4 トトの巣
「かあさん、僕、おねがいがあるんだけど」
トトが夕ごはんの後、階段のそばで、ぐずぐずしていたかと思うと、思いきったようにいいだしました。
「僕、自分の部屋がほしいんだ、だめ……?」
「あっ、そ、そうねえ」
キキはおどろいたように体をぴんとさせて、トトを見つめました。キキはこのところトトが毎日姿をかえるように大きくなっていくのに気がついていました。とんぼさんに似て、背の伸びははやく、もうすこしでキキを追いこしそうな勢いです。
ついこのあいだまで、いつもぺたりとキキにくっついていたのに、このごろは、じょうずにキキと体がふれるのをさけています。外を歩くときも、ニニはキキと腕をくみ、ぶらさがるようにしてるのに、いつのころからかトトは手もつながなくなりました。
「ひとりの部屋がほしくなったのね」
キキは顔をかたむけてうなずきました。
「そういえばにゃあ……オチビさんたち、ずいぶん大きくなったなあ」
めずらしくキキの足下にすわっていたジジが、遠い昔をなつかしむようにいいました。
「ほんとよね、ジジ、わたしもびっくりよ。まるで夏のさかりのくすりぐさみたいにのびてさ。そんなに急いで大人にならなくたっていいのに」
キキは今度はジジに顔をむけて、いいました。
「ジジ、わたしのかあさんとないしょばなしはやめてよ。わたしたちにわかるようにいってよ」
ニニがふりむいてむっとしたように、ジジにいいました。
「そりゃ、むり。悪いけどむり。われらは特別な関係だからな」
ジジは顔を上にむけ、鼻先でくんといばった音をたてました。
「なに、その態度! でもね、わたし、ジジとかあさんの話、半分ぐらいはわかるんだから。長い付き合いだからね。顔つき、しっぽの動きでわかっちゃうのよ。用心したほうがいいよ。ジジはわたしたちのことまだ赤ちゃんだと思ってるんでしょ。当たりでしょ」
ニニはジジにむかって、イーッと口をつきだしました。
「ばかにしないでよね。わたしたち、もうだいたいのところ、大人なんだから」
「あんなに世話をしてやったのに、このいばりようだよ」
ジジもニニにむかって、ふーっと体をふくらませました。
「そうよね、ジジ、あんたもいっしょに育ててくれたものね。ふたごの赤ちゃんは大変だったもの」
キキがいいました。
「えーっ、ジジがわたしたちの世話したっていうの? それは聞き捨てならないわ。そばに来て、おしりのにおいをかいだだけじゃない。鼻をぶるぶるってすると、かあさんがおむつかえてくれたりしてさ。それだけじゃないの。あの態度、ちょっと失礼だったわよ、ねぇ、トト、おぼえてるでしょ」
「ジジはいつもそばにいたけど……そこまでは……」
トトははにかんで、首をすくめました。
「そういえば僕、ジジとはいはいごっこしてたよね。あれって、あそんでくれてたの?」
「わたしだって、みんな、ちゃんとおぼえてますよ。わたしは、天才だからね……ふふふ」
ニニの言葉をききながら、ジジはつんと顔をあげて、自分の家のほうに歩きだしました。すると小さな赤ちゃん猫が二匹ころがるように走ってきて、ジジの背中に飛びのりました。ジジは、ぐいっとしっぽをたてると、右、左とおおげさにふりはじめました。あかんぼの世話はなれてるんだからとでもいいたそうです。
「かあさん、わたしはね、部屋なんかいりませんよ」
ニニがいいました。
「あら、そう。それはまたどうして……」
「だってむりでしょ。このせまさだもん。わたしはものわかりがいいからさ。トトといっしょでいいよ、我慢する」
「また、ニニはいい子ぶっちゃって。ほんとはね、いっしょだと僕を奴隷のようにつかえるからだよ。命令できるもんね」
「あら、そんなこといつした? わたしは弟を教育してるのよ。トトは、おぼえがはやい、いい子だもん。才能は生かしてあげなくちゃね」
ニニはにっと鼻にしわを寄せました。
「ねえ、とんぼさん、女の子のニニが自分の部屋がほしいというのはわかりますよ。そろそろはずかしい年ごろですから。でも、いいだしたのは、トトよ。それにトトったら、魔女になりたいみたいなこといってるし。どうして、うちはこう、いつも反対になっちゃうのかしら」
キキはとんぼさんにいいました。
「へー、そうかい。だけど、なにも魔女になれないからっていって、魔女じゃないとはいえないさ」
「えっ、なに、それ? どういう意味なの? あなたって、すぐなぞなぞみたいなこというんだから」
「キキはもともと魔女だから、そこらへんのことはわからないかもしれないけど。ま、魔法っていうのは、かたく考えることないんじゃないか。トトはトトでなにかを見つけるさ」
「でも、なんとか助けてあげないと、トトには思いどおりにならないことばかりだもの。せめて部屋のこと、どうにかならないかしら……ねえ、あなた、考えてよ。でもここの家をひろげるのは、むりよね。昔とちがって、家がたてこんじゃったから。おソノさんのお店だって、ひろげたくてもできないのよ」
「そうだねえ、いい魔法はないもんかねえ」
とんぼさんは苦笑いをしました。
キキの家はもともとグーチョキパン屋さんの粉置き場でした。キキがこの町にやってきたとき、おソノさんが、その二階をかしてくれたのです。その後、ケケが乗りこんできて、一階に短いあいだ住んでいました。キキが結婚すると、粉袋はおソノさんの物置にうつされ、一階は台所と居間に改造されて、キキの仕事机、とんぼさんの机、そしてまんなかに大きなテーブルがおかれました。キキはキャプテン・ゴーゴーの家の大きなテーブルにあこがれていたのです。それから、ふたりの子どもたちが生まれると、仕切りをつけて二階を二間にしたのです。それでもういっぱいいっぱいです。ギリギリです。
トトが自分の部屋がほしいといっても、その希望をかなえてあげられそうもありません。
とんぼさんはトトとニニを前にしていいました。
「どうだい。自分の部屋の設計図をかいてみたら。こういうのがいいなっていうのを」
「わー、たのしそう。わたしもかこうっと」
いちばん先に返事をしたのはキキでした。
「えーっ、かあさんもするわけ。それってしらけるよ。子どもの問題に親がはいるのよそうよ、ね」
ニニがすかさずいいました。
「あら、悪い?」
「だってわたしたちの部屋だもん。ふつうの親はだまって、我慢でしょ」
「どうして? みんな、いっしょが、たのしいじゃない?」
「みんな、いっしょがいやだって、トトはいってるのよ。それでこの話始まったんじゃない」
キキの顔はみるみる不満でふくらんでいきました。
「それじゃ、いいわよ。自分たちで考えなさい」
「そうです」
ニニはうなずきました。
「とうさん、じゃ、僕のすきにかいてもいいの?」
「ああ」
「でもおソノさんちの土地なのよ、ここ」
ニニがいいました。
「そういうことも考えて、すきにやってごらん」
「ふふふー、おもしろくなってきたぞ、きたぞ」
ニニはそういうと、足音も高く、二階へあがっていきました。
「じゃ、ヨーイドンだね」
トトもニニを追いかけて、あがっていきました。
「つまらないわ。どうしてわたしは入れてもらえないの? いつもわたしを仲間はずれにするんだから……」
キキは口をとんがらせて、不満顔です。
「えっ!」
とんぼさんはおどろいたように顔をあげました。
「君はトトとニニとおない年なのかい。しっかりしてよ、魔女のおじょうちゃん」
「くーう」
足下から、ジジのからかうような声が響いてきました。
キキはむっとして、天井を見上げました。
光の届かない隅に、ぼーっと水玉模様のスカートが浮かんできました。
「おそろいがいいの、おそろいがいいの」
小さいときの自分の声がきこえます。
「となりのルリちゃんと、いっしょがいいの。ほしいの、ほしいの」
キキはお店の床に寝ころがって、足をばたばたさせました。
「だって、魔女だから、いっつもべつだっていわれるんだもの」
このとき、オキノさんも、コキリさんも、声をそろえていいました。
「だめ。まねっこは」
(わたしって、子どものときから、仲間はずれによわいんだ)
キキはずっと、魔女だからっていう言葉にしばられてきたのでした。とんぼさんといっしょになってずいぶんなおったと思ったのに、今でも特別に見られるのがいやで、仲よしこよしずきが、なおらないのです。
「わたしって、かわってないな……でも、仲よく、いっしょに、にぎやかにやりたいのよ、やっぱり。変かな」
キキはそれでも、成長のおそい自分にすこしはあきれているのでした。
ニニが筒のように丸めた紙をかかえて、歩いています。つんのめるような急ぎ足です。そして「建築設計」と看板がかかったお店にはいっていきました。
「こちらで、家のたてかえなんてしてくださいます?」
「ええ、やりますよ。犬小屋から、王様の宮殿まで」
出てきたどっしりと大きい男の人が笑顔でうなずきました。ニニは顔をしかめました。
(わたしのこと、子どもだと思ってる)
「部屋を一つふやしたいんです。でも場所がないから、トンネルの部屋にしたいの。この家の下に部屋を作ったらどうかと思って」
「ほほーう、これが設計図か……穴ほりか……夢の部屋だね」
男の人はまだ笑い顔で、ニニを見ました。
「はじめは、こうでなくちゃ。自由に考える、これがいちばんだよ。これが、子どもの特権だ。ね、おじょうちゃん」
ニニのほっぺたはぶーとふくらんで目もとんがってきました。
「できないんですか、できるんですか?」
「うーっ、やってやれないことはないけどね。いちばんかんたんなのは今ある家をそのままどこか、となりにでも動かせるといいんだが……でもこの町なかじゃ、むりだな。場所がないよ」
「それなら、大丈夫。ごぞんじかもしれないけど、わたしのかあさん、魔女なの。宅急便屋をやってて、カバだって運んだことがあるのよ。トンネル掘るあいだ、家を空からつるしてもっててもらうわ。なんとかしなくっちゃって思ったら、なんでも運べるって、かあさん、いつもいってるもん」
「……そ、そう、かい?」
男の人は、ひっくりかえるような声でいいました。でも目はおかしそうに笑っています。
「すてきなかあさんだね。でもまず、むりだな。すくなくとも十日はつりさげてもらわなくちゃならないよ。そのあいだ君はどこに住むの? いっくら魔法だって、むりだろ。魔女のおかあさんでも、むりだよ。でもね、おじょうちゃんのような、なんとかしなくっちゃっていう冒険の気持ちはだいじだよ」
男の人はなだめるように、もう一度、「冒険はだいじだ。わすれないようにね」といいました。
ニニはしょげて帰ってきました。でも、できないといわれると、なおさらトトに部屋を作ってあげたくなりました。なんとかしなくっちゃっていうこの気持ち、ニニは気に入ったのです。
一方、トトも変な絵をかいていました。
「おソノさんが、『家もパンみたいにふくらむといいのにね』って、いったんだ。それで、ふくらませちゃった」
その絵は屋根にあんパンみたいな形のものが乗っているものでした。
「ふくらませるの? ふくらし粉入れるんだ。トトは、お菓子作りうまいもんね」
ニニがからかうように、口をはさみました。
とんぼさんは、トトの絵を前にして、天井を見上げています。
「ふーん、ふくらませるねえ。それならいけるかもしれないなあ。トト、いいかもしれないぞ」
「あら、それ、また、あなたの風船作戦ですか?」
「いや、トトの絵のように、ちょっぴりふくらませるのさ。空にむかって。大家さんのおソノさんたちにおねがいしてね」
「パンを部屋にするの? ほんとに! とんぼさんは、いつもわたしを
キキは
「いや、まじめな話だよ。なにもパンで作るってわけではないんだ。でもこういうやりかたは自然界にはいくらでもある話さ。泥蜂なんか、壁に泥で子どものために巣を一晩で作ってしまうんだからね。うまいもんだよ。なにせ、僕は昆虫の仲間、とんぼだからね。息子の巣ぐらいなんとかしなくちゃな」
とんぼさんはにやにやと笑いながら、目をぱちぱちさせて、
「ま、ちょ、ちょいと魔法をつかってな……」と、とぼけたようにいいました。
しばらくして、小さな小屋のようなキキの家の屋根に、これまた小さなヘンテコに丸いコッペパン形の部屋ができあがりました。パンといえば、すこしはかわいいけど、頭にできたたんこぶみたいです。トトとニニの部屋の天井に穴をあけ、壁にくっつけた垂直の
「トトったら、出たり、はいったり、蜂みたい。でももうすこし背がのびたら、足をちぢめなくちゃね」
キキはのぞいておかしそうにいいました。
「そうなったら、窓から足をにゅっと出して寝るよ」
トトはもう、うきうきです。
「巣立ちっていうのもあるからな。それまでこれで間に合うさ」
とんぼさんも満足そうです。
ニニはトトがうらやましくなってしまいました。トンネルの部屋もいいけど、空にむけてふくらんでる部屋は、なんだか遊園地みたいで、おもしろそうです。
「いいなあ、いいなあ。弟なのに、わたしの上に住むわけ。今からいっとくけど、乙女の部屋をじろじろ見たりしないでよ」
「だれが、見ますかね。そんな
「気分悪いんだったら、えんりょすることないわ。かたづけてくれてもいいのよ。あ、いいこと考えた。ものがふえたら、トトのところにおいてもらおうっと」
ニニはなにがあってもあいかわらず調子がいいのです。
「チーロコ」
ニニは校門を走って出ようとしているチロコを追いかけてよびました。
「ねえ、ちょ、ちょっと、まってよう。いっしょに帰ろうよう」
チロコは立ちどまってふりむきました。
「わたし、やることがあるのよ。だからね、ごめん、ニニ」
「え、やることってなに? わたしもいっしょに入れてよ、ねえ、いいでしょ」
ニニは追いかけていいました。
「ニニ、あんたって、なんでもいっしょがすきなのねえ。くっつくのすきねえ」
「だって、ひとりより、ふたりがいいでしょ」
「じゃ、お手洗いいくのもおててつないで、いっしょにいきたいの? レアちゃんたちみたいに。わたしは、そんなの、いやだ。べたべたは、おーいやだ」
「やだって……、昨日までわたしとべたべたしてたじゃない。だって、わたし、チロコがだいすきなんだもん」
「あんたって、ずいぶんかんたんにだいすきっていうのね」
「かんたんじゃないよ。いちばんだいすきなんだよ、それ、いやなの?」
「へーっ、すきに順番つけるわけ。魔女って、差別してもいいの……?」
「……そんなのわたしの自由よ。魔女とは関係ないでしょ。すきにさせてよ」
「まあ、そうなんだけどね。ニニ、ところで、あんた、そんなこといってもやっぱり魔女になるんでしょ」
「まあ、そうなっちゃうかなあ……」
「それって、生まれたときから、お金持ちだってこととおなじよね」
「そんなことないよ。魔女って大変なんだから」
「でもいいじゃない。一つは決まってるんだから。やること見つからなかったら、魔女になればいいんだから。ふつう生まれのわたしはこれから、探さなくっちゃならないの。大変なんだから。だから、はい、さいなら」
チロコはニニの顔も見ないで、駆け出しました。
「ねえ、どこにいくのーよーう」
ニニは、体をすねたように動かして、さけびました。チロコは走りながら後ろをむいて、右手をあげて、ひらひらとふりました。
ニニは目をまんなかに寄せ、泣きそうな顔で、チロコの姿が遠くなって、角をまがるまで見ていました。それからじっとどこかをにらみつけていたかと思うと、足でばんと地面をけり、のろのろと歩きはじめました。
三日前まで、チロコといっしょにあそんでいたのに、歩くのだって、いつもばっちり腕をくんでいたのに。なぜなぜとつぜん……こうなっちゃったの? ニニには理解できないのです。わたし、悪いことしたかしら……それともチロコにわたしよりすきな友達ができたのかしら……ニニは目をしばしばと動かしました。口もからからしています。でもすぐそれをはらうように、力を入れて、走りだしました。
「ねえ、キキかあさん」
ニニはいすにすわって、書き物をしているキキに体当たりするように寄りかかりました。
「ねえ、かあさん、わたしのことすき? 愛してる?」
「なに、いきなり、どうしたの。もちろん、もちろん、でしょう」
「かあさん、わたしねえ、そろそろ飛ぶ練習しようかと思って」
「おや、おや、それはまた、どうして」
キキは、おどろいたのと、うれしいのがまざった顔つきで、ニニを見つめました。
「飛ぶ練習したら、魔女にならなくちゃいけないの? 途中でやめたっていいんでしょ」
「そりゃ、やってみて、なりたいって思ったらでいいんだけど。そう、魔女にむりやりはなしだけど……。でも飛ぶ練習はちょっと大変よ」
「落ちたりする?」
「まあね。多少はね」
「痛かった?」
「そりゃもう。でもイタタ、キモチ、ヨカッタって感じかな」
キキはふふと笑いました。急に出てきたにきびを気にしているうちに、木にぶつかりそうになった子どものときを思い出したのです。
「かあさん、なに笑ってるの?」
「ふふふ、なんでもない。そうだわ、鈴をつけましょう。まずそれから」
「なに、鈴って」
「落ちたときのために、木の枝に鈴をつけるのよ。うっかりしててぶつかると、チリチリ鳴るでしょ。あっ、落ちてるって、それで気がつくの。そして、また飛び上がる。これはコキリさんが、わたしのために考えだしたやりかたなの。わたしが魔女になったとき、コキリさんが、またいるときまでしまっといてあげるっていって、そしてあなたが生まれたとき、送ってくれたのよ。だからいつでも鈴はつけられるわ」
キキは立ち上がって、うきうきと戸棚から箱を取りだしました。
「今は町なかじゃ、練習するのはむりだから、町はずれの森がいいわ。そう、子どもたちが、お泊まり会で、まっくらくらさんぽをするあの森のあたりがいいわ」
「えーっ、あんなとこ? 町じゃだめなの? それじゃ、見せびらかせないじゃない。つまんなーい」
「見られないほうがいいかもよ」
キキはまたくすくすと笑いました。それから箱のひもをほどいて、鈴を取りだしました。小さいのや、大きいのや、いろいろです。
「ああ、さびちゃってる。みがかなくちゃね。あっ、そうだ、もう一つあるはず……」
キキはまたふふふと思い出し笑いをしました。
「かあさん、さっきから笑っちゃって。なに、それ? うれしいこと?」
「ええ、もちろんよ。だいじな思い出なの」
「どうせ、とうさんのことでしょ」
「あたり!」
キキは大きな声でいいました。キキはうれしそうです。いつも生意気ばっかりいっているニニが自分の助けを必要としているのです。
その夜、キキは麻の布で鈴をみがきはじめました。
手伝おうかといったとんぼさんに、キキは「これは、たぶん、わたしの仕事だわ」というと、一つ一つ、力を入れて、こすりつづけました。そばで、とんぼさんとニニがのぞきこんでいます。そして、すこしはなれたところに、体半分むこうをむいて、見て見ないふりしてるトトがいました。とんぼさんはときどきふりむいては、トトの様子を気にしています。
鈴はにぶい銀色に光りだしました。
「そうだ、かんじんのほうきはどうするんだい」
とんぼさんがキキにいいました。
「それなら、わたしのを一つ、あげるつもりなの。こうなるかもしれないと一本、だいじにとっておいたの。つかいこんであるから、飛びやすいわ。わーっ、また思い出しちゃったわ。昔、コキリさんもおなじこといってた」
「でも、一つしかないじゃないか……二本、必要だろ。
そうだ、そのほうきのふさをほぐして、半分ずつにして、あとはあたらしい柳の枝をたせば、二つになる。これならキキの気持ちもはいるし。よし、とうさんが作ってあげよう」
キキがびくっと顔をあげました。ニニも目を丸くしてとんぼさんを見ています。トトはといえば、あまりおどろいて、口をぽかんとあけたままです。
「な、僕に、まかせてくれ」
とんぼさんは、ふだんとかわらない様子で、みんなの顔を見回しました。