7 キキ、ひとの秘密をのぞく
とんとんとん。
店の戸をたたく音がしました。二階にいたキキがいそいでおりていくと、戸口に、女の子がひとり立っていました。くるくるとまるまったこい茶色の髪がやさしく顔をつつみ、うすいピンクのセーターがよくにあっています。細い足には、ひざまでの白いブーツが光っていました。キキには女の子の姿が、まるで空中に浮いているようにまぶしく見えました。
「あっ、い、いらっしゃいませ」
キキはすっかりあがって、ことばがのどからよくでてきません。自分と同じぐらいの年のお客さんは、はじめてのことだったのです。
女の子もキキを見ると、一瞬ふっと息をすいこみ、目をふせると、同じようにことばをつまらせました。
「あたし、あっ、あの……」
「おとどけものですか?」
キキは、すこし気をとりなおしていいました。
「なんでももっていってくださるってきいたから。あなたが運んでくださるの?」
女の子はこわばった顔に笑いをうかべて、首をかしげました。
「ええ、ちゃんと。ご心配はいらないわ」
「そう」
女の子はうなずいて、黒い目をきらりと光らせると、わざとらしくゆっくりとまばたきをしました。キキに見せびらかすように念をいれてすましているふうにも、見えました。
「とどけていただきたいの、だけど……ちょっと秘密なの」
「秘密?」
キキはまゆをよせてききかえしました。
「でも、けっしてわるいことなんかじゃないわよ」
女の子はあごをしゃくって、キキをななめに見あげました。それから片手をあげて入口の柱によりかかりました。セーターのえりもとに、細い銀色のブローチが光っているのが見えました。
「贈りものをとどけてほしいのよ、アイ君にね。きょうは彼のおたんじょう日なのよ。十四歳になったの。いいでしょ」
女の子は、彼のたんじょう日を自分でつくったみたいにじまんしていいました。
(いいでしょ、って……なにがさ)
キキはいらいらして口の中でつぶやきました。女の子は、いいつづけました。
「でもね、あたしからの贈りものだってこと、いわないでほしいの」
「あら、どうして?」
キキはすこしいじわるい声でききました。
「どうしてっても……アイ君とは小さいときから知ってるのよ。だから今でも私のこと、ちっちゃな女の子ぐらいにしか考えてくれないの。あたしもう十三になったのに……」
「それだから秘密にするってわけ? へんね」
女の子はキキを見あげて、ほこらしげにふっと笑いました。
「あなたわかんない? こんな気持?」
キキは、ますますいらいらしてきました。
「まさか、贈りものって、へんなもんじゃないでしょうね。あけたらカエルがとびだすとか、そういうの、あたし、おことわりしたいのよ」
「ふふふ、あなたって……」
女の子はおとなっぽく低い声でまた笑いました。
「魔女ってきいていたけど、何も知らないのね。同じぐらいの女の子はみんな、そういうことして遊ぶものだって思ってるの?」
「そんな……」
キキはかっとしてにらみました。すると、女の子はすずしい顔で、長い髪をかきあげ、その手をスカートのポケットにつっこんで、
「あたし、おこづかいぜんぶつかって、アイ君とおそろいの万年筆買ったの。ほら、見て」
と、銀色の万年筆を一本出し、同時にセーターのえりをめくって、もう一本の万年筆が内側にささっているのを見せました。キキが銀色のブローチと思ったのは、万年筆のクリップだったのです。
「こういうの、肌身はなさず、っていう持ちかたなの。おそろいのときのね。ちょっとはやってるのよ」
女の子はまたじまんたっぷりに肩をつんともちあげました。
キキは、あっさり「そうなの」っていおうとしました。この人はお客さまです。「わかりました」と品物をとどければいいのです。ところが、口をあけたら、こんなことばがとびだしてしまいました。
「それで、どうしておそろいってことになるの。アイ君って人は、あなたからの贈りものだってことも知らないのに」
「そうよ、でもあたしは知ってるもの」
キキのせいいっぱいとげのあることばなんて、あっさりす通りです。それどころか女の子は、どこかを見つめてうっとりとしているではありませんか。
「すてきな贈りものなんだから、自分でわたせば? なんでもないじゃない」
キキは追いかけるようにいいました。
「だってあたし、はずかしいんですもの」
女の子はまたゆっくりとまばたきしました。それははずかしいのがとてもいい気持とでもいっているふうでした。キキは、この自分と同じ年の女の子が、ずっとおとなに見えて、ふいに胸をおされたようなショックを感じていました。
「はずかしいだなんて、へんね」
キキはまた、いいました。
「あら、あなた、そういう気持、まだわからないの?」
女の子はうっすらほほえんで、キキをあわれんでいるみたいです。
キキは負けまいとして、いそいでいいかえしました。
「アイ君がどう思うか心配なのね、もしかしたらめいわくってこともあるし……ね。あたしだって、わかるわよ、それぐらい」
「あら、そんな心配してないわ。あたし、ちょっとかくしたいだけなの。秘密っぽくしたいだけなのよ、ふふふ」
キキは女の子をあらためてじっと見つめました。このきれいなピンクのセーターの下には、ずいぶんややっこしい気持がかくれているんだなとおどろいてしまったのです。ふつうの女の子って、みんなこうなのかしら……。キキはちらりと、とんぼさんがいったことばを思い出しました。
(あたしってやっぱり、女の子には見えないんだ……)
女の子はなおもつづけていいました。
「あなた、知らないの。男の子ってそういうものなのよ。半分しかわからないと、もう半分をどうしても知りたくなるんですってよ。だから、あたし、アイ君にさがしてもらうのよ」
「贈りものがだれからきたのかを?」
「そうよ」
「もしさがしてくれなかったら?」
「そんなことないわよ。ぜったいにないわ」
女の子はじゅうぶん自信がありそうに見えました。
「わかったわ。その万年筆をおとどけすればいいのね」
キキは、このいつまでもつづきそうなややっこしい話を、おしまいにしたくなりました。
「おねがいします。それからこれもいっしょに……」
女の子はポケットをさぐり、黄色の小さな封筒をとりだしました。
「お手紙ね」
「そう、でも中は、詩なのよ」
「詩って、歌みたいな……」
「そうよ、あたしがつくったの。あなた、知らなかった? 男の子への贈りものには、詩はつきものっていうわよ」
キキはまた話があともどりしそうなので、いそいでたずねました。
「それではアイ君の住所は?」
「大川のむこうのみずき通り、動物園の西側、三十八番地。でも午後になると、すぐ近くのグラウンドでたいていひとりテニスをしているわ」
「で、あなたは?」
「名前は秘密よ。みずき通りのおとなりの、かやの木通りにいるの」
「そんなに近いのなら、あなたが行けばいいのに」
「だって……」
「わ、わかった、わかったわ」
キキはあわてて手をふりました。
「もしあたしに会っても、知らんぷりしててよ。あ、そうそう。お礼をしなくちゃね」
女の子のことばに、キキはちょっとまよってから答えました。
「あたし、もしよかったら、このあとどうなるか知りたいの。おしえてよ」
そういいながらキキは、もしアイ君が見つけようとしなかったら、おもしろいな、と、ちょっぴり期待しました。
「アイ君があたしをさがすか、どうかっていうこと? あなたって、知りたがりやなのね。いいわ、おしえてあげる」
女の子はあくまで自信たっぷりに見えました。
「それなら、お礼はいらないわ」
「まあ、それでいいの?」
「だって、あたし……」
キキがいいかけると、
「男の子の研究ってわけね、わかる、わかる」
女の子はさも先輩ぶって、うなずきました。キキは返事のかわりに鼻にしわをよせて、きこえないくらいの小さな声で、イーッといいました。
女の子が帰ってしまうと、キキは鏡の前へ行って自分を見つめました。ブラシで髪をすいたり、黒い洋服のえりをゆがむようにずらしてあけたり、背中をそらしておしりの形を見たり、そのあと楽しそうにひとりごとをいいました。
「もしかしてさ、アイ君がさ、あたしをその女の子だって思うかもね。そしたら、どうしよう」
そばでジジが、あきれたようにひっくりかえり、
「女ってさ、単純。つきあってられないよ」
といって、大きなあくびをしました。
「じゃ、いっしょにこないの?」
キキが万年筆と封筒をポケットに入れ、上からぽんとたたくと、ジジはのっそりと起きあがりました。
キキとジジは店の前から飛びあがりました。このごろ急につめたくなった風がほほをうちます。空の上から見ると、町の景色はもうすっかり秋でした。この町に多いいちょうの葉は、まっ黄色に色づき、たまにきまぐれな葉が、こんな高いキキのところまでのぼってきて、胸にぺたりとはりついたりしました。
「キキ、きょうはずいぶんゆっくりしてるんだね」
ジジがうしろから声をはりあげました。
「同じとこばかりまわっているよ」
「あら、そうかしら」
キキははっとわれにかえって、下を見おろしました。じつはさっきから、ずっと一つのことばかり考えていたのです。それはポケットの中、そしてそのまた封筒の中の女の子の詩のことでした。
キキは小さかったとき、こんな詩をつくったことがありました。
おくつはくつくつとわらいます。
ぼうしはかぶるかぶるとわらいます。
わたしは おかしいとわらいます。
あとにもさきにも、詩というものと縁があったのはこれっきりです。封筒の中の詩がこんな幼稚なものでないことぐらい、キキにもわかります。男の子にあげる詩なんて、いったいどんなことが書いてあるのでしょう。あの人はあんなにきれいだったしおとなっぽいから、きっとすごいことが書いてあるにちがいありません。キキはいろいろ想像して、胸がどきどきしてしまうのです。見てはいけないと思えば思うほど、封筒はポケットからとびだし、どんどん大きくなって、目の前いっぱいにひろがっていきます。
「ジジ、あたし、ちょっと休みたいんだけど……あの土手におりて」
「まだ、飛んだばかりだよ」
「だって、秋ですもの」
キキは答にならない答をつぶやいて、とんびのような大きな円を描くと、もうおりはじめています。やがて、大川と土手とのあいだに長くのびている公園に、足をつけました。
公園には人かげがなく、風にふかれてブランコがひとりでゆれていました。そのむこうに、ときおり白い波をたてて大川が流れています。
「ジジ、ちょっとなら、どこかで遊んできてもいいわよ」
キキはまっ黄色の葉をしきりに落としているいちょうの木にほうきを立てかけ、自分はその葉がつもった根もとにすわりこみました。
「いいよ、ここにいるよ。寒いから、はやく秋とやら、すませてよ」
「まあっ、ジジったら」
キキはこまったように笑うと、
「散歩でもしたら? おともだちのねこじゃらしが、ほら、土手にいっぱいあるわよ」
とくりかえしました。
「ぼくをじゃまにするの」
ジジが目をとがらせました。
「そう、じゃまなんだ」
キキは風でみだれる髪をおでこの上までかきあげて、ちょっとおどけていいかえしました。
「かくしごとなんだね」
「そう、やっぱり……いけないかな?」
キキは首をすくめました。
「でもさ、こわすとかさ、なくすとかさ、よごすとかさ、するわけじゃないもんね。ちょっとだけだもんね。ちらりだもんね。えい見ちゃえっ」
「さっきからなんのこと? それ」
ジジがむっとした顔で、キキの目をのぞきました。
「ジジ、おこっちゃいやよ、あたし、あの人の詩をどうしても見たいのよ。わるいとは思うけど、でも見たいのよ。これもね、魔女のひとり立ちのお勉強っていえなくもないんじゃない」
キキもジジの顔色をうかがいました。
「なくもないないとか、ややこしいこということないよ。そんなことなら、見ちゃえば。あのきどったブーツのでしょ」
ジジはあっさりうなずきました。
「だけど、ぼくにだって勉強だからね。ちゃんと読んでよ」
「まあ、ジジったら」
キキはさっそくポケットの封筒をとりだしました。黄色い封筒の表には、花束の絵がもりあがって浮いてみえます。
「かんたんにあくといいけど……」
封筒のはじを持って、しずかにそらすと、くっついていたのりが、ぱりっと音をたててはがれました。中に、同じもようの紙が半分に折って入っていました。ころんとまるい字で詩は書いてありました。
キキは小さな声で読みはじめました。
おたんじょう日 おめでとう
声をだしていいたいわ
でもなぜか あとずさり
おたんじょう日 おめでとう
目をみていいたいわ
でもなぜか あとずさり
贈りものをおわたししたいわ
あたしの手から あなたの手へ
でもなぜか あとずさり
おいわいで 心いっぱいなのに
どうしても あとずさり
「ふーん、ずいぶんあとずさりしちゃうんだねえ。よわむしの猫みたいだ」
キキがスカートのひざの上に手紙をおくと、もう一度のぞきこんでジジがいいました。
「あの人がほんとうに書いたのかしら。なんだかにあわない。あんなに自信まんまんだったのに」
キキも首をかしげています。
「さ、もとどおりにしておとどけしなくちゃ」
キキが封筒を片手に、詩の紙をとりあげようとすると、急にふいてきた風にスカートがもちあがり、紙はキキの手をすりぬけて、空中にまいあがってしまいました。あっというまのできごとです。キキは追いかけて走りだしました。紙はつかもうとするとまいあがり、いちょうの落ち葉といっしょになって、まるでキキをからかうように飛んでいってしまいます。キキは先へと手をのばし、よろけてはまた走ります。
「ほうき、ほうき。乗って、はやく」
ジジのあわてた声がします。
キキはほうきをとりにもどろうとして、草の根につまずいてころんでしまいました。
「あーあ」ジジの叫び声がします。
「お、落ちちゃったよーう」
立ちあがりかけたキキの目に、黄色い紙が川の中に落ちて、流れていくのがちらりと見えました。
「あ、あっ、あっ」
声ばかり追いかけたって、足のほうがまにあいません。キキがやっと走りだしたときには、川のはやい流れにおしやられて、紙はもうどこにも見あたりませんでした。
「どうしよう」
キキはぼうぜんと立ちすくんでいました。
「こんどの失敗は、ぼくじゃないよ」
ジジがうしろからいいました。
「やっぱり、ひとの手紙の中なんて見るから、ばちが当たっちゃったんだわ」
キキはしょんぼり肩を落としました。
「しょうがないわ。あやまるより」
「かわりに口で詩をいってあげたら……」
ジジはせいいっぱいのなぐさめ顔です。
「それじゃわるいわ。あの人の気持わかるもの。人にいってもらうなんて、あたしだっていやよ」
「ならさ、ここに落ちてる葉っぱに書いたら? ぼく、詩、だいたいおぼえてるよ」
「……そうねえ。だれからの手紙かわからないんだから……」
「だいじょうぶだよ」
「……ええと、はじめは、おたんじょう日、おめでとう、だったわよねえ。じゃ、ジジ、てつだってくれる?」
キキはまわりを見まわして、大きないちょうの葉を一枚えらんでひろうと、また木の下にすわりました。それから、贈りものの万年筆をポケットから出してキャップをはずし、書きはじめました。
「『おたんじょう日……』のつぎは『声をだしていいたいわ』だったわ」
「そう、そして『でもなぞなぞ あとずさり』っていうの」
「いやだわ。『なぞなぞ』じゃないわ。『なぜなぜ』よ。そしてつぎは……『目をのぞきたいわ』で……また『あとずさり』でしょ」
「あんまりじょうずじゃないみたいだね。同じことばかりいってさ」
「そうかしら……さっきはいいと思ったけど……えーと、つぎは、贈りもののこと」
「万年筆でしょ」
キキは手もとの万年筆に目をやりました。
「これ、さすがよ、とっても書きいいわ。それで、『おそろいの贈りもの 銀色の万年筆』と……」
ジジが目を空にむけて考えながら、書いているキキにいいました。
「たしか、銀色なんて、なかったよ」
「でももう書いちゃった。銀色なんだからいいわよ。つぎは『あたしの手から あなたの手へ』ここはすてきだから、よーくおぼえてるの。また『あとずさり』あら、『あとずさり』だった? こんなに何回も?」
「ちがうよ。そう、『なぜなぜ かくれんぼ』だったよ」
「そうよね。あとははっきりおぼえてるの、『おいわいで 心いっぱいなのに どうしても かくれんぼ』っていうの。ああ、よかった。ちゃんと書けたわ」
キキがふうっと息をつくと、
「どれどれ」ジジものぞきこんで、「上出来だよ」とうなずきました。
キキとジジがまとめた詩は、こんなふうになりました。
おたんじょう日 おめでとう
声をだしていいたいわ
でもなぜなぜ あとずさり
おたんじょう日 おめでとう
目をみていいたいわ
でもなぜなぜ あとずさり
おそろいの贈りもの 銀色の万年筆
あたしの手から あなたの手へ
でもなぜなぜ かくれんぼ
おいわいで 心いっぱいなのに
どうしても かくれんぼ
キキとジジは飛んでいきます。大川をこえ、高いビルをまあるくよけて、やがて動物園の人ごみを下に見ると、ゆるやかにおりはじめました。
キキは、みずき通りの中ほどにあるグラウンドに目をとめました。枯れた芝生の上で、壁にむかって男の子がひとり、ラケットをふっているのが見えたのです。
「あの人だわ」
キキはほうきの柄をいそいで下にむけました。
「アイ君ですね。おたんじょう日、おめでとうございます」
グラウンドのすみにおり立ったキキは、男の子に近づいていいました。
「えっ、ぼくに? どうして? でもぼくのこと、よく知ってるね、君」
ひやけした顔で、黒い目がふしぎそうにくりくりと動いています。
「十四歳になったんでしょ。でも、あなたをよく知ってるのは、ある女の子で、あたしは、ただのおつかいさん」
キキはちょっとじらすように笑いかけました。
「女の子? だれ? それ?」
「さあ、だれでしょ。この町の女の子よ。その人からの贈りもの」
キキはポケットから万年筆と封筒をとりだしました。
「へえすごい。ぴかぴか光って、ロケットみたいだ」
男の子は万年筆を目の高さにあげて、くるくるまわしてみせ、それから、ひょいとシャツのえりにさし、上からぽんと軽くたたきました。
「まあ、ほんとう。おそろいだわ」
キキはとっさに男の子のえりもとを指さすと、感心してさけびました。
「この手紙の中に、名前、書いてあるかな」
男の子は封筒のふたをめくろうとしました。とたんにキキは、いやでも中の落ち葉のことを思い出しました。
「あ、待って、えーと、どうかしら、じゃあ、あたしは、これで……」
とっさにわけのわからないことばをつぶやくと、キキは、大いそぎでうしろをむいて歩きだしました。
「ねえ、いったい、だれなの? おしえてよ」
男の子の声が追いかけてきます。キキはうしろをむいたまま首をふって、
「いわないって約束なの」
とさけびかえしました。
(やっぱり知りたがってる、半分を……)
キキはちらりと、うれしそうなあの女の子の顔を思いえがきました。
それから三日して、あの女の子が風に追われた葉っぱのようにキキの店へとびこんできました。キキはなくした手紙のことがあったので、思わず下をむいてしまいました。しかし、彼女は、
「魔女さんいる?」
と、うたうようにいうと、片足でくるんとひとまわりしたのです。白いブーツが光りました。
「アイ君たらね、あたしのこと見つけたわよ。贈りものは君からだね、って」
「よかったわね」
キキも思わずはずんだ声で答えました。
「でも、おかしいのよ、アイ君たら、へんなこというの。『君、落ち葉とは、考えたね。すてきな思いつきだね』って。あなたが空を飛んで運んでくださったとき、どこかに落ち葉がまぎれこんだのかしら……でも、いいんだ。あたしってわかったのはね、その落ち葉でじゃなくってね、この万年筆でだったんですもの。ほらここ、同じだったから」
女の子はえりもとを指さして、うれしそうに笑いました。
今、すなおによろこんでいるこの人を見ていると、キキはつっぱっていた気持もうそのように消えて、自分までうれしくなってしまいました。それで、思いきって口をひらきました。
「あたし、ほんとのこというとね……」
すると、同時に、女の子も、
「あたし、白状しちゃうとね……」
といいかけていました。
「あら」
ふたりは顔を見あわせました。
「魔女さんが先にいって」
女の子はいいました。
「あたし、わるいことしちゃったのよ」
キキは目をふせて、女の子の詩を見てしまったこと、その紙を飛ばしてしまって、かわりに落ち葉に詩をうつしてアイ君にとどけたことを、ぜんぶ話しました。
「まあ」
女の子はちょっとがっかりした声をあげました。
「ごめんなさい。でも詩はね、ちゃんと思い出して書いたつもりよ。あなたがお店にきたとき、あたしと同じ年なのにあんまりきれいだったし、それになんでも知ってるみたいだし……そんな女の子って、どんなこと書くのか知りたくって……がまんできなかったの。ゆるしてね」
「まあ、あなたもそう思ったの。あたしもよ」
女の子はいいました。
「アイ君があたしをさがしてくれるなんて、ぜんぜん自信がなかったの。名前をいったら、『あ、そう』なんていわれて、問題にしてくれないと思ってたの。でも、ここにたのみにきたら、年も同じぐらいなのにあなたがとてもおとなっぽくきれいに見えたんですもの。とたんにどうしたわけか負けられないっていう気持になっちゃって。ごめんなさい。……魔女さんとあたし、おたがいに似ているみたい。気があいそうね」
女の子はこの前と同じように、すてきなまばたきをして笑いました。キキもそれに笑顔をかえすと、ちょっとまじめな声でいいました。
「あたし〝魔女さん〟なんだけど、キキって名前なの。これからそう呼んで」
「あたしはふつうの女の子なんだけど、ミミって名前なの。これからそう呼んで」
女の子は、キキの口調をまねて笑いながらくりかえしました。