はじめに
十七年前、深い森となだらかな草山にかこまれた小さな町にキキという名前の女の子が生まれました。この女の子にはちょっぴり秘密がありました。おとうさんのオキノさんはふつうの人ですが、おかあさんのコキリさんは魔女なのです。ですからキキは半分魔女、ということになりますね。十歳になったとき、キキはおかあさんのように魔女として生きていこうと思いました。
でも昔の魔女のようにすごい魔法はつかえません。たった一つほうきで空を飛ぶことだけです。これならそんなにへたではありませんよ。生まれたときからいっしょに育ってきた黒猫ジジを乗せて、宙返り二回転半空中静止だっておちゃのこさいさいです。そうそうキキとジジにはふたりだけの魔法がありました。それはキキは
このお話の主人公キキも十三歳の満月の夜、家をはなれてジジと海辺の大きな町コリコにやってきました。そこでグーチョキパン屋さんをやっているおソノさん夫婦に助けられながら空を飛べる魔法をいかして宅急便の仕事を始めます。そしてなんとか一年間の見習い期間をぶじおえて里帰りしました。(『魔女の宅急便』)
ところが、生まれた町にもどったキキはやっぱりコリコの町で生きていこうと思うようになります。あの町にはとんぼさんというたいせつな友だちもいるのです。町の人たちもキキの仕事をあたたかく見守ってくれます。そして二年目のコリコの町でのくらしが始まりました。いろいろな人と出会い、いろいろなものを運び、キキはお届けもののなかにさまざまな人の心がこめられていることに気づくのでした。つらいこともたのしいことも経験しながらキキのくらしはつづいていきます。でもキキはしだいになにかおちつかない気持ちになってきました。もっと魔女として自分の世界をひろげてみたい、と思うようになります。そして魔女になりかかりのころめんどうくさいとやめてしまったくしゃみの薬づくりに挑戦します。
やがてキキの家の前には「魔女の宅急便」の看板とならんで「くしゃみのおくすり おわけいたします」という看板もかけることになりました。
こうして町の人たちにささえられ、キキのくらしはますますいそがしくなっていきました。(『魔女の宅急便 ②』)
そんなある日のこと、キキの前にひとりの少女があらわれました。頭の上で髪の毛をふたつにぼうぼうと結いあげ、長いスカートをひきずったその子はしゃがれ声でケケと名乗り、おどろくほどのずうずうしさで、キキのくらしにはいりこんできたのです。
はたしてこの子はだれなのでしょう。コリコの町でのくらしも四年目をむかえて、順調にすぎていたキキの毎日は不安でいっぱいになります。そんなキキの気持ちとは反対にケケはとんぼさんとも親しくなり、おソノさんにも取り入っているようすなのでした。それにジジまでケケを認めはじめた気配です。キキはどんどん自信をなくし追いつめられていきます。
「あの子が、じゃまする。わたしの大事にしてるコリコの町のくらしを」
そしてもうこの町にはいられないと思うようになります。どこかに行ってしまおう。キキはどこまでも高く、遠くへと空を飛んでいきました。こんなせっぱつまった気持ちのなかでキキは思わずさけびます。
「わたしは、とんぼさんがすき」
やがて、キキはケケを理解するようになります。そしてケケは自分の町へ帰っていきました。とんぼさんも遠くはなれた町の学校にはいるために町をはなれることになりました。(『魔女の宅急便 ③』)
そして今、キキの十七歳の夏が始まろうとしていました。