自分では無い人間を、他人を、愛おしいと思った──愛と言うのは、執着という醜いものにつけた仮りの、美しい噓の呼び名かと、私はよく思います、と伊藤整は言った。この気持ちが愛かどうかは分からないけど、好きと云う感情が執着でも構わないし、仮の呼び名でも何でも良い。この感情をどう定義しようが構わないし、それこそ伊藤整の言う、清らかな空気の中に浮ぶ心かも知れない──私はただ、この男の子とずっとこうして居たいと願い、私を求めてくれるこの男の子の姿が可愛いと思っただけ。それを愛おしいと呼称したに過ぎない。
「夏休み、デートしようね」
「涼しい所で、だろ?」
「よく分かってんじゃん」
「図書館で課題でもするか?」
「えー、そんなのつまんない」
「じゃあ、映画でも行くか?」
「映画も良いよね。行こ。HEATみたいなのが観たい。渋いおじさん達が銃撃戦する映画」
「昔から好きだよな、そう云うの。小学校の自己紹介で、好きな映画はワイルドバンチですって言い放ったもんな。そんな女子、後にも先にも那織しか知らない」
「なんか文句でもあるの?」
「ないよ。僕はそういう女の子が好きなんだって」
「だよね、知ってる。私の好きな男の子は、将来の夢に探偵か宇宙探索って書いてた」
「昔の話は恥ずかしいからやめてくれ」
「先にしたのはそっちでしょ?」
「ごめん、そうだった。話戻すけど、今年の夏は色んなところに行ったりしような」
「うん、行こう。きっと、今年の夏は短いよ」