8 キキ、船長さんのなやみを解決する
秋も半分以上がすぎて、毎日つめたい風のふく日がつづいています。茶色に枯れた街路樹の葉も、とっくにふきとばされ、キキのいる店の窓から見たコリコの町は、かわいて白く光っていました。
風はコンクリートの建物の角にぶつかり、また角にぶつかってくるせいでしょうか、ふくときは刃物のようにするどく、かと思うと、ぱったりとまり、また急にふきはじめるのです。そのたびにかんたんなつくりのキキの店は、小さな声をあげてゆれました。
(うちのほうじゃ、もう初雪、ふったかしら)
キキは風の音をききながら、生まれた町の冬のはじまりを思い出していました。ある日とつぜん寒くなって、窓から見ると、北の森のうしろの山々が、レースのハンカチをかけたように白くけぶっているのでした。その白いものはだんだんと下におりてきて、やがては町全体をいつのまにかすっぽりとつつんでしまうのです。あの町では、冬のきたのは、風の音ではなく、雪の白い色で知るのでした。そういえば、キキがほうきで飛ぶことをならってはじめての冬のある日に、コキリさんとつれだって出かけたとき、コキリさんは、「どこもかしこもまっ白でしょ。それにときどきお日さまで光って目がいたくなるから、気をつけて飛ぶのよ」といいながら、町の屋根の形を「あのおまんじゅうみたいに見えるのは火の見やぐらの屋根、あの階段みたいになっているのは図書館の屋根、あのま四角に見えるのは体育館の屋根よ」とおしえてくれたのでした。
「魔女は寒さに強いはずなのよ。でも、この町の寒さったら、つきささるみたい」
キキは店先にすわると、洋服のえりをかきあわせてつぶやきました。
「ひまだからさ。動かないからさ」
ジジはちゃっかりキキのスカートの上に乗って、まるくなっています。
寒くなると、人はあまり気がまわらなくなるのでしょうか、それともよけいなことはしないですまそうとするのでしょうか。キキの仕事はめっきり少なくなっていたのでした。
(こんなときは、毛布にくるまって、あったかいもの、そう、サフランのお茶でものみながら、かあさんとおしゃべりがしたいなあ)
キキはとろんとした黄色いお茶のにおいを思い出しながら、コキリさんを恋しく思いました。
「サフランって、いつ植えるのかしら」
キキはだれにいうともなくつぶやきました。そして、毎年くりかえしていた薬草づくりのことも、コキリさんからちゃんとおそわらなかったのを、とてもざんねんに思いました。
(とんがらしのしっぷだって、煮るんだったかしら、いためるんだったかしら。おなかのいたいときの野菜スープに何か入れるのがいいっていってたけど、その何かってなんだったかしら)
キキはつぎつぎコキリさんのやっていたことを思い出しながらも、どれ一つとして、正確におぼえていないのです。
(かあさんのいうこと、どうしてあんなにうるさがったのかしら。いま思うと、ふしぎだわ)
キキは口をむっとまげて、目をふせました。
急に風が強く入ってきました。見ると、入口の戸が細くあいて、きょときょとした目が四つのぞいて、話し声がしました。
「魔女猫はね、さむくなると目が懐中電灯みたいに青緑に光るってきいたけど……うそだよ、ちっともほかのと変わってないよ」
「どれ、どれ、ほんとだ。それじゃ、口をあけると火をふくんじゃないの。魔女猫はマッチのかわりになるって、となりのおにいちゃんがいってたよ。もっとよく見てみようよ」
ジジは、キキと顔を見あわせると、外にむかってわざと目をまるくしてみせ、つづいて口を大きくあけて、はあっと息をふきだしました。
「あっ」と声がしてあわてて戸がしまりました。
「見た? いまの」
「うん、でもマッチにならなかったよ」
「懐中電灯にも、ならなかったよ」
「ちっとも、光らなかったね」
「ただのまっくろくろねこだね」
小さな足音が、ぱたぱたと遠ざかっていきました。
「ふつうの猫でわるうございましたねっ。これだからやんなっちゃう、しょっちゅう近所の子たちにのぞかれるんだから」
ジジはぼやくと、またキキのスカートの上でまるくなりました。
「ごくろうさん。人気ものはつらいわね」
キキは目をぱちぱち動かして、ジジをからかいました。
「いっそのこと、変わったかっこうにしちゃえば? 毛をそめてまっ赤にするとか、サングラスをかけちゃうとか、さ」
ジジは、うらめしげにちらっとキキを見あげると、あとは知らんぷりをきめこみました。
しばらくして、電話が鳴りだしました。
「まあ、仕事かしら、めずらしいこと」
キキが受話器をとると、ゆっくりした声がきこえてきました。
「まじょの……たっきゅう……びん……や、さん……でしょ。ねえ、お、ねがい……が、ある……の。あたし……は、おばあちゃん。あっ、ちょっと……まって。くび……に、はさんだ……でんわ……が、おちそう。あたし……いま、あみもの……で……いそがし……くて、りょうて……が、ふさがって……いるの。あたし……は、おばあちゃん。ぐみの木……どおり……の、ににんが……四ばんち……よ。きて……ちょう……だい」
「は……い、かしこ……まり……ました」
キキもつられて、ゆっくりと答えました。
キキとジジがさっそく飛んでいくと、ぐみの木通り、ににんが四番地は、大川からわかれた小さな川のほとりにありました。空色のペンキをぬった小さな船着き場につづいた、小さな家でした。中に入ってみると、これまた小さなおばあちゃんが、椅子の上にちょんとすわって、あみものをしていました。
「あのね……ちょっと……まっててちょう……だいね。いま……すぐ、この、はらまき……あみ……おわるわ」
おばあちゃんはゆっくり話すわけです。あみものの針を動かすのにあわせて、口も動かしているのです。
「あたしが……すぐ……できる、から……って、いうのに、せがれった……ら、行っちまっ……たんですよ。そんなもの……いらないよ、ばか……ばか……しいって。あのこ……まだ……はんこう……きなの。あ……あ、やっと、でき……あがったわ」
おばあちゃんは、はさみで毛糸を切ると、首と肩をぐるぐると動かしました。
「ああ、つかれた」
それからキキの目を見て、こんどはふつうのはやさで話しはじめました。
「ところで、宅急便屋さん、あなた、おなかはだいじょうぶ?」
「ええ、食事をしたばかりですから。すいてません」
キキはかかとをあげて、元気に背のびしてみせました。
「ちがうのよ。いたくないかってきいてるの」
「ぜんぜん。とっても元気です。どんな遠くにでも行けますよ」
「そういう元気なときは、とくに注意がたいせつですよ。おなかは冷やしてはいけませんよ。いつもあたたかくしておくのがいちばん。たいせつにたいせつに、ね。おなかは宇宙の中心ですから。それにはなんといっても、腹まきがいちばんいいの。それもね、あまり毛糸を色どりよくつないで、いっぱいこぶをつくって編んだのがいいの。あったかなのよ。ねえ、そう思うでしょ」
おばあちゃんはひとりでまんぞくそうにうなずくと、キキの足もとにすわっているジジに目をうつしていいました。
「おや、あんたはどう?」
ジジは返事のかわりに、のどの奥でごろごろと音をたてました。
「あら、たいへん。その音はおなかが冷えてる証拠よ。どこかにあんたにちょうどいい腹まき、ないかしら」
おばあちゃんはまわりを見まわしました。なんと、家の中にある品物は、みんな毛糸の腹まきをしているのでした。電話、コーヒーカップ、ポット、薬びん、やかん、魔法びん、お茶筒、長靴、植木鉢、つえ。
「あ、そうだわ、あれならいい」
おばあちゃんは椅子からおりると、魔法びんの腹まきをはずしました。
「魔法びんと魔法ねこ。それにね、この腹まきね、表は水玉、うらはしまの魔法腹まき。ちょうどいいわ」
おばあちゃんは口にしわをよせて、うれしそうに笑いながら、ジジのおなかにはかせてくれました。その腹まきは、こい桃色とうすい桃色をまぜて編んであって、表は花ざかりのあんず畑のように、うらは春のかすみが流れる朝やけのように見えました。
「まあ、きれい」
キキは思わず声をあげました。それからジジにいいました。
「黒い毛にとってもよくにあうわ」
でも、ジジはあまり気にいらないようです。しっぽをぴんと立てて、ふんと顔をそむけて歩きはじめました。
「あんたにも、編んであげようねえ。宅急便の料金はほんとうにわずかでわるいけど、二つの腹まきってことにしてくれると、たすかるんだけど……」
おばあちゃんは、すまなそうにいいました。
「ええ、もちろんけっこうです」
キキがにっこりうなずくと、おばあちゃんもにっこりして、また口をひらきました。
「腹まきさえすればもう安心よ。こんな完全で安あがりな健康法はありませんよ。ついこのあいだも、町長さんにすすめてやりました。腹まきでおへそをかくしなさい、おへそのまがっているの町の人に見られたらこまるでしょ、ってね。それに、あなた、去年の冬、動物園の動物が集団冷え腹病にかかったの、ごぞんじ? 動物たちに腹まきさせるようにすすめたのに。園長さんたら、うちのせがれみたいにいうこときかないから……今年はだれがなんといおうと、あたし、編んでもっていってやるつもりよ」
おばあちゃんは小さな顔に汗をうかべていいました。
「それでわかったわ。あたしがこれから運ぶ、それ、動物園の象さんのものなんですね」
キキはたった今、おばあちゃんが編みおえたばかりの、青空と雲がまざりあったように見える、きれいな青と白のしまもようの腹まきを指さしました。キキはさっきから、腹まきにしてはずいぶん大きいと、気にしていたのです。
「いいえ、これはせがれのよ。あの子はぽんぽん船の船長さんなんです。なんでもきょうはとてもたいせつなものを、ほら、コリコ湾のとっ先のモリモ半島まで運ぶんだって、朝早く出ていったのよ。たいせつなものってね、ひとかかえもある大きなびんに入った、高級なぶどう酒なんだそうだけど、そっとそっと運ばないと、味が、がたっと落ちちゃうんだそうよ。味って、がたって音をたてるのかしらねえ。あたし、そんな音きいたこともないわ」
おばあちゃんは、口をちゅーっとつぼめると、またいいました。
「モリモ半島には山が二つもあるでしょ。それで船のほうが自動車よりゆれないってことになったらしいんだけど、海には波の山が二つどころじゃないわよねえ。だいじょうぶかしら」
おばあちゃんは一息つくと、キキの返事もきかずに、またしゃべりつづけました。
「そこであなたにおねがいってわけよ。せがれの船はテテ号っていう白いぽんぽん船なのよ。このごろじゃ、あたしと同じようにおばあちゃんになっちゃってね、ぽんぽんなんていう元気なくてさ、ぽかんぽかんってあくびみたいな音させて、煙だしてるけど……この船にね、たいせつなお役目はたせるように、この腹まきとどけてやってほしいのよ。せがれにはちゃんといっといたから。……大川ぞいにさがしていってくださいな、すぐわかると思うけど。ほんとうにいうこときかないせがれで、手間のかかることったら」
おばあさんは、肩をすぼめて、ため息をつきました。
キキは大きな腹まきをうけとるにはうけとりましたが、首をかしげてしまいました。
(息子さんって、どのくらい大きな人なのかしら、こんな小さなおかあさんなのに……)
すると、おばあちゃんはまたいいました。
「せがれがね、まだ文句いうようだったら、あなた着せてやってちょうだい。大きかったら、ちょっとつまんでもいいし、小さかったら、ちょっとひっぱれば……だいじょうぶ」
キキはまだうたがっていましたが、でもにっこり笑っていいました。
「はい、かしこまりました」
キキは、大きな腹まきをマントのように自分の肩にまきつけると、飛びあがりました。
「これならあったかいし、いい思いつきだわ」
ジジは、うしろでぶつぶついっています。
「れっきとした毛があるのに、その上に毛糸じゃ、〝ひつじねこ〟になっちゃう。お年寄りにはいやっていえないし……」
とはいうものの、きれいな色にはまんざらでもなさそうです。
「よくにあってるわよ」
キキがいうと、
「あんたがいってた〝変わったかっこう〟ってのは、こんなもんでいいんですかね」
ジジは、さっきからかわれたことに、お返しをしました。
大川が海に流れこむところに、港があります。岸ぺきには大きな客船が二そう、そしてもう一そうはちょうどタグボートにおされて停止しようとしていました。まわりには無数の小さな船が動いています。ヒュイヒュイヒュイとなにかの合図の汽笛がきこえてきます。左手前方に、モリモ半島が、女の人のくちびるのような形でのびています。高い空から見ると、なにもかもがゆっくりで、なんだかもどかしいような気さえします。キキはときどき空中にとまって、テテ号と書いてある船はないかとさがしました。港の中にはめざす船がいないのをたしかめると、こんどは海の上に出ていきました。風が急に強く下からふきあげてきます。船の数はぐっと少なくなり、ほうぼうにちらばっています。遠くにどうやらぽんぽん船らしい船が見えてきました。青い海に、白い小さな花びらのように浮いていました。近づくと、おばあちゃんのいっていたとおり、ぽかんぽかんというあくびみたいな音を煙突から煙といっしょにあげていました。船の横腹には、ペンキがはげかかっていても、テテ号という文字がなんとか読めました。
キキは上から声をかけました。
「テテ号さーん、船長さーん。おとどけものでーす」
甲板で、たくさんのびんに抱きつくようにしていた船員が何人か、おどろいて顔をあげました。
「魔女の宅急便でーす。おりてもいいですか」
「どうぞ、どうぞ」
船長さんが
「でも、積荷をおどろかさないように、そっとおりてきてくださいよ」
といいました。
「あら、ワインじゃなくて、生きものだったんですか」
キキも小さな声になって、しずかに甲板におり立ちました。
集まってきた船員たちは、とつぜん空から現われた女の子を、びっくりして見つめています。でももっとびっくりしたのは、キキのほうでした。大きいと想像していたのは船長さんのおなかだけだったのに、ほかの船員さんのおなかもみんなそろって、お金持ちの食いしん坊みたいにふくれていたのです。これでよく船が沈まないものです。キキは笑いたいのをこらえていいました。
「船長さん、おかあさんからのおとどけものですよ。あったかい腹まきです」
「えーっ。おふくろったら、しつこいなあー」
船長さんはさもうんざり、というような声をあげ、船員さんたちも、「まいっちまうよな」と小声でいいながら顔を見あわせました。
「でも、これ、船長さんのそのおなかにも、大きすぎるみたい。だぶだぶじゃないかしら。つまんでくださいっていってたけど、それにしても……」
キキは、海の上だといっそうきれいに見える空色と白の腹まきを、ひろげて見せました。
「いやですねえ。わたしんじゃありませんよ。じつはこれ、船の煙突の腹まきなんです。ぽんぽん船のくせに、このごろぽかんぽかんというようになっちゃったもんだから。おふくろのいうには、煙突の腹が冷えたせいだっていうんですよ。それには腹まきがいちばんだ、ってわけで……つきあいきれませんや、まったく」
「えーっ、煙突の腹まきだったんですかあ……」
キキは、ぽかんとして、船の煙突を見あげました。なるほどこれなら、大きさはぴったりのようでした。
船長さんが大げさに顔をしかめました。
「おふくろときたら、世界じゅうの腹をあたためなくちゃ気がすまないんですから。まいりますよ。ほら、見てください。わたしだってちゃんといいつけ守って、このありさまですよ」
船長さんは、はじけそうな上着のボタンをやっとはずすと、その下には、腹まきが何まいも何まいもかさなっていました。はでな色が渦をまいています。
「わたしたちも、これじゃ働けませんや」
そばの船員たちも上着をめくってみせました。そこも腹まきの渦です。食いしん坊腹と思ったのは、じつは腹まき腹だったのです。キキはそっくりかえって笑いだしました。
「あの……船長、このかたは……」
ひとりの船員さんが、おずおずと口をだしました。
「いま町で評判の、魔女の宅急便屋さんとちがいますか?」
「ええ」
キキはうなずきました。
「それじゃ、ひとつ、お願いしてみたらどうでしょう。うわさにきくと、なんでも運んでくれるっていうから。この船まるごと運んでいただいたら……空には、やっかいな波がないでしょうから」
「えっ、なんですって」
キキはびっくりしてしまいました。
「船を? まさか。どうして、そんな」
「じつは積荷のせいなんですよ」
船長さんがいいました。
「上等なぶどう酒なもんですから、そっと運ばなくちゃならないんですが……そんな遠いところまで運ぶわけじゃないから、甲板におくだけでいいだろうと思ったのがいけませんでした。どうしてもびんとびんとがぶつかっちゃって、これじゃ味が落ちてしまうんですよ。みんな総出で、いっしょうけんめいおさえているんですが、たいへんな仕事で……」
いわれてみると、甲板にならんでいるびんは、ぶつかりあってかちかち音をたて、中のぶどう酒にこまかい泡が浮かんでいました。
「それなら、はなしておいたら?」
「そうすると、ころげるのが出るしまつで。やっぱり空飛んで運ぶのは、むりでしょうねえ」
キキはこまって目をうろうろ動かしました。キキのお店の看板には、どんな品物でも運ぶ、と書いてあるのです。これは約束、やぶるわけにはいきません。でもいくら、ぽかんぽかんのあくび船だからといっても、船は船です。ちょっと持って運ぶというわけにはいきません。
「あの……びんとびんがぶつからなければいいんですか」
キキはみんなのふくれたおなかと、同じようにぷっくりふくれた形の大きなびんを、かわりばんこに見ました。
「そう、そうなんです。かんたんなことなんですが、船の上ではむずかしくって」
「それならいいこと考えられそうですわ。こまったことが一度に二つも解決できるようなこと」
「そ、それ、なんですか?」
船長さんも船員さんも、のりだしてきました。
「でも、やっぱり、おかあさんのいいつけは、守らなくちゃいけないでしょうか」
キキは船長さんを見つめました。
「おふくろに目をつぶっててもらいましょうか」
船長さんはにやっと笑って肩をすくめました。
「それなら……」
キキは大きな声でいいました。
「みなさんの腹まきをとって、ぶどう酒のびんのほうに、はめたらいかがでしょう。それなら、みなさんのおなかがやせて働きよくなるし、びんはぶつからないし、ぶどう酒はまずくならないし」
「ほう、なる、ほど、ねえ」
船長さんは、さっそく自分の腹まきをぬぎにかかりました。ぐっとさげて、足からひきぬきます。みるみるおなかはへこんでいきました。船員さんたちも負けてはいられないと、ぬぎはじめました。たちまち色とりどりの腹まきの山が甲板にでき、そばにはスタイルのいい船員さんたちがそろいました。
つづいてみんなは、腹まきをぶどう酒のびん一つ一つにていねいにはかせていきました。こんどは、びんがいろんな色の腹まきをつけ、お金持ちの食いしん坊みたいにおなかをふくらませて、甲板にならびました。もうかちかちぶつかる音もしません。
「なるほどねえ」
みんな、ほっとしたようにうなずきあいました。
「じゃ、わたしはこれで……」
キキはジジといっしょにほうきにまたがりかけて、船長さんにいいました。
「あっ、わすれてた、この煙突用腹まき。そうだわ、一つだけでもおばあちゃんのいいつけ守って、着せてあげたらどうでしょう」
「はあ、そうですな」
船長さんがしぶしぶ、でもすこしほっとしたような顔つきでいうと、船員さんたちもうなずきました。それからみんなで力をあわせて、空色と白の腹まきを煙突に着せました。
「じゃ、こんどこそ、これで失礼します」
キキは手をふりながら、飛びあがりました。そしてコリコの町のほうにほうきの柄をむけました。うしろから追いかけるように船の音がきこえてきます。気のせいか、ぽかんぽかんじゃなくて、ぽんぽんという音に変わってきたような気がしました。
そのつぎの日、キキは新聞を見てびっくりしました。テテ号の乗組員全員に集団冷え腹病発生、と書かれてあったのです。またその下にはこんな記事ものっていました。
「モリモ半島の、ある酒屋では、美しい毛糸の帯をつけたぶどう酒を売り出しました。味といい、その形といい、一見の価値あり。ただし値段のほうは多少高め」
それから一週間がたちました。ジジは、あのおばあちゃんにもらった腹まきをぬごうとしませんでした。それどころか、しっぽでばたばたはたいて、いつもきれいにしています。というのは、町を歩いていたとき、こんなことをいっている人がいるのを、ジジはちゃんときいたのです。
「まあ、魔女猫はちがったもんねえ。魔法をあっためているのよ、きっと」
そしてまた一週間ほどたったころ、おばあちゃんからキキに、腹まきができたという知らせがありました。キキがとりに行くと、おばあちゃんは、ドロップのびんの中みたいにいろんな色のまざった腹まきを見せていいました。
「あんた、いつも黒い洋服ばかりだから、せめて腹まきぐらい、はでに楽しみなさいな」
そこでキキは、もう一つおねだりしました。
「おばあさん、あたしにもあみものおしえてください。あたし、いろんなことできるようになりたいんです」
「ええ、おやすいご用よ。それでなに編みたいの」
おばあちゃんは目を細くして、キキを見ました。
「かあさんととうさんの……」
「もちろん、腹まきね。それはけっこうだこと」