14章 クレナルさんご乱心


 ようやく「森の出口亭」での仕事に慣れてきました。

 といっても、ぼくの仕事はおおむね配膳や食器洗いといった裏方の仕事ばかりで、覚えることは少なくて済みました。

 仕事量としては、クレナルさんと同じくらいでしょうか。彼女は接客がメインなのですが、元は働かせる立場だったからか、どうにもぎこちない様子で仕事に取り組んでいました。

 気をつけていればそれでいいぼくの仕事とは違って、クレナルさんは非常に気を遣う接客です。気の強い彼女が他人を相手にして下手に出るのは難しいらしく、たびたびお客さんに指摘されては喧嘩になってしまうこともありました。

 というか、いまでもそうです。

 旅人らしき身なりの男が、クレナルさんにいちゃもんをつけていたことが原因です。ぼくから見て、今日のクレナルさんにミスは一切ありませんでした。やれ来るのが遅い、やれ言葉遣いがなっていないだの、絡んできたのは旅人の男のほうでした。

 ぼくは厨房のほうから、ひっそりと見守っていました。クレナルさんの元に赴こうとしたら、オリネさんがここで見ているように言ったのです。

 いざというときは動くつもりでクレナルさんとオリネさんを見守っていると、オリネさんがクレナルさんをさりげなく背中に隠すようにして、男と対峙しました。

 最初はひたすら謝っていました。男のこじつけじみた言い分に、懇切丁寧に頭を下げて謝罪し、なんとか収めてもらおうとしていました。しかし、男は一向に口を閉ざさず、クレナルさんの悪口から、オリネさんの悪口、ついには宿屋すらもすがめ始めて、なじみのお客さんが止めに入っても男は悪口を言うばかりでした。

 堪えきれなくなったのでしょう、なにを言われても我慢していたクレナルさんが、ふいに顔を上げたのです。

「わたしを罵るなら好きにしなさいっ! でもオリネを、オリネを眇めるようなことだけは許さない!」

 それはそれは手本にしたいほど綺麗な跳び蹴りでした。我慢してきた分だけ激しかったです。

 クレナルさんのすらりとした脚が男の顔面に突き刺さると、相当強力だったのでしょう。男は吹っ飛んで入り口から逆戻りしました。

 思わず拍手をしてしまって、いつの間にか隣にいたミュケにわき腹をつねられてしまいました。


 男が出ていったことをきっかけとして、一連の騒動が終わったかのように思えたのですが、なんと男は町の騎士まで呼びつけてきて、クレナルさんを陥れようとしたのです。

 険しい顔つきの騎士が宿にやってきて、クレナルさんを見つけるとおもむろに彼女の腕に縄をかけ始めました。

 騎士さんの言葉では、クレナルさんは無辜むこの民を虐げた罪、だそうですが、宿の入り口でこちらの様子をにやつきながら眺めている昼間の男を見れば、それがまったくのでたらめであることが理解できます。なのでオリネさんが穏便に済ませようと騎士に事情を話したのですが、男が邪魔をしてきて話になりません。

 そこでぼくが、しばらく猶予をもらい、証人を連れてくることを騎士に提案すると、彼は渋い顔で頷いてくれました。

 幸いにも、昼間宿に来てくれたお客さんの家は知っていました。

 事情を説明して頭を下げると、みなさんは快くついてきてくれることになりました。

 あのとき、昼食に宿に来ていた人数は数十人ほどいましたが、全員がぼくについてきてくれました。

 結果、クレナルさんは暴力を振るったことだけを注意され、男は連行されていきました。

 なんでも、同じような振る舞いをほかの店でも行なっていたから、という余罪が、ついてきてくれたお客さんから明らかになったのです。

 騎士が宿から出ると、ぼくたちはみな一斉にため息を漏らしてしまって、顔を見合わせて笑いました。

 ずっと泣きそうな表情だったクレナルさんもようやく笑顔になってくれて、ひと安心です。


 そんなことがあった翌日のことです。

「あ、あの……クレナルさん?」

「うるさい!」

「ですが……」

「いいからっ、昨日のお礼をしてあげるって言ってるんだからアンタは黙って座ってればいいのよ!」

 どうしてこんなことになったのか、いまだに理解が追いつきません。

 ミュケとたっぷり楽しんだあと、「森の出口亭」に帰ってきたのですが、そのときからクレナルさんの様子がどこかおかしく感じていました。ミュケやオリネさんと話しているときはいたって普通なので気のせいだと思っていたのですが。

 いま思えば、ぼくの直感は正しかったみたいです。これからは自分を信じてみましょう。

「アンタが悪いんだから……あ、あんなにえっちなにおいぷんぷんさせてたアンタが悪いんだからっ!」

「ちゃんと体は清めたはずなのですが……」

「黙ってなさい!」

 理不尽です。

 抵抗しようにも、両手は椅子の肘かけに、両手は椅子の脚に縛られているので身動きすら取ることができません。

 まさか、同僚がこんなことをするとは思わず、ほいほいとついてきてしまったのがいけなかったのです。クレナルさんのお宅に招かれ、お茶を入れるから、と待つように言われて椅子を勧められたところから罠だったようですね。さすがに座ったままの体勢ではどうしようもありません。

 服をハサミで裂かれ、無理やり裸にされた膝の上に顔を真っ赤にしたクレナルさんが乗っかっている状況です。下手に暴れてしまえばクレナルさんごと倒れかねません。

「んんっ……お腹におっきいの当たってる……」

 不覚にも、この状況に興奮してしまいました。

 なんとか括りつけられた腕を動かしてみるのですが、きっちり縄で縛られていてびくともしません。そうしているうちにも息を荒らげたクレナルさんが首筋を舐め上げてきました。

「だめっ……我慢できない!」

 据わった目でまっすぐ見つめてきたクレナルさんは、自分のお腹に触れているぼくの肉棒を優しくつかんできました。やや気後れしているようで指先が震えていますが、逆にその震えがむずがゆい快感になって思わず腰を突き出してしまいました。

「あつくて、かたい……」

 ゆるりと動いたクレナルさんの指が、亀頭のくびれに引っかかって止まりました。初々しい手つきでくびれを撫でられて呻いてしまいました。

「あっ……痛かった?」

「いえ……刺激が強くて」

 亀頭が乾いた状態なので、こすられるとものすごい刺激になるのですが、よいところのお嬢様であるクレナルさんは当然というべきか、そっち方面の知識はほとんどないようでした。

「たしか、こんなふうに……」

 小さく口を開けたかと思うと、クレナルさんの唾液が亀頭に垂れ落ちてきました。ぬるい涎のおかげでクレナルさんがぎこちなく肉棒をしごいても痛みはなく、にちゅにちゅと響く水音が本当にいやらしいです。

「ど、どこでそんな知識を」

「うちのメイドがそういう本を持ってて……そ、それはどうでもいいのっ! ふぁ、んんっ」

 腰を浮かせたクレナルさんがぼくの亀頭に自らの割れ目を押しつけると、そのまま腰を落とそうとしました。しかし、つるりと滑って勃起したクリトリスを強くこすり上げてしまいました。

「んんんむぅっ」

 がたがたと体を震わせながら嬌声を我慢するクレナルさんは力が入らないのでしょう。腰が勝手に落ちていき、クリトリスと鈴口がこすれてしまいました。

「我慢できな……っんん!」

 ぶるり、とひときわ大きく体を震わせると、脱力してぼくに寄りかかってきました。耳元でクレナルさんの呼吸が繰り返されて、ぞわぞわと背筋に痺れが走りました。拘束さえなければこのまま押し倒してしまいそうです。

「はぁはぁ……ごめんなさい、いまので満足しちゃった」

「い、いえ」

 クレナルさんにはあまり性経験がないようなので致し方ありません。とにかく興奮を治めようとしたのですが、ふと肉棒に刺激が走りました。

「……気持ちよくなったら、白いの出すのよね?」

「そうですけど、無理しなくてもいいのですよ?」

「無理じゃないわ。あの、その……お、お礼よ。気持ちよくしてもらったお礼……」

 言うが早いか、クレナルさんはもう一度小さく口を開いて亀頭に唾液を落とすと、もどかしいくらいの速度で手を上下に動かしました。焦らされているようでこれはこれでよいのですが、さすがにもどかしいです。

 ぼくが口を開く前に、クレナルさんの手の動きが変化しました。肉棒をひねるようにこすり、とくにカリ首を重点的に責めてきます。ゆったりとした動きなのに刺激が強く、じわりじわりと射精感が込み上げてきました。

「だ、大丈夫? 痛くない?」

「うぅ……すごく気持ちいいです……」

 ぐりん、と手首がひねられて、クレナルさんの柔らかい手のひらの感触が肉棒を愛撫してきます。不安そうな、それでいて興奮した目つきのクレナルさんがまっすぐ見つめてくるので、思わず呻いてしまいました。

 体は小さいのに、ものすごく色っぽいのです。

 いつの間にか、唇が触れてしまいそうなほど顔を近づけていたクレナルさんの瞳に吸い込まれるようにして、ぼくはじっと見つめてしまいました。

 たぶん、それが合図だったのでしょう。クレナルさんがそっと触れるだけの口づけをしてきました。

 ゆっくりと唇が離れて、クレナルさんの頬にさっと朱が走りました。まるで、照れているのを誤魔化すように肉棒をしごく手を動かし始めて、すぐに激しくなりました。

 半ば焦らされていたので早くも限界です。

 ねちねちと粘っこい水温がますます速くなって、腰の奥からぞわぞわとしたものがせり上がってきた瞬間でした。

「ね、もう1回……」

 まるでぼくの射精を見極めたかのようなタイミングでクレナルさんの手が止まって、端正な小顔が近づいてきました。うううっ、これはなかなかつらい寸止めです。

 クレナルさん自身はわかっていないのでしょうが、あとひとこすりでもしてもらえれば絶頂だったこのもどかしさが絶妙というか、すさまじいというか。

 びくびくと悔しそうに跳ねる自分の肉棒が、早くしろとせがんでいるようです。

「んちゅ……んっ……んんぅ」

 二度目ともなると羞恥心よりも好奇心のほうが勝るのでしょうか。積極的に唇を押しつけてくるクレナルさんの動きに合わせて、彼女の口内に舌を押し込みました。

 身動きが取れないゆえの抗議なのですが、クレナルさんはどうやらぼくも乗り気だと勘違いしておずおずと舌を絡ませてきました。嬉しいことには嬉しいのですが、そうじゃないのです。

「っんん……すっごくえっちなのね……」

 艶やかにほほ笑むクレナルさんの唇につながる透明な橋が途切れて、ぼくの心臓が強く高鳴りました。

 ぶちっ、と場違いな音がしたのは、ぼくの手元からでした。思わず拘束を引きちぎってしまったようです。

「え……」

「ごめんなさい、もう限界ですっ」

 椅子の脚ごと拘束を解いて、とろんとした眼でぼくを見上げるクレナルさんを勢いよく抱き上げると、目についたソファに押し倒しました。

「きゃっ、あ、ちょ、ちょっとっどうして!? 結構きつく縛ったのに……!」

「ごめんなさいっ! いまは早くっ」

 驚いて手足をばたつかせるクレナルさんを押さえつけるようなことはせず、そっと両手首をひとまとめにつかんでクレナルさんの頭上で拘束すると、どこかで見覚えのある光景になりました。

 が、本当にそれどころではないので捨て置いて、体重をかけないようにクレナルさんに跨ってぐっと腰を突き出しました。

 狙った先は秘部ではなくて、瑞々しい唇です。

 柔らかく、てらてらといやらしく唾液に濡れるクレナルさんの唇はまるで誘っているようでした。


『紳士を目指すのであれば、ときには強引な姿勢も必要だ。ただ紳士的であればいい、というほど紳士は安くない。己の力を見せるのもまた、紳士には必要である』


 ひさしぶりにその一文を思い出したぼくは、ためらいなくクレナルさんの唇に亀頭を押しつけて強引に挿入しました。

「んむむぅ! んくっ、んむ……」

 まずは口内の感触を楽しむため、挿入したままにします。熱く、それでいてねっとりと絡みつく粘膜が触れているだけでも快感です。

 責める目でぼくを見上げるクレナルさんですが、歯を立てることもなく、おとなしくされるがままになっています。顔はやや紅潮しており、押し倒されている状況に少なからず興奮しているようでした。

 とはいえ、あとが怖いのはあいかわらずで、できるだけ早く済ませてしまったほうが怒られずに済むのではないのでしょうか。

 あまり激しく抽送してはむせてしまうでしょう。射精感を堪えるつもりもなく、ゆるゆると腰を動かしました。

 ある程度は噛みつかれることも予想していたのですが、そんなことは微塵も起こらず、むしろ歯を立てないように亀頭を舐め回してくれています。協力的なのは淫らな空気に当てられてのことでしょう。

 飲み下しきれなかった唾液が窄めた唇の端から垂れ落ちていきます。それでも熱心にぼくの肉棒をねぶってくれるクレナルさんに感動すらしていました。

「うあっ、もう出ます!」

 せめて外に出そうと射精の寸前で腰を引きました。

「あっ、クレナルさんっ!」

 なんと、クレナルさんが拘束を振り払ってまでぼくの腰にしがみついてきたのです。ぐっと喉奥まで肉棒を迎え入れ、せびるように鈴口を舌先でほじられては引き抜くのは無理でした。

 目の前が真っ白になるほどの快感が弾けて、あえなくぼくはクレナルさんの口に出してしまいました。

「うああ、吸われる……」

「んんんんっ! んくっ、んくっ」

 精液を根こそぎ絞り出すように思いきり吸われ、吐き出すようにと言う間もなく、クレナルさんは1滴残らず飲み干してしまいました。


「んんっ……んちゅ……もう最悪……でも美味しかった、かも?」