8 ぞうさんからうさぎさんへ
「わたし、このごろちょっと暗い?」
キキはジジにいいました。
「暗いって、心のこと? ずーっと暑い日がつづいているからだよ。ぼくだって、気分ぐだーっとして、どっかにひっこしたいくらいだよ」
「暑さのせい? そうかな……けさ鏡見てたら、口がへの字にさがって見えた」
キキは指を口のはじにおいて、ぴっとしたにひっぱりました。
「くっくっく、それって、べそ口」
ジジはきゅうにキキの肩にとびのってきて、からかうように耳もとでささやきました。
(べそ口……そうかも……)
ジジのほかは、キキがこのところあれこれぐじぐじと気にしてるなんて、だれも思わないでしょう。明るくかわいい魔女さんでとおっているのですから。でもケケは、キキが不安な気持ちでいることを、見すかしているような、おもしろがっているような気がするのです。
四つも年下の子どもなのにと思っても……キキはそのことばかり気にしている自分もいやなのでした。
ルルルルー ルルルルー
電話が鳴りました。キキは受話器を取りあげると、せいいっぱい元気な声でいいました。
「こちら魔女の宅急便です。どんなとこへも、どんなものでも運びます」
「わー、あいかわらず、はりきってるのねえ」
電話のむこうから、明るい声がひびいてきました。
「あっ、モリさんね、ひさしぶりねえ。どうしてるの? ヤアくん、元気? えーっ、もう七つになったの? あいかわらず、やんちゃしてる?」
キキが「ヤアくん、元気?」といったとたん、ジジはさっとベッドのしたにとびこんでしまいました。ジジはこのヤアくんがにがてなのです。コリコの町からだいぶはなれた森のなかで、おねえさんとふたりだけでくらしているヤアくんは、みごとに元気な男の子で、会うと、ジジにはあまりうれしいことはおきません。飛んでるところをパチンコで打ちおとされ、しっぽがレの字にまがってしまったり、そのつぎのときはそのしっぽを思いっきりひっぱられたり、だいいち、だいすきって抱きしめるのだって、なみたいていな抱きしめかたではありません。胸がつぶれそうです。
キキは、ジジのあわてぶりを横目で見ながら、くすりと笑いました。
「どう? モリさん。今、森はきれいでしょ? 木にはあたらしい芽がでて」
「やだわ。そんな季節はもうとっくにすぎたわよ。町にくらしていると、やっぱりすこし自然時間がずれちゃうのねえ。たまにはあそびにいらっしゃいよ。これでね、いなかもなかなかいいものよ。ねえ、わたし考えたんだけど、こんど、『森のおくりもの』っていうお店を、うちのニレの木のしたで開こうと思っているの」
「わあ、いいわね。すてき」
「そしてわたしのつくったお茶とか、ジャムとか、草で編んだかごとか、クッキーなんかも焼いて、こっちにピクニックに来た人に、売ってみようかなと思っているの。それで、もし、もしもよ、うまくいったら、小さなホテルなんか開いて……。いつまでも子どもじゃないもの。ヤアくんとふたりで、ここにじっとしてたら、ボーイフレンドもできないしさ、うふふ」
「モリさんって、すごいわねえ。弟のめんどうみながら、いつもたのしいこと考えて。おちこむことなんてないんだもの」
「うそよ。しょっちゅう自信なくしちゃうから、いつもたのしいことさがしてるの。キキも手伝って。ここまで来ることできない人に、ジャムやクッキーをとどけてもらうっていうのはどうかしら」
「ええ、ぜひぜひ、わたしの仕事もひろがっていくわ」
キキは電話にむかいながら、体をはずませました。
「そういえば、キキ、妹が来たんですってね。あんた、ひとりっ子だとばかり思っていたけど、すごい妹がいたのね。評判よ。すぐれものだって」
「ええっ」
キキの頭はぼーっとふくらんだみたいになりました。その後は、なにを話したかおぼえていません。気がつくと、受話器を持ったまま、立ちすくんでいました。
(そういううわさになっているんだ……みんなそう思っているんだ……あの子はいったいいつまでここにいるつもりかしら。じわり、じわりと、わたしのくらしのなかに、はいりこんでくる)
キキの口が、さっきよりもうちょっと、べそ口になってしまったようでした。
「千の足が……進んでくる」
「しのび足で」
「ぬき足……」
「さし足……こっちのほうに」
「アメーバのように」
あの「おわりのとびら」の本で見た言葉は、ずばりケケのことをいっているみたいに思えます。
キキはこわくなって、本のあるほうから目をそらしました。でもそうするとよけい気になってたまりません。思いきって手にとって、またあけてみました。ばりっ、大きな音をたてて、本は開きました。あいかわらずしみだらけです。いつものように目をこらすと、こんな言葉が見えてきました。
「おびえをお持ち。たくさんお持ち。そしたらおまえさん、ほんとの自分の姿が見えてくるよ」
(わたし、もう、じゅうぶんおびえてる……)キキは、けさジジがいっていた言葉を思いだしました。(「べそ口」、いやだ、いやだ! それじゃ、べそ口がわたしのほんとの姿だっていってるわけ……)
ふと、キキは顔をあげました。外にだれかがいるみたいな気がしたのです。やっぱり男の人がひとり、窓からしきりになかのようすをうかがっていました。家のなかが暗くてよく見えないのでしょう。白いハンカチで汗をふきながら、背のびしてのぞきこんだりしています。キキはドアをあけて、
「なにかご用ですか」と、ききました。
男の人はびくっととびのいて、
「いや、はあ、はあ」と、こわばった笑顔をぶるぶると左右にふりました。ゆるめてのびたネクタイもいっしょにぶらりとゆれています。やさしそうなまるい目を、えんりょするように細めながらいいました。「ちょ、ちょっと、通りがかりにこの看板が目にはいったものですから。『魔女の宅急便』というと、魔法なんかを運ぶっていうことですか?」
「いいえ、……品物を運ぶんです」
「ははーん、そうですか。それで……あなたがこの魔女さんって、わけですね」
「ええ、まあ」
「どうです? 幸せですか? 魔女で、かわった仕事して、つらいことはありませんか?」
男の人はおちつきなく上着をいろいろに持ちなおしながら、体をななめにのばして、開いたドアからなかのほうをのぞきたそうにしました。
「ええ、今はたのしくやっています」
「今は、というと?」
「はじめは、魔女だっていうだけで、こわがられたりして……、いろいろな人がいますから。でも、もうだいじょうぶになりました。だいじょうぶどころか、仕事はたのしいわ。……よろしかったら、おはいりになります?」
キキは、ドアをひろくあけて、いいました。
「いや、いや、とんでもない。おもしろそうなので見ていただけです。でも、やっぱり、魔女には猫が……それも黒猫が必要なんでしょうな」
「必要っていうよりも、双子の
「おかあさんが? そうですか、そういう習慣があるんですねえ」
男の人はなにか考えるように、どこかを見つめました。
「魔女のこと、研究でもなさっているんですか?」
「いや、いや、とんでもない。仕事でこの町に来たんですよ。あっ、そうそう、宅急便なら、ちょうどいい、これをとどけていただこう」男の人はポケットからにぶく銀色に光るブローチを取りだしました。「さっき表通りでひろったんです。後ろに住所が書いてあったので、これからとどけに行こうと思ったんですけど、列車の時間もあるし、魔女さん、かわりにとどけていただけると、ありがたいんですが……」
男の人はズボンのポケットからお札を一枚とりだし、
「少ないですが、お礼です。これでよろしく」というと、キキの手にお金とブローチをわたしました。「じゃ、いそぐので、これで、失礼します。助かりました」男の人は後ろをむくと、いそぎ足で行ってしまいました。
(こんな大きなお金……)とキキがお札におどろいて、窓から身をのりだしたときには、その男の人はもうずっと遠くを歩いていました。とたんにキキの口がつーんとまたさがって、いっしょに大きな不安がどっとおしよせてきました。
(あの人、へん。しつっこく魔女のこときいたりして。さぐるようにのぞいてた。もしかして……ケケの知り合い、そう、おとうさんかもしれない。なんだか鼻の形がにていた。この間、ジジをつかまえたのもあの人じゃないかしら)キキは手のなかのブローチを見ました。(これわたすふりして、なにかさぐりにきたのかもしれない。わたしをこの町から追いだそうと、ケケとたくらんでいるんじゃないかしら)気にしだすと、不安はつぎつぎ大きくひろがっていきます。(あの本にあったアメーバのようにぬき足……って、このことかもしれない)
キキはもういちど、わたされたブローチを見ました。お月さまが三日月から満月になるまで順番に四つならんでいて、とてもかわいい形をしています。満月のお月さまには、にっこり笑っている顔までついています。うらがえすと、そこには小さな文字で、
「ぞうさんからうさぎさんへ
三日月のときも満月のときも。
ジャングル通り一番地」
と彫ってありました。ジャングル通りは、たしか町のはずれのほうにある通りです。つたがもじゃもじゃとからまりあった木が生えているロータリーから、通りははじまっています。キキもなんどかうえを飛んだことがありました。キキは、洋服の胸にブローチのピンをさして、鏡をのぞいてみました。体を動かすと、お月さまの顔がうなずいているように見えます。
キキはなにか気配を感じて、びくっとふりむきました。ケケの部屋の戸のすきまから、きらきら光る目だけがのぞいています。
「ねえ、今、おきゃくさんが来ていたようだけど……」
「ケケ、だれかを待ってるの? もしかしてあの人と知り合い?」
「すぐ、また、いろいろ勘ぐる……」
「その人ったら、わたしのことさぐってるみたいだったんだもの。こんな大きなお金くれたりして」
キキがてのひらをあけて見せました。
「いいじゃないの。あまってるお金なんでしょ。いじいじ気にしない」
ケケはするりとドアからでてきました。でもまだどこか不安そうに窓の外を見ています。
「ケケ、やっぱり気にしてるんでしょ」
「べつに。でもそのおじさん、なにしにきたの?」
「魔女のこと知りたかったみたい」
「キキ、まえにその人に会ったことある?」
「ないわ。あっ、やっぱりケケの知り合いだったんだ。もしかして、ケケのおとうさん?」
「まったくもーう、そんなふうにしか考えないんだから。関係ないったら」ケケのこめかみに青いすじがすーっと走りました。それからキキの胸のブローチを見ると、きゅうに声をあげました。「あれ、なに、それ、カワイーイ。ちょ、ちょっとかしてかして、お月さまなんて……魔女ににあうねえ」
ケケは、手をのばしてキキの胸からピンをぬくと、さっと自分の胸にあてました。
「これをブローチの裏に彫ってある住所まで、とどけてくれってたのまれたのよ。今の人から」
ケケはいわれてブローチをうらがえしてみました。
「じゃ、これ、そのおじさんのものなの?」
「ちがうようよ。通りでひろったんだって。これからわたし、とどけに行ってくるわ」
キキはケケからブローチを取りかえすと、また自分の胸にさしました。
「いいなあ。キキはちょっとかりたつもりで、そうやって、人のものか自分のものかわからないぐらい、かりちゃうんでしょ?」
「まあ、ひどい、ひどすぎるわ。わかった。あんたならそうするのね?」
キキはケケをにらみつけると、ほうきをにぎって、ドアをらんぼうにあけ、後ろも見ずにしめました。あとを追ってころがるように走ってきたジジの目の前で、ドアはばっちんとしまってしまいました。
ジャングル通り一番地は、つたがもじゃもじゃとからまった木のあるロータリーのまん前にありました。そのつたの種が運ばれたのでしょう、一番地の家もびっしりと同じようにつたの葉でおおわれています。キキがよび鈴をおすと、その音が鳴りおわらないうちに、ドアが内側からさっとあいて、子どもの声が、ふきだすようにきこえてきました。
「やあだあ。やめろよう」
「いててて」
「おばかちゃーん」
いっしょに豆がはじけたように、子どもがとびだしてきて、そのあとから額に汗のつぶをいっぱいつけた大きな男の人が、片手にあかちゃんをかかえてでてきました。
「あれーっ、魔女さんだよ」
「ほんものだよ」
「ちがーう、うそものだよう」
子どもたちがつぎつぎさけびます。指を口につっこんで、べーなんてごあいさつする子もいます。
「わたしはほんものよ。魔女よ。キキっていうの。よろしくね」
「どうぞ、なかへ」
男の人がいいました。
「あの……わたし……ただ……」
キキがいいかけると、
「まあ、まあ、ごえんりょなくどうぞ」
男の人は低くひびく声でいいました。(あっ、きっとこの人がぞうさんだわ)キキはとっさに思いました。キキがはいると、こどもたちはすばやく大きい順にならんで、ひとりひとり名前をいいだしました。
「ぼく、オオカミくん」
「わたし、イタチちゃん」
「わたし、パンダ」
「ぼく、ブタちゃん」
「ぼく、ライオン」
「ぼく、ワニくん」
するとぞうさんに抱かれたあかちゃんがいいました。
「ニャアニャア」
「くくく、みんな、動物の名前!」
キキは思わず笑ってしまいました。すると、
「そろってるんだ。みごとだね」と後ろから声がします。見ると、ケケが後ろに立っていました。背中にしがみつくようにしてジジが乗っています。子どもがにがてなジジは目をしっかりつぶって、ふるえていました。
「あれ、また魔女さんだ!」
ブタちゃんがすっとんきょうな声をあげました。
「黒い洋服着てるけど、なんか、ぼさぼさだね」
イタチちゃんがいいました。
「こっちがほんものかな」
「あっちがうそものかな」
みんなまた口々にいいあって、大さわぎになりました。
「もちろん、ほんもの。双子なの」
ケケはすばやくキキの横にならんでいいました。にやにやとおもしろそうに笑っています。
「へーっ、うちにも双子、生まれたんだよ。ママとまだ病院にいるの。だからお祝いのケーキつくったんだ。魔女さん、とどけてくれるの?」
オオカミくんがいいました。キキが、
「えっ」とへんな顔をすると、
「もちろんそれで来たのよ」と、ケケが横取りするようにいいました。
「ええ、まあ……それもお手伝いします。でも、まずこれをおとどけにきたんです。住所が書いてありましたから」
キキは胸にさしたブローチを見せました。
「あっ、それ、どこで?」
ぞうさんが目をまるくしてのぞきました。
「表通りに落ちていたんですって。さっきひろったかたからたのまれたんです」
「そうですか。半年ほど前に妻が落としてしまって」
「うさぎさんって、おくさんですか」
「そうなんです、それでうさぎさん、そりゃあ、がっかりしていたんです。じゃ、その間どこにいってたんだろう。だれかがつかってくれてたのかなあ。ちょうどいい、ケーキといっしょにうさぎさんにとどけましょう。ちょっと遠いけど、魔女さんたちもいっしょに来てくださいよ。うさぎさんがよろこびます。とってもいいお祝いになります」
ぞうさんが声をはずませていいました。
「ねえ、できたてほやほやのケーキも見てよ。みんなでつくったんだよ。台所にあるから」
オオカミくんがいうと、みんなばたばた奥にはいっていきました。台所はたいへんなさわぎになっていました。あたり一面クリームがとびちっています。
「パパとママと子どもの数だけ、いちごをならべたのよ」
パンダちゃんがとくいそうにいいました。
「いっぺんにあかちゃんがふたりもふえたから、おどろいちゃった」
イタチちゃんがおおげさに目をまるくしました。
おめでとうケーキの行列が動きだしました。ほうきで飛べないと知って、みんながっかりでした。でも元気に歩きだしました。お盆のうえにケーキをのせて、それを大きなテーブルクロスで包んで、結び目をほうきの柄に通して。柄のさきはニャアニャアちゃんを抱いたおとうさんがもって、後ろをキキがもって、そのそばを子どもたちがにぎやかにつづきます。みんなおとなっぽくすまして歩いていきます。いちばん後ろは、ぶらぶら歩きのケケです。肩にはジジが、まだしがみついておりようともしません。
「やあ、キキ」
だれかが走ってきてさけびました。見ると、行列は飛行クラブの前を通過しているところでした。とんぼさんも、いつもの仲間も、キキたちの行列を見て、戸口からでてきました。
「やあ、せんぱいもいっしょですか」
「やっぱり魔女の助手やってるんですか」
だれかがいいました。
「おす、そうかも……」ケケが手をあげて、こたえました。
「ケケ、きょうは来てくれないの」と、まただれかがいうと、とんぼさんが近づいて、さけびました。
「今後の相談したいから。細かいこと、まだまよっているんだよ」
「わかってるわよ。安心してよ」
ケケがいいました。
「じゃ、待ってるからね」
クラブのみんなは、手をふりながら、もどっていきました。
(なんのこと? 細かいことって……)キキの手にきゅうに力がはいって、ほうきの柄をぎゅうっとにぎりしめました。とたんにケーキの包みがぐらりとゆれました。
「魔女のおねえちゃん、だいじょうぶ?」
子どもたちがいっせいに声をあげました。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
キキはあわてていいました。
やっと、町立病院の玄関に、行列は到着しました。
「そのあまいケーキは、あかちゃんにはまだはやいわよ」と、看護婦さんたちが笑いました。
「ママ、あかちゃーん、おにいちゃんたちがつくったケーキだよ」
「ちがうもん、おねえちゃんたちもつくったケーキよう」
子どもたちは大さわぎで部屋にとびこんでいきました。うさぎさんがゆっくりとベッドのうえで、おきあがりました。白い顔に赤い唇が光っています。くりっとした目がまずぞうさんを見つめ、つぎに子どもたちにむけられると、その目はうれしさで細かくふるえました。
「いい子にしてた? いい子にしてた?」といいながら、ふっくらした二つの手で、ひとりひとり、子どもたちの顔をはさんで見つめました。すると子どもたちはきゅうにおとなしくなって、こっくり、こっくりとうなずいています。まるで空気がかわったようでした。
(魔法みたい)とキキは思いました。
横を見ると、ケケも、おかあさんと子どもたちのようすを、じっと見つめています。今にも涙がにじむのではないかと思うほどの目つきです。
うさぎさんは顔をあげるといいました。
「あら、魔女さんじゃないの。おや、ふたりも? まあ、はじめまして」
キキはベッドに近づいて、月のブローチをうさぎさんにさしだしました。
「まっ、これ! わたし、なくしちゃってがっかりしてたの。もどってきたのね。うれしいわ。これね、ぞうさんにはじめてもらったたいせつなものなの。よかった」うさぎさんはブローチをじっと見て、うらがえしました。「このブローチをもらったとき、かれがわたしのこと、『うさぎさん』ってよぶものだから、わたしも『ぞうさん』てよんだの。それで裏に文字を彫ったのよ。そんなわけで、子どもたちにも、オオカミくんとか、動物の名前があだ名でつくようになって、うちはたのしい動物園」
うさぎさんは両手で頭のうえに、うさぎの耳をつくって笑いました。
「ええ、さっき、ひとりひとり、動物の名前のほうを教えてもらいました」
「このブローチの裏の言葉の意味はね、『三日月のときも、満月のときも、いつも仲よく』ってことなんだけど……こんなに家族がおおぜいになったら、もうひとつ意味ができたような気がするの。それはね、『小さい子も、大きい子も、ひとりひとりが大事』って。このブローチ、これからきっと家族のお守りになるわ。魔女さんたち、ありがとう。おわかいのに、いいお仕事をおもちね」
うさぎさんは、そばに寝ているあかちゃんをかかえるようにして、ほほえみました。
(いいお仕事だって、おわかいのにだって)キキは言葉をくりかえすと、ふーっとうれしい気持ちがわいてきました。それから、そっとケケを見ました。ケケも、めずらしく目をふせて、しずかに立っています。
その夜、キキはひさしぶりに、なごやかな気持ちで、お茶を飲んでいました。体のすみずみまで、うさぎさんの空気が流れていくようでした。キキは目を細めてどこかをじっと見つめました。
(わたしもいつか結婚したら、あんなにぎやかな家族がいいな)
すると、ジジがよってきて、体をこすりつけながら、ぼそぼそと小声でいいました。
「ねえ、キキ。キキもたいせつな鈴、とんぼさんにあげたよね。とんぼさんは袋くれたし……みんな、あげっこするんだ……そうか……」
「えっ」
キキはびっくりしてききかえすと、ジジは、そのまんますとんと横になって、照れくさそうに体をちぢめ、寝たふりをはじめました。
キキはジジにふいをつかれて、ぱっと熱くなった顔をかくすように、てのひらではさみました。
「あれ、まだおきてるの?」ケケが戸をあけて顔をだしました。「しずかだから寝たかと思ったよ」
「ケケ、ここでいっしょにお茶を飲まない?」
キキはいいました。
「ありがたい。のどかわいてたとこなんだ。でも自分でいれるの、めんどくさくってさ」
ケケはうきうきとでてきました。キキはケケの前にお茶をおきながら、しんみりといいました。
「うさぎさんに会ってよかった。家族が多いってうらやましい。わたし、ひとりっ子だから」
「あっ、そう、なんならあたし、妹になってやってもいいよ」
ケケは笑いながらいうと、おいしそうにお茶をすすりました。