心塚牝鹿
枕元 震うスマホに 起こされる
無意味に五七五調になってるなと寝惚けた頭で考える。
スマホを掴み、メールより先に時刻を確認する。
午後三時半だった。
ひどい寝坊だ。平日ならすでに放課後なあたり笑えない。
中学の三年間、バスケ部に所属していた私は土日も規則正しい生活を送っていたから、起床時間がこんなぐちゃぐちゃになったのは産まれて初めてかもしれなかった。
で、だれからメールだ……と考え、LINEではなくメールを送ってくる人物なんて、ひとりしかいないことに私はしばらくして思い至り、慌ててメールを確認した。
『好きなものはなに?』
「な、なに?」
文面を確認した私の口から、戸惑いが漏れる。
しかし
……え、こわっ、なに? こわっ。これだけ?
と今度は送信主を確認するけどやっぱり先輩で間違いない。これで送り主が先輩じゃなかったら完全にホラーだった。いやまあ、現状も充分にホラーじみてるとは思うけど。
……お見合いかなにかかな。
これは早急に先輩にはメールのやり方を教えたほうがいいかもしれない。
じゃないと私の心臓に悪い。
……でもこの気味悪さも先輩の味と言えば味なんだよなぁ。
もう少し様子を見てみるべきか。まあ、それはそれとして。
「好きなもの……ねぇ?」
漠然とした質問だった。
一見ありふれた問いかけなんだけど、カテゴリを指定されないだけで、こんなに難解なものになってしまうだなんて。私は『好きなもの』というのを少しナメていたらしい。パッと思いつくのは『好きな食べ物』で、お肉が好きとか答えそうになるけど、無難すぎてなんか違う感じがする。先輩がなにを求めてこのメールを送ってきたのか推理してみるべきだろう。
……いやいや。ムリだって。
考え始めて一〇秒で諦める。
放送部関連かな? とも思ったけど、好きな朗読とか好きな早口言葉とかないし。いくら先輩でもそんな妙ちくりんな質問はしてこないと思う。いや、正確には『思いたい』だけど。
だから私は素直に答えることにした。
『私はバスケが好きですよ』
と打って送信する。
これで先輩が求めてる回答になるかは微妙な気がしたけど返さないよりはマシだ。
私はメールを送信し終えたことを確認して、顔を洗うために洗面所へと向かった。