのは、北、西、上、下、どれでもありうるが、ぼくたちにはわからない。そこで、長さがだいたいわかっている矢を持ってきて、いっさいの制約なしに、自由に回転させる。矢の先端の軌跡は球を──というより、長さが正確に固定されていないので、球殻を描きだす。〝運動量空間〟におけるその球殻の体積は、所定の範囲内のエネルギーを持ったままの粒子に対してひらかれた、すべての可能性をあらわしている」
ヤルダはいった。「そしてあなたはその各球殻の一部分ずつをスケッチし、運動エネルギーに対するその体積をグラフにした……そしてそれは、運動量自体と同じ種類の曲線になった」
「このケースでは、イエスだ」コーネリオがいった。「だがそれは、一般的に真というわけじゃないんだ! だから、類似点は忘れて、右側の曲線のことだけを考えて。そこからなにがわかる?」
「運動量空間における体積は、運動エネルギーが増えると大きくなる」ヤルダはいった。「それは意味が通るわ。より速い粒子の運動量は、より大きな球上に存在する。運動量が増えると球殻は薄くなってはいくけれど、広くなっていく球面の面積がそれを補ってあまりある」
「そして体積も増える」コーネリオが同意した。「さて、体積がもっとも急速に増えるのは、いつだろう?」
「最初の時点」とヤルダ。「エネルギーが低いとき、体積は急上昇する。そのあとは、だんだんとゆっくりになる」
「そのとおり」
「でも、それがわたしたちのしていた話とどう関わるの?」
「粒子は跳ねまわり、衝突し、エネルギーを交換する」コーネリオがいった。「エネルギーが低い 粒子に少しだけエネルギーをあたえて増やすと、粒子が使える運動量空間の体積は急上昇する。もしもっと速い粒子との衝突によってそのエネルギーを得たのだとしたら、速いほうの粒子にとっての体積は低下する──ただし、同程度に急低下するわけではない 」
「なら……そのふたつの体積を足す必要があるのでは?」ヤルダはいってみた。「そして、エネルギーがひとつの粒子からもうひとつに移るとき、合計がどうなるかを見ないといけないのでは?」
「違うんだな」コーネリオがいった。「そのふたつをかけあわせる んだ。それぞれの体積はひとつの粒子にありうる可能性をあらわしている──そしてひとつの粒子の可能性のそれぞれは、もうひとつの粒子のどの可能性とも組みあわせることができる。だから必要なのは、その積だ」コーネリオは新しい図表を描いた。