エピローグ

 

「ねえねえ、ソナちゃん。ハルちゃんたちは大丈夫かしら……」

「ユグ……そんなに心配なら、一緒についていけば良かったのではないか?」

 やしろのような作りの、どこか神聖な空気に包まれた部屋に、2人の女性の声が響く。

 しかし、部屋の中にいるのは、黄金の髪を持つエルフの少女のみ。

 その会話の相手は、せまい部屋のどこにも見当たらない。

「だって、ハルちゃんが、妖精たちも親離れする時が来たって言うから……」

 虚空から聞こえたその声に、エルフの少女は深いため息をつく。

「それならばついでに、子離れもしたらどうだ? あまり過保護なのもよくないだろうに」

「ううぅ……ソナちゃんのいじわる!」

「そうか、それならば、意地悪な私は黙るとしよう」

 エルフの少女はめいそうを始め、辺りには静寂が訪れるかのように思えた。

 しかし――

「ああ、ハルちゃんたちはいじめられてないかしら。他のダンジョンは恐ろしいところだっていうし、もしかしたらモンスターに食べられちゃうかも……ねえ、ソナちゃん。ほんとに大丈夫なのかしら?」

「知らん」

「ソナちゃんが冷たいよう。ハルちゃんも、最近はめんどいって言って、ぜんぜんかまってくれなかったし――」

 ブツブツとつぶやき始めたその声を無視して、エルフの少女は精神を集中させ始める。

「ねえねえ、ソナちゃん――」

「……」

「ソナちゃんってば――」

「……」

「ソーナーナちゃーん!」

 虚空から響く声が執拗に彼女へと語り掛け、その集中を乱す。

 めいそうを邪魔された少女の肩が震え始めるが、声の主はそれすらもチャンスだと判断したようで追撃を始める。

「あれは、ソナちゃんがまだ、ぴちぴちの100歳の時でした――」

「ええい、うるさい! ハルたちが無事か、確かめればいいのだろう!」

 とうとう根負けしたエルフの少女は、深い深いため息をつくと、虚空へと目を向ける。

「やったぁ! さすがソナちゃん。頼りになるぅ!」

「……まあ、私もいろいろと確かめておきたいと思っていたからな。ちょうどいい機会だ」

「いろいろ?」

「ここ最近の地脈の乱れの原因に、あの乱暴者をひんに追い込んだ相手。それと、例のダンジョンの主が、どういう人間かも確かめねばなるまい」

「うーん。ちらっと見た限りでは、悪い人じゃなさそうだったけど……」

 少し前の出来事を思いだし、そうつぶやく声だが、エルフの少女は首を横に振る。

「いや、ハルならまだしも、お前の判断は当てにならん」

「えぇー……」

 当てにならないと言われ、虚空から不満げな声がれる。

「ねえねえ、ソナちゃん」

「今度は何だ?」

「もしもだけどね? もしも、あのダンジョンのマスター君が、悪い人だったり、ハルちゃんたちの秘密を知っていたりしたら――」

「そんなの、決まっているだろう?」

 エルフの少女は、はるか遠く、『黒軍の大穴』が位置する方角へと視線を向ける。

やつかいごとの芽が出る前に、むだけだ――」

 そう告げる少女の声は、まるで氷のように冷たかった――