5 キキ、シャツを運ぶ
ばん ばん
大きな音がしました。おどろいてキキが窓から外をのぞくと、おソノさんが洗濯したてのまっ白な敷布を二つに折って景気よくふっています。
「いい音ねえ」
キキは声をかけました。
「そう、景気のいい音でしょ。こんなふうにふってからほすとね、ぴんとして、あとのアイロンかけがらくなのよ」
おソノさんはもう一度ばんばんと音をさせると、
「きょうみたいにスカッと晴れた日は、あとで風が吹くからちゃんととめとかなくちゃ。そういえばキキ、きのう、あたし、見ちゃった。ほら、海岸のはずれの小高い丘あるでしょ。あそこから鳥のつばさみたいなのしょってね、飛んでる人たち。くーる、くーるまわって、まあまあ、すこしは飛ぶのよ。気持ちよさそうなの。あたしもやりたくなっちゃった。あたしたち、魔女のまねしても飛べないけど、鳥のまねすると、飛べるみたいよ」
おソノさんはたった今、ほしたばかりの敷布の下にかがむと、両はじをもって、つばさのような形にしました。
「へー、どんな人たち?」
「キキぐらいの若い子たち、四、五人いたかしら」
「それ、今、はやってるの?」
「らしいわ」
「とんぼさんもいた?」
「あっ、その子、キキの仲よしさんね。そういえばあの子も飛びたがってたわよねえ。遠くからだったから、顔まではねえ……。やっぱりキキは気になるんだ」
おソノさんはからかうように目をくるんと動かしました。
ルルルルー ルルルルー
電話が鳴りだしました。キキは受話器をとると、大きな声でいいました。
「こんにちは、魔女の宅急便です」
「まあ、あなた、お元気な声。えーと、こちらはぴんぴん屋ですのよ。ごぞんじ? はなみずき横丁の角にあるシャツ屋ですのよ。とどけものおねがいしたいの」
「はい、すぐまいります」
キキは片手で受話器をおきながら、片手でほうきをにぎりました。
「ジジ、仕事ですよー。行きますよー」
ぴんぴん屋さんは小さなお店でした。看板に
中では背中のまがった小さなおばあさんが、シューン、シューと湯気をたてながら、白いシャツにアイロンをかけていました。
「魔女さん、ちょっと待ってね、このシャツをとどけていただきたいのよ。仕上げのアイロン、もうすぐすむわ。ねえ、白いシャツの注文なんて今どきめずらしいでしょ。このごろは、はでな色ばかり、みんな着たがって。白いシャツがすきなんて、この人、きっとおりこうさんですよ」
おばあさんはちょっと顔をあげて、キキとジジを見ました。それからあわててつけくわえました。
「あら、猫ちゃん、気をわるくしないでね。黒い色が、おばかさんっていうわけじゃないんですよ。黒はふしぎの色、いろんなことかくしているんだから」
おばあさんはそういいながら、こまめにアイロンを動かしました。
「ぴんぴんにしなくちゃね。しわだらけは、おばあちゃんの顔だけでたくさん」
おばあさんはまた顔をあげ、キキに笑ってみせました。
「でも、おばあちゃんのしわは笑い顔のしわじゃない?」
キキも笑いかえしました。
やがて、ぴんぴん屋さんのおばあさんは、ぴんぴんにアイロンをかけたシャツをたたんで紙に包むと、キキにわたしました。
「おとどけ先は、あおき通りのあおき荘。三階の一号室。ぴんとしたままとどけてちょうだいね。とくにいそぎませんよ。あまりはやく飛ばないでね。包みがくずれるといけないから」
「はい、ご安心ください」
キキは包みをそっと片手でかかえて、飛びあがりました。
「あっ、そうそう、あなたにお礼だけど……」
ぴんぴん屋さんは背のびしていいました。
「それならいいんです。もちつもたれつですから」
キキはさけびました。
「じゃ、こんどしわしわになったもの持ってきて。なんでもいいわ、ぴんぴんにしてあげるから」
キキはうなずいて手をふりました。
空の上は、そよそよそよとやさしい風が吹いていい気持ちです。やっぱり空気は地上よりちょっぴり青く感じられます。
キキは、おかあさんのコキリさんに、はじめて飛びかたをおしえてもらったときのことを思い出しました。あのときも、こういうやさしい風が吹いていたような気がします。キキは、ほうきにぶらさげているラジオのスイッチを入れました。アナウンサーの声が流れてきました。
「みなさん、いいお天気ですねえ。お仕事の手をすこし休めて『わた雲のワルツ』をききながら、青空をながめてください」
キキは曲にあわせて、やわらかい曲線をえがきながら飛んでいきました。頭に結んだリボンが、ぱたぱたとかるい音をたてています。手にもったシャツの包みも、コソカソ、コソカソと遠慮がちに音をたてていました。
「ちょっと、より道しちゃおうかな」
「どこへ?」
ジジがうしろから声をはりあげました。キキはそれには答えないで、左のほうに大きく旋回しはじめました。
「あっ、わかった。おソノさんのいっていたとこだ」
「そうよ、ちょっとだけ。見るだけ」
キキはへへへとてれて笑いました。
キキは海岸ぞいを飛んでいきました。海はしずかです。波の音もここまではきこえてきません。キキが砂浜の終わりのほうに目をむけると、海にむかって切り立ったがけになっている小さな山の上から、白や赤のハンカチのようなものが、ぽーぽーっと飛びたっています。
「あっ、あそこだわ」
キキはその山をめざしておりかけ、ちょっと考えると、海のほうに大きくとびだし、そこからまわりこむように山をめざしました。
「ジジ、背中をのばして、かっこいい猫になってよ」
「どうして?」
「だってみんなが見るでしょ」
「だからどうしてよ」
「ふん、ジジ、いじわる!」
「キキは、みんなの前で
「ジジったら……」
そのうちに山が目の前にせまってきました。その山の斜面を、白い大きなつばさをしょった男の子が走りおり、足をけって飛びたとうとしていました。見おぼえのある大きなめがねがきらりと光りました。
「やっぱり、とんぼさん、いたいた」
キキは予想があまりにもぴったりとあたったので、思わず笑ってしまいました。
とんぼさんは飛びたちました。とたんに海からの風にあおられ、ぐらりとかたむくと、そのまま横に流されていきました。
「あっ、あっ、あっ」
キキが声をあげると、
「ひー、見ちゃいられないよう」
とジジもさけびました。そんな声がきこえたのか、とんぼさんが顔をあげました。
「あれー、キキじゃないか」
とたんにまたつばさがぐらりとゆれました。
「あっ、右、右にむいて、風をつかむように」
キキは声をかぎりにさけぶと、自分はさーっとおりて、とんぼさんの横にならびました。
「風をつかむなんて……できないよう」
とんぼさんはまたぐーんと高いところに飛ばされ、すぐまた落ちてきました。
キキは追いかけて、また横にならびました。
「風をつかむってさあ、角度を変えるの? 何度ぐらいにするの?」
とんぼさんがさけんでいます。そのあいだにもとんぼさんは、たーっと急降下したり、くるりとうしろをむきそうになったり、安定しません。
キキはそれをひっしで追いかけながらいいました。
「あのねえ、風ってねえ、形があるのよねえ」
「えっ、形? どんな……」
「そんなの口でいえないわよう。見えないの、感じて。風まかせ、体まかせ。あっ、またちょっと強いの来たみたい、こっち、こっち」
キキは手まねきしました。
「待ってよう」
とんぼさんが泳ぐように足を動かしました。
「そ、そうだわ。力をぬいてさー、風にーなったつーもりでーのっかるのよーう。ほ、ほら、いっしょに、ぽーん、ぽん」
キキはふーっと体を浮かせました。とんぼさんも横を見ながらまねしました。
「そ、そうそう、その調子。わかったでしょ。波のりみたいにね。ほら、また、来たわよ。ぷー、ぽーん」
キキはほうきの調子をとると、鳥のまねをして手をひろげて飛びました。とんぼさんもつづきます。
「その調子! すごいじゃないの。できたじゃないの」
「うん」
とんぼさんはうなずきながら、しんけんな顔で飛んでいます。
「ところでとんぼさーん、着地はどうするのー?」
「わかんないよーう。そんなことまで」
「まあ、のんきねえ。じゃ、いいわ。あたしのあとについてきて、からだをどっちかにうまく動かして、風を通りやすくして、ゆっくり、くるーっとまわって」
キキはとんぼさんの前を飛びながら声をはりあげました。
「そ、そうそう、ゆっくりゆっくり下にむけて、自然に自然におりて」
キキはとんぼさんがぶじに着地するのを見とどけると、自分もがけの頂上をめざしておりていきました。
「ひー、よかった。とんぼさん、ちゃんとおりたね。でもさ、そんなに、飛べるって、すてきなことなのかなあ。ぼくは考えちゃうよ。今にふつうの猫も飛ぶようになるのかなあ。そしたらぼくは、とくべつな猫じゃなくなっちゃう。こりゃ問題じゃないの」
ジジが、ぶつぶつひとりごとをいっています。
「何ごちゃごちゃいってるの。ほら、かっこうよく、かっこうよく」
キキが声をはりあげました。
がけの上では同じような飛行服を着た人が二、三人、手をふっています。
「キキ、こっち、こっち」
「おーい」
「がんばれーっ」
女の人の声もまじっています。ようく見るとミミさんです。そういえば、去年ミミさんにたのまれた手紙を運ぶとちゅう、キキがぬすみ見してたいへんなことになりました。でもそれがきっかけで、ミミさんとはお友だちになれたのでした。
「キキ、キキ、はやくいらっしゃいよー。あたしもあなたといっしょに飛びたーい」
ミミさんは両手をはげしくふっています。首にまいた、もも色のスカーフが風になびいていました。
〈ミミさんって、いっつもすてき〉
キキはちょっとうらやましく、自分の黒いスカートに目を落としました。
「おーい、先輩、こっち、はやく」
男の子たちの声です。飛行クラブで会った人たちでした。
〈先輩だって……〉
キキはくすりと笑いました。
「行くわねーっ。すぐ、すぐよー」
キキはいきおいよく両手をふりあげました。そのとたんです。
「あーっ」
キキからもジジからも、がけの上の人たちからもいっせいに声があがりました。今までたいせつに、たいせつにかかえてきた、ぴんぴん屋さんのシャツの包みが、キキの手からすりぬけてしまったのです。くるくる落ちながら包んでいた紙がやぶれ、たたまれていたシャツがほどけ、ふわんとひろがりました。そして白い大きな鳥のように
「待ってーっ、待ってーっ」
キキは手をのばしておいかけました。こわばったジジの爪がキキの背中にくいこんできます。
シャツはまるで飛ぶのをよろこんでいるみたいに、のばしたキキの手をすりぬけ、すりぬけ飛んでいきます。海からの風に追いあげられると、シャツは陸地のほうに方向を変えました。そして建物がまばらになり、畑や森の広いところに出ると、シャツはやっとおりはじめました。そして、川原のそばの林にすいこまれるように見えなくなりました。もちろんキキも急降下でつづきます。そしてころがるように着地すると、体をくるくるまわして、あたりをさがしました。
「こりゃ、いいや。おあつらえむきの形してる」
川の土手の下から、とつぜん声がきこえてきました。キキはとび出してのぞきました。川原では男の子や女の子がおおぜい集まっていました。いく人かがひとかたまりになって、ちょうどおとなの人の大きさぐらいの模型の船を、水に浮かべようとしています。どの船も白い帆に風を受けて、ぱたぱたと鳴っています。
「たすかったよなあ、天の恵み。ちょうどぴったしのが飛んでくるなんてさ」
「しんぱーん、三十秒でつけかえますから、ちょっと待ってくださーい」
ひときわ大声でこんなことばをさけんでいる一団がありました。キキが目をむけると、なんとしたことでしょう。あのぴんぴん屋さんのシャツを船のマストにくくりつけようとしています。
「やめて、やめて! そ、それーっ、あたしのなのーっ」
キキが走りよると、その声をきいてみんなが顔をあげました。
「そのシャツはあたしのなの」
キキはのり出していいました。
「わりいなあ」
ひとりの男の子が、とびあがるようにキキの前に立ちふさがりました。
「たのむ、貸してよ。かならず返すから。帆がやぶれちゃったんだよ。かわりに使わせてよ。たいせつなレースなんだ。たのむよ」
「だって、あたしだって、だいじな……」
キキがいいかけたときでした。
ぴゅるるるー、と笛が鳴りました。
「さ、位置についてーっ」
川辺に立って審判がさけんでいます。
「ごめん、三十分でおわるから」
先頭の男の子はぱっと頭をさげると、シャツをくくりつけた船をみんなといっしょにかついで、水の上におきました。
「よーい」
バーン。審判の手のピストルが鳴りました。十そうあまりの船が、「そーれい」のかけ声といっしょに岸辺から川のまん中に押しだされ、流れにのって走りだしました。どの船も帆を風でぱんぱんにふくらましています。
「よーし、いけっ」「そうだ、いいぞ」「がんばってーっ」「よそ見すんな、よそ見すんな」
みんな、自分の船を応援しながら、川岸を走りだしました。もちろんキキも走りました。中には気まぐれな船もまじっています。やたらにとなりの船をつんつんつっついたり、ひとり遊びしているみたいに、同じところをいつまでもぐるぐる回っていたり……。ぴんぴん屋さんのシャツはさすがです。ぱんぱんに風をはらんでみごとに走っています。前のボタンをはずした猫背のおじさんのようなへんなかっこうしていても、りっぱに先頭をきって走っています。
「ほら、いけーっ、はやくーう」
キキも思わず応援をしていました。
「あっ」
息をのむような声があがりました。先頭を走っていたシャツ号が、つき出ている岩によっていくではありませんか。船の横腹がずずーっと岩をこすります。そして、あまりにもスピードをあげていたせいでしょうか、そのまま横にたおれてしまいました。帆はべたーっと水につかってしまいました。
「あっ、あっ、あっ」
「だれか船をおこして、はやく」
大さわぎです。するとふたりの男の子が岩をとびこえて近づいて、船をもちあげました。シャツの帆から水がしたたりおちます。ふたりは前後から船をもちあげてぱんぱんと水をきると、川に浮かべて押しました。シャツ号はまた走りだしました。そして、このさわぎのあいだに追いこされた船をじょうずにすりぬけて、また先頭に出ていきました。
「やったあーっ」
キキもとびあがりました。
やがてシャツ号は先頭でゴールにすべりこんでいきました。一等賞です。さっきの男の子がキキに走りよってきました。
「ありがとう。たすかりました。すぐお返しします。ぼくたち水上クラブの会員です。きょうは半年に一度の大会なんです。木の枝にひっかけて帆をやぶいちゃって、どうしようかと思ってたとき飛んできたから……天のたすけと思って……」
「ほんと、空から飛んできたんですもの、天のたすけよね」
キキは笑いながらうなずきました。
「どうもありがとう」
もうひとりの男の子がシャツをかかえてやってきました。
「あれーっ」
それを見てキキは目をまるくしました。ぴんぴん屋さんのぴんぴんシャツがしわしわ。
「どおすんのー」
ジジがきーきー声をあげました。
「かわかして、アイロンかけるわ。ほうきの柄につるして飛べば、うちに帰るまでにかわくから」
「でも、もう夕方だよ。夜になっちゃうよ」
キキはあたりを見まわしました。いつのまにか夕日は林のむこうに姿を消そうとしています。のこりの光で浮きたっていた川の水が、みるみる青みをおびてきました。
「くよくよしたってしょうがないわ。わけを話してあやまっちゃう。あした、きれいにしておとどけするわ」
キキはそうつぶやくと、まわりで申しわけなさそうにかしこまっている人たちにいいました。
「船も風で動くのね、知らなかったわ」
「ええ。こういう帆船はね、風がないと、ただの置物です」
キキはシャツをわきにかかえて歩きだしました。うしろから小走りに追いかけながらジジがいいました。
「とんぼさんたち、きっと心配してるよ」
「あっ」
キキは立ち止まりました。それから暗くなった空を見あげました。
「あとで電話するわ」
「申しわけございません。運ぶとちゅう、ついうっかり風にとばしてしまって、川に落としちゃったんです。もうかわいてますけど、あしたまでにもう一度きれいに洗って、アイロンをかけておとどけします。ぴんぴん屋さんのシャツですから、すごくぴんぴんだったんですよ。あたしもいっしょうけんめいにぴんぴんにしますから、お許しください」
キキはしわしわのシャツをささげもって、あおき荘の部屋の戸口に出てきたおくさんにいいました。
「まあ、そうなの。たいへんだったわね。これ息子の誕生日の贈り物にと思ってつくってやったんです。ですから、お手数ですけど、きれいにしてもってきていただこうかしら」
おくさんのほうも申しわけなさそうにいいました。と、うしろから、
「どうしたの」と声がして、若い男の人が顔を出しました。
「あんた、へんなシャツばかり着てるから、一枚ぐらいはちゃんとした白いシャツがいいと思って、かあさん、つくってもらったんだけど……」
「それをあたしが運ぶとちゅうで失敗しちゃって……くちゃくちゃにしちゃったんです」
「どれどれ」
男の人はシャツを手にとりました。
「おっ、いいじゃない、このしわしわ、いい顔してるよ」
「いい顔? またあんたはへんなこというんだから」
「かあさん、こういうの、しゃれてる、いまてきっていうんだよ。わかってよ。おれ、ちょっとむこうで着てみるよ」
「まあ、まあ」
おくさんは両手をひろげました。
男の人はすぐシャツを着て出てきました。
いい顔ってこういうこと……。
キキはなんだかおかしくなってしまいました。
ほっとして、キキとジジはすっかり暗くなった道を歩きだしました。大あわての半日でした。
「でもさあ、でもさあ、この仕事、これでおしまい?」
「そうよ」
「でもさあ、ぴんぴん屋さんのおばあちゃん、気わるくしないかなあ」
「だけど、いいんじゃないの、おばあちゃんはぴんぴんがすき、あの男の人はしわしわがすきなんですもの」
「それでさ、それでさ、キキはどんな気持ち?」
「ジジ、しつっこいわね。みんながいいっていってるからいいじゃない」
キキはジジにいい返したものの、正直いうと気持ちがもやもやしていました。
「ふーん、水上クラブってのもあるんだ」
とんぼさんは電話のむこうで感心したような声をあげました。
「そうなの、飛行クラブも、水上クラブも、どっちも風まかせっていうのがおもしろいでしょ。でも、あたし、あのとき、あわてたわ。それで全部おわるまで、とんぼさんたちのことすっかり忘れちゃって、ごめんなさい。心配したでしょ? とつぜん消えちゃって」
「ううん、ぜんぜん。キキが飛んでくの見とれてたよ。すごくうまかった」
「ほんと? へんなかっこうしてたでしょ」
「いや、むだな力は使わないでさ、じつに効率よく飛んでた。あれはすごい。風の中にはいっていく角度もいいんだろうなあ。あわててたみたいだけど、飛ぶ形がきちんとしてるの。じたばたしないできまってるんだよなあ。ぼく、あのとき思った。これが魔法なんだなって」
「そうかしら……」
キキはいいかけて、ふと気がつきました。
さっき、ジジにみんながいいんだから、いいじゃないなんていっちゃったけど、だいじなものをとどけるんだから、そんなにかんたんに考えちゃいけないかもしれない。だって、あたしは魔法をあたえられて、飛んでいるんだもの。
キキは自分のほっぺたを小さくつまみました。
でも……とんぼさんったら見とれたっていってた。
でも、心配しなかったって。ぜんぜんだって……。ぜんぜんなんて、なんだかつまらない……。
キキの耳の中で、「ぜんぜん」といったとんぼさんの声がもう一度ひびきました。