16 キキ、種を運ぶ
「ほほーう、ちっちゃなキキが帰ってきたとおもったら、一大決心して、薬づくりに挑戦するって?」
オキノさんは目を細めて、ドアをうしろに、ジジとならんで気をつけをしているキキをながめました。
「そうよ。一大、大、大の決心よ。あたし、もうちっちゃなキキじゃありませんよーだ」
キキは背のびしてみせました。ジジもあわせてしっぽをぴんとたてました。
「まあ、大げさだこと。決心こそ、しずかにするものよ」
コキリさんは顔をしかめてみせ、キキのそばによると、うれしそうに肩を抱きました。
「おかえり、かあさん待ってたわ」
キキはコキリさんの胸に頭をよせました。
「あたしね、宅急便の仕事もすきなのよ、楽しいの。これからもやっていくつもりだけど……もうちょっと、魔女のあたしが心をこめてつくることもやってみようかなって……へんでしょ。あたし、まじめになって……」
キキは急に目のはじがぬれてくるのを感じました。
オキノさんが椅子から立ちあがって、キキのそばに来ました。
「おい、ひさしぶりに、たかいたかい、するか?」
とたんにキキは抱きあげられ、小さいときされたように、くるくるとまわっていました。
「やめて、とうさん」
キキは体をよじって笑いました。
一年ぶりの再会のさわぎも一段落してキキとジジが椅子にすわると、コキリさんはぽかぽか茶を入れてくれました。
「それにしてもキキ、きょう帰ってくるなんて、よくおぼえていたわねえ」
「えっ、おぼえてるって、何を……」
「あら、それできょう、帰ってきたんじゃなかったの?」
「ううん、べつに、でもおとといの夜、もうじき満月になるお月さまを見てたら、なんだか、やもたてもたまらなく出発したくなっちゃって。それでおソノさんだけにいって、出てきちゃったの……」
「ふーん、ふしぎなもんだな。そういうのを血がさわぐっていうんだろうな、魔女の血が……」
オキノさんがいいました。
「そうなのね、いろんなことが、そういうふうに動くというか……」
コキリさんはうなずいてキキを見ました。
「キキ、くしゃみの薬づくりはね、春分の日の前、満月の真夜中からはじめるのよ。これは、むかしむかしからの決まり。それがちょうど今年はあした。それで帰ってきたのかと思ったわ」
「へー、そんなこと知らなかった……ただあたし、今までなんとなく魔女だったけど、あまり苦労しないで飛べちゃったし、それが楽しくってすぎてきたけど、手紙にも書いたように、知らないうちに、いやなものとどける人になってしまったりして、すっかり自信をなくしちゃったの。新米魔女だけど、あたしが心をこめてすること、何かあったらいいなって。それができれば、この不安からもぬけだせるんじゃないかって。そしたら、かあさんの手紙を見て、薬をつくってみようって思ったの」
「毎年、あなたをさそったんだけど、めんどくさいっていやがってさ。魔女の薬はね、いやいやつくったんじゃ、きかないのよ。なによりも、つくるのがすき、この気持ちがたいせつなの。それでむりにはやらせなかったのよ」
「うん、知ってる。どうしてあんなにやりたくなかったかわからない。でも今はとてもやりたいの。これ、かるがるしく決めたんじゃないのよ。ふしぎなくらいやりたいの」
キキは目の前にすわっているコキリさんとオキノさんをみつめました。
「大きな力がきょう、コキリさんのところにキキをとどけてくれたんだ、ほうきにのせて。そう、とうさんは感じるね」
「大きな力?」
キキは
「今に、キキにもわかるわ。すこしずつ、すこしずつ」
コキリさんはどこか遠くを見ているような目をしていました。
「あすの夜、十二時からはじめるのよ。それまでゆっくりやすみなさい」
「はい」
キキは顔をひきしめて、うなずきました。
夕食のあとのコーヒーの香りが居間にただよっています。オキノさんのすきな、ちょっとこげめのコーヒーの香りです。暖炉の中のまきが、とろとろとだいだい色の炎をあげています。香りも、音も、色も、キキが小さかったときとひとつも変わっていません。どの窓もしっかりととじ、カーテンをさげ、この暖かさを守っているように見えます。それはうっとりとするほど気持ちのいいながめでした。
キキはソファの上に足をのばしてすわり、目を細めて、全身でこの心地よさをあじわっていました。でも心のすみには小さな窓があって、そこからはいつもコリコの町が見えているのでした。
あたしはこの家の外の世界から、ちょっとのあいだだけ帰ってきたんだわ。お客さまなのよ。キキは、なつかしくなればなるほど、そう思いました。
「キキ、寝ちゃだめじゃないか」
ジジが、ともするとがくりとうしろに寝てしまうキキを前足でつっつきました。
「もうじき十二時だよ」
「わかってるわよ」
キキはふあーとかぶさってくるまぶたを、なんとかあけようとしています。
外から足音がきこえてきました。
「あっ、コキリさんだ」
ジジが耳をたてました。キキが急いで庭に通じる戸をあけると、春といってもまだまだつめたい空気が顔にぶつかってきました。
「ふいー、さむーい」
キキは首をすくめて、空を見、
「あれ、お月さま、ないじゃない」
といいました。
「あっちよ」
コキリさんの声です。大きな浅いざるを二枚、やっとかかえて立っています。コキリさんがふりむいた家のうしろのほうを見ると、満月がこうこうと光をはなっていました。その光を受けて空が高く広く見えます。
「あなたの旅立ちの日のお月さまも、今夜に負けずおとらず美しかったわね。さ、すぐ、『種のおきよめ』はじめるわよ」
「おきよめ?」
「あら、忘れちゃったの? くすりぐさの種をお月さまの光に清めていただくのよ」
「あっ、思い出したわ。へんなにょろにょろした歌をうたうのよね」
「まあ……にょろにょろとはひどいわね。……あかね、ねのたね、たねのつぶ、つぶり、めのつぶ……」
コキリさんは低い声でつぶやくように歌いだしました。
「そう、それ、それ。でも、こうしてきくとちがう歌みたい。とってもお月さまの光に合ってる」
キキはそういいながら、追いかけて「あかね、ねのたね」とつぶやきました。
「キキったら、小さいとき、この歌のこと、おばけの歌みたいっていったのよ。もっとちがう歌にしようよ、チャンチャカチャンってお歌にしようよって……」
「でも、ふしぎ、今夜はとってもきれいにきこえるの」
「すこしキキもおとなになったのね。じゃ、はじめましょうか」
コキリさんは手にもったざるを芝生の上におきました。
「まず種のこと。立秋の日に、くすりぐさ十二種を刈りとるんだけど、そのとき、のこしときたいなって思う分だけ、秋になるまでそのまま畑においとくの。それから種をとるんだから。そのとき、これぐらいがちょうどいい量と思う気持ちに、すなおにしたがうのよ。よくばっちゃだめよ。去年はいつになくたくさんのこしたくなって……ふしぎに思ってたら、こんなふうにキキにわける分だったんだわ」
「へー、じゃ、くすりぐさはあたしが来ることわかってたの? あたしも知らないときから?」
「たぶん、そう」
コキリさんは庭からつづくくすりぐさの畑に目をやりました。
「おそろしい」
キキは思わずつぶやいて、空を見あげました。
「それでははじめますよ。じゃ、これがキキの分」
コキリさんは肩にかけた大きな布袋から、ふくらんだ十二個の小さな布袋を出すと、ざるといっしょにキキに手わたしました。袋の上には赤い糸で種の形と名前がししゅうされていました。
「布袋はつぎの年も使うから、たいせつにとっておくのよ」
コキリさんは芝生の上にひざまずいて、前にざるをおきました。キキもまねしてすわりました。
「では、ざるを時計にみたてて、六時のところから十一時のところまで、六つのくすりぐさを歌の名前の順に一種類ずつおくの。これを朝のくすりぐさっていうのよ。十二時から五時までは夜のくすりぐさよ。これも六つ。いい? じゃ、はじめましょ」
コキリさんはしずかに歌いながら種をおきはじめました。
「朝のくすりぐさはじめます。
あかね
ねのたね
たねのつぶ
つぶり
めのつぶ
つるのたね
つづいて、夜のくすりぐさはじめます。
ねこのめ
すずのめ
めめりぐさ
くさや
くさぐさ
さくやはな
これでくすりぐさ十二全部。キキ、ちゃんとできた?」
キキは、「さくやはな」といいながら最後の種をそろりとおくと、
「うん、できた」といいました。
「ねえ、ねえ、ねこのめ……ってどれ?」
ジジがそばから顔を出してざるの中をのぞきこみました。
「十二時のとこよ」
キキがささやきました。
「なんだ、ふつうの種じゃないか。ぼくの目ににているのかと思ったよ」
「そう、ただの種よ。でも中にふしぎがいっぱい」
キキはちょっといばってみせました。
まん丸の月があたりを明るく浮きたたせています。その中で見ると、すべてのものが姿をはっきりとさせ、そのあとに濃い影をひきずっています。ならべた種の一つ一つにも濃い影ができていました。
「すばらしいわ、こんな満月はめずらしいこと。今年はきっといいくすりぐさが育つわ」
コキリさんはまんぞくそうに顔を空にむけ、両手を固くにぎりしめると目をとじました。キキもコキリさんがするとおりにしました。「おきよめの歌」といっしょに、月も無数の光る糸になって、キキの体の中に流れていくのを感じました。とってもいい気持ちでした。この感じを、いつまでもおぼえていようとキキは思いました。
「あかね、ねのたね、たねのつぶ……」
キキはそっとつぶやきながら目をあけて、そばのジジを見ると、ジジも目をつぶり、背中をのばして、黒い石の彫刻のようにすわっていました。キキはあわててまた目をとじました。
そして、「つくるって、ふしぎよ。自分がつくっても、自分がつくっていないのよ」コキリさんのこのことばの、ほんとうの意味をはやく知りたいとキキは思いました。
「おきよめはぶじ終わったかね」
朝ごはんのときにオキノさんがいいました。
「ええ、いつになく美しいお月さまで……」
「とうさんもいっしょにすればよかったのに、とっても気持ちよかったわ」
「いやあ。とうさんは仲間には、なれないんだ」
「えっ?」
キキはなんだかわるいことをいってしまったような気がしました。
「それは決まりさ、ざんねんながらね」
「そうよ、見てはいけないことになっているの。よくおぼえといてね」
コキリさんはきっぱりといいました。
「だからよくきく薬が育つんだよ。そういうもんさ」
オキノさんはいいました。
「キキ、これからいうこともおぼえといてよ」
コキリさんがキキをみつめました。
「おきよめを終わった種はね、春分の日、朝のくすりぐさは朝の六時に、夜のくすりぐさは夕方の六時にまくのよ。それから十三日の間、毎日、まいたのと同じ時間に水をやるの。雨が降ってもやるのよ。そして、八月の立秋の日に、これは暑いさかり、刈りとるの。朝のくすりぐさは朝の六時に、夜のくすりぐさは夕方の六時に、そしてつぎの日、葉っぱも茎も根もみんないっしょにきざんで、
「うん、でも……その一回分ってどのくらい?」
「そのときちょうどいいと思うだけ」
「そんなこといってもわかんなーい」
キキは不安そうにコキリさんを見ました。ちょっとあまえている表情が浮かんでいます。
「だいじょうぶよ。ちゃんとわかるの、多くも少なくもなく」
コキリさんはキキの肩をかるくたたくと、ことばをつづけました。
「それから、つぎの年の種にするほうだけど、……くさを刈るとき畑に少しのこしとくでしょ。それを十月の十五夜に一気に刈りとって、種をとって、それぞれにわけてかわかしたら、おきよめの夜まで、まっくらなところにしまっておくの。薬のつくり方はこれで全部よ。そんなにむずかしくないでしょ」
コキリさんはキキのあごに手をあて、顔をむかせると、のぞきこむようにキキを見ました。キキはコキリさんの目を見ていいました。
「かあさんと同じくしゃみの薬できるかしら……」
するとコキリさんははっきり答えました。
「キキの薬はかあさんのとはちがうわ。だってキキがつくるんですもの」
キキは、えっ? というように目をみひらきました。
「コキリさんからすこしはきいてたけど、ずいぶんややっこしいんだね」
とオキノさんはいいました。
「ぼくは、ねこのめ、すずのめ、めめりぐさ、ってとこがすきだな。なんとなくさ」
とジジがいいました。
「キキの薬だって……すてきだわ、すてきだわ」
とキキは、ひとりでしきりにつぶやきました。
くしゃみの薬のことを全部きいてしまうと、キキは、とたんにこれからのことが気になりだしました。
「あたし、コリコの町に帰ったら、この種、どこに植えようかしら。畑なんて……ないもん」
とんぼさんの家の裏庭、木の歌声づくりのミズナさんの住む山の中のあき地を思い浮かべました。この二つぐらいしか、今キキに思いあたるところはありません。
「どうにかなるわよ。きっとどこかにあるわ」
コキリさんがいいました。
「でも春分はもうすぐよ。ねえ、この種だったら、どのくらいの畑がいるの」
キキはテーブルの上の種の袋をもちあげました。
「それはキキが決めるのよ」
「えっ、あたしが? わあ、そんなのむりよう。コリコの町って大きいのよ。住んでる人だって、この町とはくらべられないぐらい多いんだから、それに、このあいだみたいに風邪が大流行したらたいへん。みんな薬をほしがるわ。でも大きな畑なんて、とても見つけられないわ。どうしよう」
「心配いらないわ。きっといい畑が見つかるわ。ああ、これこそ、わたしにぴったりっていう畑が……そういうもんよ」
コキリさんが笑いかけました。
「そんなにかんたんにいわないでよ。もしたりなかったらどうするのよ。キキの薬がほしいっていう人に、おことわりなんてできないわ。多めにつくっとかなくちゃ」
「そんなせっかちな心配はしないの。去年、種が思ったよりたくさんとれたの。かあさん、あれ? ってふしぎだったけど、おきよめのとき話したように、キキが帰ってくるのと関係あったのよ。考えると、とってもふしぎだけど、そういうふうになってるのよ。今年あまると、つぎの年はたりなくって、ちょうどよくなるのよ」
「ふーん、じゃ、ただ、待ってりゃ、うまくいくんだ。かんたんなんだ」
キキの顔が明るくなりました。
「ほらほら、またこれだわ」
コキリさんは、まあ、と肩を落としました。オキノさんがそんなふたりをかわりばんこに見ています。
「なにもしなくていいっていうんじゃないの。キキがそれを感じとる心をもっていることがたいせつなのよ。それには、いきいきと、充実した毎日を送ってないとね。そうやって魔女の計算っていうのができていくのよ」
「魔女の計算? でも、なんだか自信ない。だいじょうぶかなあ」
「これほどたしかなものはないのよ。キキならだいじょうぶよ。あれこれ心配しないで、じっとよく見るの。自分の心の中も、まわりの風景も。見えないものもじっと見るの。そしたら、かならず見つかるわ」
「ほんと?」
「だって、キキは必要な人なんですもの」
コキリさんは大きくはっきりうなずきました。オキノさんがそばから、テーブルの上においたキキの手をだまってかるくたたきました。
「なに、なに、畑ですって?」
おソノさんは大きくふーふー息をしました。赤ちゃんのいるおなかが、つられてふーふー動いています。
「お店のつぎには畑ねえ。魔女も商売拡張なのね。ふふふふ。いったいどのくらいほしいの」
「それがわかんないの、見てみないと」
「そりゃ、そうね。そりゃ、そう」
おソノさんはうなずきながら、でもやっぱりこまったような顔をしていました。
「キキ!」
呼び声といっしょにとんぼさんがとびこんできました。
「あら、力強い味方があらわれたこと。いらっしゃい」
おソノさんが手をあげました。
「キキ、あのね、キキがいってた畑のことだけど、北山に行くとちゅうに、ポッカリ丘っていうのあるの知ってる? あそこはどうかなあ」
「うん、知ってる。帽子をおいたみたいな形してる……」
キキは何度も上を飛んだことのある丘を思い出しました。
「そうねえ……」
キキがうなずくと、おソノさんがとんでもないと手をふりました。
「あんな遠いとこだめよう。キキ、宅急便の仕事はどうするの。あそこじゃ、うさぎさんからりすさんに花を一輪、なんていう仕事しかないわよ。ま、それもいいけど、でも……住むところはどうするの? かんたんじゃないわよ、それにあたしもいないわよ。毎日会えないじゃないの」
「………」
キキはだまってしまいました。その丘にくすりぐさが生長するようすを想像してみました。たしかに美しいところで、すくすく育ちそうな気がします。でも、キキの心の中で何かがちぐはぐなのでした。ことばにはいえない何かなのでした。これが魔女の計算なのかもしれない、とキキは思いました。
「この町では畑になるようなところなんて、なかなか見つけられないよ」
とんぼさんは自分が見つけてきた場所の肩をもちたいような気配です。
「そうねえ」
キキはさそわれてうなずいていました。
「さびしいじゃないの」
おソノさんがつぶやきました。
キキの胸がチチチッといたくなりました。今までおソノさんをたよりすぎてたから、帰ったら、これを機会にひとりで暮らしてみるのもいいかな、って考えていたのです。でもおソノさんのさびしいという気持ちは、キキの気持ちでもありました。
「まったく、この町ときたら、通りには草木の名前をつけて、やさしい町ですよみたいなかっこうつけてるけど、キキのためにちょっとしたあき地もないんだから……町長さんは何してるのかしら。腹がたつわ」
おソノさんは口をムッとつぐみました。それをきいていたとんぼさんが、はっと顔をあげました。
「通りだっ!」
「なんのこと?」
おソノさんがいいました。キキもとんぼさんをみつめました。
「この前の通り!」
とんぼさんはドアをあけて外にとび出しました。あとからおソノさんも出ていきました。
「あら、ほんと……」と大きな声をあげています。
「ここがいいわ。キキ」
「そう、この通りの両側にくすりぐさを植えたら」
とんぼさんも声がうわずっています。
(ここ? グーチョキパン屋さんの前?)
キキは目をまるくしました。思ってもみなかったところです。
キキがこの町に来たときは、人の足がふみかためた土の道でした。ところどころに草がぼうぼうとはえていました。夏にはおソノさんとよく草とりをしたものです。それがつい半年前、道らしくつくりなおされたのです。両側には花壇ができていました。近々、木か草花を植えて、その名前の道になるといううわさでした。
「そうよ、ここがいいわ」
「うん、いい。すごくいいよ」
おソノさんととんぼさんが競争するようにうなずいています。
「あたし、町長さんにたのんでみるわ。いやとはいわせませんよ。あの人、キキちゃんにはずいぶんお世話になっているんですから」
おソノさんはとんぼさんの肩をたたくと、ふたりはもう決まったというようによろこんでいます。
「へえー」
ジジが不満そうに声をあげました。
「キキが決めるんじゃないの」
キキは通りに出て、じっと道の両側をながめました。ここに春から夏のさかりまで、香りのたかいくすりぐさが育つようすを想像しました。風にのっていいにおいがとんでいくことでしょう。
「よく育ちましたね」
「なんていう名前の草ですか」
「まあ、いいにおい」
「かわいい花がさきましたね」
こんなおしゃべりを、草の手入れをしながら、町の人とかわすのはさぞかし楽しいことだろうと思いました。宅急便をつづけることもできます。それよりなにより、見れば見るほど、キキの心にぴったりの場所に思えるのです。
「くすりぐさ通り、くすりぐさ通り」
キキはいつのまにかつぶやいていました。
「そ、それ、くすりぐさ通り、これに決まり!」
どうなるかと、キキをみつめていたおソノさんととんぼさんが同時にさけびました。
「ほほう、それはいい。くすりぐさ通りねえ。すてきじゃないか。キキさんが手入れまでしてくれるんじゃ、ますますいい」
町長さんはこころよく許してくれました。
春分の日になりました。キキは朝六時に朝のくすりぐさの種をまきました。こんな歌をうたいながら。
「あかね ねのたね たねのつぶ
つぶり めのつぶ つるのたね
月できよめた くすりぐさ
土にもどった ほーほー
三日と十日の水 すって
せのびいっぱい ほーほー」
そして夕方の六時にも、同じように歌をうたいながら、夜のくすりぐさの種をまきました。
「ねこのめ すずのめ めめりぐさ
くさや くさぐさ さくやはな
月できよめた くすりぐさ
土にもどった ほーほー
三日と十日の 水すって
せのびいっぱい ほーほー」
その年の秋、つめたい風が北山から吹いてきて、町のあちこちで、「くしゅん」「くしゅん」という声がきこえだしたころ、「魔女の宅急便」という看板の横にもう一つ看板がさがりました。
「くしゃみのおくすり おわけいたします。魔女のキキ」