はじめに
いまから三十数年前、草山にかこまれた小さな町に、キキという名前の女の子が生まれました。この女の子にはちょっぴり秘密がありました。おとうさんのオキノさんはふつうの人なのに、おかあさんのコキリさんは魔女だったのです。
キキは十歳になったときに、魔女になることを決心しました。でも、昔の魔女のように、たくさん魔法はつかえません。ほうきで空を飛ぶことしかできないのです。ただ生まれたときからいっしょに育った、黒猫のジジとは、魔女猫言葉で話ができます。これも魔法といえるかもしれません。それと、おかあさんのコキリさんに教えてもらった「くしゃみの薬」を作ることができるぐらいです。
魔女は十三歳になると、満月の夜に旅立ち、まだ魔女が住んでいない町や村を見つけて、自分の魔法を生かしながら、一年間、くらすという決まりがあります。これは一人前の魔女になるための見習い期間なのですが、それといっしょに、この世にはもう不思議はないと思っている人たちに、まだ不思議はあるのですよ、と知ってもらうためのたいせつな役目でもありました。
この物語のキキもジジと海辺の町、コリコにやってきました。そして、ほうきで空を飛べるという魔法を生かして、宅急便の仕事を始めます。はじめはなかなかなじめなかった、コリコのくらしも、パン屋のおソノさん夫婦に助けられ、また町の人たちからもあたたかく見守られて、しだいにたのしいものになっていきました。
あれから長い年月が過ぎました。そのあいだキキはほうきに乗っていろいろなものを運びました。動物園のカバを運んだり、おじいさんのさんぽという不思議なものを運んだり、泡立て器を運んだり、「花嫁さんのベール」を運んだり、海に沈んでいたかぎを運んだり……。また、いろいろなこともおきました。悲しいことも、わくわくも、どきどきもありました。人を愛するよろこびも、いっしょに不安も、やきもちも……。なにしろ長いあいだの出来事です。本にしたら五冊分ですから、それはそれはいろいろありました。
そして、キキは、長年の恋を実らせ、とんぼさんと結婚します。ふたりの子どもにもめぐまれました。この六巻目のお話は、キキの子どもたちの十一歳の春から始まります。おかあさんになったキキ、おとうさんになったとんぼさん、おソノさんたちにも、どうぞ会ってやってください。それにジジの家族もおわすれなくね。