真名が目を覚ましたので、私も服を着る。
自分の長い髪を、いつになく邪魔っけに感じる。キスするとき、気をつけていないと、髪の毛が挟まってしまう。切ろうかな。
って、いまさら切ってももう遅いわ、もう二度とあんなことしないんだから。
……本当に?
楽しかった、と言えば嘘になる。楽しくなかった、と言っても嘘になる。
そもそも、そんなことはどうでもいい。私が真名を好きなのは、楽しいことをしたいからじゃない。なんのためでもなく、ただ好きで、それだけ。
だから、もし、また真名が求めてきたら、断れないかもしれない。
「お茶、飲む?」と真名。私がうなずくと、キッチンに行った。
服を着て、髪を結わえ、眼鏡をかける。部屋の明かりをつけ、机の上にある鏡を借りて、顔や首筋をざっとチェックする。もしキスマークかなにかが残っていたら、どうにかして父の目をごまかさなきゃいけない。幸い、なにも見当たらなかった。
真名がお茶を持ってきて、ちゃぶ台に置く。湯呑みを手に取ると、自分の体が冷えているのに気づいた。日が落ちて寒くなってきたのに、部屋の暖房を強くしなかったからだ。
「シャワー使う?」と真名。
「もう帰る。遅くなると父がうるさいの」
「そう。ちょっと待って」
真名は、コムズ白山にいるときにいつも持っているトートバッグから、筆ペンと、短冊を綴じた束を出した。
なにを書くんだろう。本を古書店に持っていった件は、もう書いてもらった。私は真名の背後に回って、筆の描く軌跡を眺めた。
くずし字は、カタカナだけは読みやすい。件名のところに、その読みやすいカタカナが、四文字並んだ、ように見えた。でも私はくずし字が読めないから、本当は全然違う文字なのかもしれない、「と」に見える字が「今」で「金」のことだったみたいに。
でも私の手は氷のように冷たくなって震えている。
「なんて書いてあるの?」。できるだけ普段どおり、物柔らかに言おうとした。でもまるで自分の声じゃないみたいな声だった。
真名は首をかしげた。なぜそんなことを訊くのかわからない、という風に。それでも、件名の全体を指で示し、言った。
「NGワードその一」