ちようけんを手の中で遊ばせながら、ルクスは笑みを崩さずに言う。

「僕がこの場にいるのは三大公という立場からではなく……あなた方が先の宣言を聞いて取り乱した時、それをしずめるという役割でしてね」

 リヒテルトの主権をにぎる三大公とは、単にいえがらだけで決まるものではない。

 それに見合うだけの実力を持つからこそ、三大公の座にいている。

「妹の剣才には及びませんが――それでも、あなた方を抑えるには十分だ」

 剣を突き付けられ、ケリンズがわずかに身を引く。

「それと何かかんちがいされているようですが、我々が行った宣戦布告は貴国らに対して戦争や争いを持ちかけるものではなく、こちらが提案する『ゲーム』についてです」

「何がゲームだッ!! そんなたわごとに耳を貸すわけ――」

「フェアシュタット様、質問してもよろしいでしょうか」

 げきこうするケリンズの言葉を遮り、ラクリアがたんたんと挙手をする。

「『ゲーム』と言いましたが、説明は行っていただけるのでしょうか」

「それはもちろん。戴冠式の閉式後、会議室にて女神の代行者が行いますよ」

「わかりました。では閉式まで待ちます」

「ッ……ヘリリアント、貴国はリヒテルトの暴挙を赦すと言うのか!?

「私個人は特に思うところはありません。しかし他国代表の前で宣戦布告を行い、こうして剣を向けたということは、既に相応の覚悟を決めているということです」

 すとんと手を下ろし、ラクリアは暇をつぶすように鳥籠をかかえる。

「それならば、意図が判明するまで静観します」

「話が早くて助かりますよ。僕の仕事は皆さんを落ち着かせることですし、おとなしくしていただけるのなら楽ができるんで」

 ラクリアにしようを向けながら、ルクスは突き付けていた剣を下ろしてさやに納める。

 しかし、剣を納めても誰かが動く様子はない。

 先ほどまで激昂していたケリンズも、ルクスの意図が読めずに動きを止めている。

 国中が熱狂に沸く中、貴賓席だけが不気味な静けさに包まれる。

 そして……しゆくしゆくと、戴冠式は閉式へ向かっていった。



 戴冠式の閉式から一時間後。

 タクミとミルトは会議室に集められた代表たちと顔を合わせていた。

「よう、挨拶が遅れちまって悪かったな」

 普段通りの調子でタクミは声を掛けるが、代表たちの反応はない。

 ケリンズは怒りと苛立ちを隠さず、ヤコルはひようひようとしながらもするどい眼光を向け、アリッサはきんちようで全身がこわっており、ラクリアは無関心と言わんばかりに鉄面皮を崩さない。

 不意打ちのように宣戦布告を行われ、剣を向けられておどされるような形で会議室に押し込められていたのだから当然の反応と言えるだろう。

 しかし、タクミは気にせず言葉を続ける。

「ルクスから軽い説明はあっただろうが、改めて『ゲーム』についてのしようさいとルールを説明しようじゃないか。まずは――」

「我々は、断固として貴様たちの言い分を聞き入れないッ!!

 怒りをばくはつさせるように、ケリンズが勢いよく机をなぐりつける。

「大陸すべてを手に入れる『ゲーム』などバカバカしいッ! 貴様らの提案に対して、我々が受ける理由がどこにあると言うんだッ!」

「こちらもおおむね同意ですなぁ。一方的にゲームを行うと言われ……その上、国や全てを賭けろと言われたところで、何もメリットが無ければ首を縦に振るわけがありませんて」

 ケリンズに同調するような形で、ヤコルも意見を述べてくる。

 さらに、ケリンズはタクミを睨みながら指を突き付ける。

「戴冠式といつわり、各国の代表に剣を向けたむくいは受けてもらうぞ……ッ! デンメルグだけではない、各国で危険思想を持つリヒテルトをたたき潰してやるッ!!

「おお、こわい怖い。だけどこっちは戦争やらで人殺しをするつもりはない。そのために俺は『ゲーム』って形を提案したんだからよ」

「だから、そんなふざけたものに――」

「おい、セプテリオンのドワーフ。あんたはさっきメリットが無いって言ったな?」

 ヤコルに向き直ってから、タクミはひもじた巻物をほうる。

「魔法しかのない、目ぼしい資源も少ない、他に何もない小国を今さら攻めたところで意味がない……だから、デンメルグは深手を負う前に休戦を行ったんだろう?」

 タクミの問いかけに対して、ケリンズは何も答えない。

 しかし、先ほどまでの激昂した様子もせている。

 デンメルグが休戦を結び、三十年近くリヒテルトに攻め入らなかった理由を言い当てたタクミを、警戒するように視線を向けている。

「だが……今の俺たちは、ここにいる国が最もほつしている知識を持っている」

「ははっ、まさかそれが『ゲーム』の景品とでも言うおつもりですかな?」

 タクミの言葉を聞いて、ヤコルが鹿にするように鼻で笑う。

「確かにリヒテルトの魔法知識は他国にないものとはいえ……今さらリヒテルトの魔法知識を引き合いに出されたところで、大したりよくは感じませんなぁ」

「俺は『ここにいる国が欲しているもの』って言ったはずだぜ? そいつを証明するために、ちんがてら見せてやろうって言ってんだよ」

 不敵な笑みと共に、ヤコルの眼前に放った巻物を指さす。

「特に……技術屋のお前ならよく理解できるはずだ。ヤコル・ヴィットリオ」

 その笑みから感じる妙なあつ感に、ヤコルはわずかに眉をひそめる。

 そして……ヤコルは巻物の紐を解き、眼前に大きく広げ――こうちよくした。

「こ、れは……なぜ、どこでこの存在を知ったッ!?

 ヤコルが飄々とした態度を崩し、タクミに向かってって掛かる。

「おい、ヴィットリオ……一体何が書いてあったと言うんだ」

 ケリンズがそう尋ねるが、ヤコルは額に汗を浮かべたままだまる。

 答えることができない。

 その反応を見て、タクミが顔をおおいながら笑う。

「答えられないよなぁ……デンメルグ侵攻計画に関する国家機密なんだからよ」

「なッ――どういうことだッ! 答えろ、ヴィットリオッ!!

 そんなケリンズのごうすら、ヤコルの耳には入っていなかった。

 羊皮紙に描かれた設計図。

 セプテリオンがみつに開発を進めていた――空をける船。

「俺の世界じゃ『飛行機』って呼ばれていたしろものだ。りよくを使わずに空をび、鳥よりもはるかに高く、遠いきよを移動できる機械だよ」

「機械……旧時代に存在していた魔具の前身か。しかし、その機械と我々デンメルグにどのような関係があると言うんだ?」

「機械ってのは魔力を使わない代わりに、化石燃料っていう天然資源が必要になるんでな。そいつらは主に海底、そしてばく地帯の地下にねむっている」

 旧帝国デンメルグは広大な領地を持つが、その多くが緑の無い砂漠地帯となっている。

 その地下には……いまだ手つかずの資源が宝のように眠っている。

「その資源を得るためにセプテリオンは飛行機を作り、やがて量産した機械で他国へと侵攻する算段だったんだろうよ。他国より亜人の多いセプテリオンにとって、魔法戦ってのは絶対的に不利だからな」

 タクミが言葉を発する度に、ヤコルの表情が青ざめていく。

 それは自国の計画が他国にれたというだけではない。

 ヤコル自身、旧時代の機械を利用した技術で先行しているという自負があった。

 たかが小国とあなどっていたリヒテルトが、技術で先んじていたというくつじよく

「他にもあるぜ? 蒸気機関、内燃機関、航空力学……技術大国でもあるセプテリオンなら、こいつらは『ゲーム』に参加してうばい取る価値のある代物だろ?」

 タクミは今まで、てつていてきに地球の技術をとくしていた。

 目先のえいを得るためでなく、セプテリオンとのこうしようの場で使うために。

 そして……拳を握りしめながら、ヤコルは言葉をしぼり出す。

「……説明を行ってくれ」

「おいおい、聞こえないからはっきり言ってくれ」

「『ゲーム』の説明をしろと言ったんだッ! 我々セプテリオンは、貴様たちリヒテルトの提案する『ゲーム』に参加することを確約するッ!!

 ヤコルが参加表明を行ったことで、ケリンズがあからさまに顔をしかめる。

「……ふざけた提案に乗るとは正気か、ヴィットリオ」

「うるさいッ! 貴様らデンメルグに計画がていした時点で我々は後に退けんのだッ! それなら……『ゲーム』とやらに勝利して、真っ向からければいいッ!!

 自棄やけになったように、ヤコルがきようじみた笑みを浮かべる。

 その様子を見て、ケリンズがかいそうに舌打ちする。

「チッ……島国の田舎者が。貴様たちがどうなろうと、我が国は――」

「あー、そうそう。デンメルグのおっさんがしいものはこれだろ?」

 満面の笑みを浮かべながら、タクミが一枚の紙きれを取り出す。

「砂漠地帯を緑化する方法、しよくりようなんによるじようきようからのだつきやく、いまだ発見されていない地下水脈、えきびよう等の予防と対策……領地と国民が多いってのも大変だな」

 ケリンズの前に紙きれを放ると、その表情が固まる。

 デンメルグの国政、国民の置かれているじようきよう、現在直面している問題、それらはタクミが調査を始めた七年前から進展していない。

 それを打開するための方策が、余すことなく書かれている。

「俺がお前たちを呼んだのは、その価値を正しく理解できるからだ」

 この場に集められた人間は、『知識』という財産を正しく理解できる。

 ケリンズは立場と過去だけ見ればとうだが、大規模なだんとうそつするという立場上、領地の状況を誰よりも正しくあくしている。

 ヤコルは貿易の成功が目立っているが、ドワーフという技術屋としての一面があったからこそ、海上貿易におけるけんを得ることができた。

 そして……国のきゆうじようや状況をかんがみて、それらの『知識』が国を賭けるに値するかを正しく判断することができる。

「別に今ここで参加表明しろってわけじゃない。俺の提示した『知識』と『ゲーム』の説明を聞いた上で、国に持ち帰って検討すればいいさ」

 黙り込んだ二人の代表に告げたところで、アリッサがおずおずと挙手する。

「あのぉー……友好国のうちも参加しなきゃダメなんですかね。私たちはリヒテルトのえんに不満はありませんし、関係がたんするのは困るんですけど……」

 英雄国家シュトラーゼとリヒテルトは協力関係にある。

 タクミの提示した『ゲーム』の内容だいとはいえ、両国があらそう必要はどこにもない。

「なんだ、あんたは聞いてないのか?」

「え、何がですか?」

「英雄国家シュトラーゼは既に『ゲーム』の参加にしようだくしているぞ」

「はぁっ!? ちょっと待ってください誰がそんなこと――」

「迷子になってたおたくの第一席に説明したら、二つ返事でオーケー出してたぞ。ついでに伝言だが、『ルールを聞くのはめんどうだからアリッサに任せた』とのことだ」

「あっはっは……あいつ、帰ったら絶対ころす」

「半殺しくらいで済ませとけ。まぁ、受けた理由については帰ってから聞けばいいさ」

 机に突っしてすすり泣くアリッサを放置し、タクミはラクリアに向き直る。

「さて、そこにいるヘリリアントのおじようさんはどうする?」

「元より説明を聞いてから判断する予定でした。ですから構わずにどうぞ」

 淡々と返事をするラクリアに苦笑を向けてから、タクミは全員を見回す。

「賭けについては先に言った通りだ。こっちは『知識』を、そしてあんたらには『国』を賭けて『ゲーム』を行ってもらう。そして――ゲームの内容は問わない」

 そう言いながら、タクミは笑みの色をくする。

「武芸、知識、技術……それこそ、ジャンケンだろうがチェスだろうが構わない。勝負という形式さえ整っていれば、全て『ゲーム』として成立してじゆだくする」

「……なるほどな。リヒテルトにとって、それが一番好都合だろう」

 タクミの意図を読み取ってか、ケリンズが苦々しい表情を作る。

「貴様らリヒテルトは魔法以外では他国におとっている。だが……それはがデンメルグ、そして他国にも言えることだ」

 どれほどすぐれていようと、必ずは存在している。

 旧帝国デンメルグは人海戦術や物量といった面でひいでているが、その分個人の技術や技量といった質の面で劣る。

 海上国家セプテリオンは優れた魔具技術を有しているが、島国というへいてきな土地であることから、能動的なせんとう、資材や資源が乏しい。

 英雄国家シュトラーゼは英雄種を始めいつとうせんの戦力を有しているが、規模はリヒテルトと大差なく、魔獣がむ土地とりんせつするため他国のえんじよが必要不可欠となっている。

 唯一、断界国ヘリリアントの情報は無いが、大規模な防護結界を維持し続けるコスト、それゆえに専守防衛に努めているとすれば、他に余力をくことができないと推察できる。

 しかし、先の条件であれば国同士の差は縮まる。

 ゲーム内容が一方の国に有利な内容でない限り、勝敗は見えなくなる。それこそ、場合によっては『運』によって勝敗が決まる可能性すらある。

 他国より多くの面で劣るリヒテルトにとって、最も勝機のある条件。

「ゲーム内容はどのようにして決定するつもりだ。対戦を行わない国か?」

「いやいや、それじゃ公平とは言えないだろ。第三国ときようぼうして有利なゲーム内容にしたり、逆に不利な内容を提示しておとしいれようって考えるやからが出るだろうからな」

 ケリンズに言葉を返してから、タクミは軽い調子で告げる。

「だから、ゲーム内容はお前たちが決めていい」

「…………は?」

「言葉の通りだ。うちと対戦する国がゲーム内容を好きに決めていい」

 こうたんり上げながら、タクミは再び告げる。

「リヒテルトは――対戦国がどのようなゲーム内容を提示しようと受諾する」

 ケリンズだけでなく、その場にいる誰もが言葉を失っていた。

 対戦国が内容を決めるということは、全て相手に有利な条件でゲームが決定される。

 利点を全て捨てた上に、あつとうてき不利な状況でゲームにのぞむ。

「おい……リヒテルト女王」

「あ、はい。何か私に御用でしょうか?」

「貴様……それでも国と国民を預かる女王か? そこにいる男は自ら勝ちを捨てると宣言しているというのに、それを黙って見過ごすつもりか」

 ただ静観するだけのミルトに対し、ケリンズが静かないかりを向ける。

 しかし、ミルトはゆうぜん微笑ほほえんだ。

「いえ、その条件は我が国の三大公も交えて協議したものですから」

「ハッ! つまりリヒテルトはそろいも揃ってボンクラしかいなかったと?」

「ええと、そういう意味では無くてですね……」

 困ったようにほおいてから、ミルトは満面の笑みで言い放つ。

「あなた方が負けた時――絶対にのがれできないようにするためですよ」

 笑みこそたたえているが、そのひとみおくには揺るがない意志がある。

「たまたまリヒテルトに有利な条件だった、運が悪かったから負けた……などとなんくせを付けられては困りますから、それを事前にはいするためのです」

 そんなミルトの言葉を継ぐように、タクミが説明を加える。

「そっちがどれだけ有利な内容を決めようが俺たちは勝てる……単純な勝ち負けじゃない、心の底からお前たちをくつぷくさせるのが、この『ゲーム』のしゆだ」

 腕を組みながら、タクミはたのしげに笑う。

「そして、先の条件はお前らをがさないためのものだ。自分たちが圧倒的に有利な条件を決められる中、それを捨てて勝負から逃げた国は今後どんなあつかいを受けるだろうな」

 笑いながら、タクミは底知れない黒の瞳をケリンズに向ける。

 リヒテルトという小国に対して圧倒的有利な状況を作れたというのに、その勝負を捨てて逃げた『負け犬の国』。

 その悪評は消えることがなく、国のてんとしていつまでも残り続ける。

「それに……俺たちは勝ちを捨てたわけじゃない。お前たちがどんな条件を出そうが、正面から叩き潰して勝てる自信があるってだけの話だ」

 腕を組み、自信に満ちた笑みを浮かべながら言う。

 しかし――

「――質問よろしいでしょうか。がみの代行者」

 静まっていた会議室の中で、ラクリアの無機質な声が響く。

「内容の決定権があるということは、日時と場所の指定も可能ということでしょうか」

「ああ、構わない。どれだけ条件を重ねようが、こっちはゲームを受諾する。

「ではもう一つ、ゲームの決定権は国の元首、君主といった統治者が有するものですか」

 ラクリアの質問の意図を察して、タクミは僅かに目を細める。

「……ああ。他の奴らはこの件を一度国に持ち帰り、統治者の判断をあおぐことになる」

「つまり、ヘリリアントの最高責任者である私ならば、今このしゆんかん……あなた方に対して『ゲーム』の開始を宣言できるといったにんしきで問題ありませんね」

 そう口にしてから、ラクリアはミルトに顔を向ける。


「我々ヘリリアントは――今この場で、『ゲーム』の開始を宣言します」


 不気味なほど静かに、ラクリアはタクミたちへと告げる。

「内容は統治者同士による『けつとう』、武器魔法の使用は問わず、両者の一方が戦闘不能になるか、死亡するまで行います。その条件であなた方は戦えますか」

 タクミたちの覚悟を見定めるように、ラクリアが問いかける。

「先ほどの剣舞を見る限り、私とリヒテルト女王の実力差は明白です。およそ勝負にすらなりません。それでもあなた方は『ゲーム』を受諾しますか」

 うつろな瞳を向けながら問いかける。

 しかし、それでもタクミの笑みは崩れない。

「こっちは構わないが、一度ゲーム内容を決めた後にへんこうするのは許可できないぞ」

「では、そのようにしてルール変更をうながすのは可能ということですか」

「こっちとしては『ゲーム』を楽しみたいという気持ちが強いんでな。結果が見えている勝負になると、さすがにつまらなくて興ざめする」

「まさか、私がそちらの女王に負けるとお思いですか」

 タクミから目をらし、ラクリアは殺気と共にミルトへ視線を向ける。

「……あ、私と勝負という話でしたよね? おたががんりましょうっ」

 対して、当人はのほほんと笑いながらラクリアに向けて手をっている。

 そこに緊張やきよせいといった様子は見られない。

 ラクリアが殺気を発しているというのに、怯えもきようも見られない。

「なるほど。やっぱりやめておきます」

「素直に引き下がったじゃないか」

「女王に対する情報不足、そして確信に欠ける反応だと判断しました」

 少なくとも、タクミはミルトの勝利を確信している。

 そして……ミルトにはその確信に足る何かを持っている。

「そもそも、私は招待状のお礼とアルフレッドを返しに来ただけですから」

「……アルフレッドって誰だ?」

「手紙を送ってきた鳥のことです。こちらにいますのでごへんきやくします」

「名前を付けるほど気に入ったなら飼ってやれ。祝い品としてぞうていしてやるから」

「よろしいのですか。でしたら、家鳥として迎えれるとしましょう」

 表情こそ変わらないが、ラクリアはとりかごを抱えながらコクンとうなずく。

 話が終わったのを見計らうように、ケリンズが再び机を叩く。

「ハッ……全て受諾すると言いながら、口八丁で逃れたではないか。結局のところ、貴様らリヒテルトは我々に勝てる見込みがないということだろう」

「いや、ちょっとお前たちに対するはいりよが足りなかったと思ってよ」

 額に手を当てながら、タクミがわざとらしく首を振る。

「口でいくら言おうが、現状のリヒテルトの戦力を知らなければ、馬鹿みたいに戦争だ決闘だと言い出すことくらい予想できたことだ。いやはや悪かった」

「何を言うかと思えば……じんを戦力として迎え入れたところで、フォルテシアという柱を失ったリヒテルトに何の力が――」

 ケリンズがあきれながらかたすくめた時、


 窓の外が黒い光に覆われた。


 天高くのぼる――こくえんの柱。

 その光は世界をり潰すように……そうくうを黒に染め上げていく。

「なッ……あの黒炎は一体なんだ!? あれもリヒテルトが行ったものか!?

 ケリンズが窓を指さしながら叫ぶが、タクミは言葉を返さない。

 その黒炎を静かに見つめ続けている。

 そして――空間にれつが生まれ、おぼろげなひとかげが映しされる。

 その輪郭が形を帯びていき、やがて見知った人物が姿を現す。

『――聞こえているか、神王国家リヒテルトの者たちよ』

 感情のない無機質な声。

 れいこくな瞳とれいたんおもち。

 亀裂の合間に映し出された……エルヴィスの姿。

『貴様たちは女神の代行者にたぶらかされ……そして、おろかにも道を誤った』

 魔具によるものか、エルヴィスの声が王都全体にひびわたる。

『私は女神が愛した世界を守るため、道を誤った貴様たちをしゆくせいする。二時間後、この王都は黒きごうに包まれ、それはやがて国全体へと広がっていくだろう』

 空へと昇っていく黒炎がかたまりとなり、生物のように不気味にうごめき始める。

『だが――もしも貴様たちの歩む道が正しいと言うのならば、それをえいゆうおかで示せ。かつて英雄が世界の命運をけ、未来を切り開いたように』

 その言葉は他のだれでもない、タクミたちに向けられた言葉。

 やがて……亀裂はゆっくりと幅を狭めていき、黒炎に混じるように消失していく。

「……まったく、ずいぶんなかくだまを使ってきたもんだな」

 そうつぶやいてから、タクミはミルトに向き直る。

「おい、英雄の丘ってのはどこか聞いてくれ」

「え? は、はいっ! ええと……エルターン平原のことらしいです! 『無名の英雄』が最後の戦いにおもむいた場所なんだとかっ!」

 こんわくするミルトがしどろもどろに答えたところで、タクミはゆっくりと頷く。

「とまぁ、そういうことらしい。話し合いはいつたん中断させてもらおうか」

「待てッ! なぜフォルテシアの姿が映し出されたッ!? 奴はとうごくされたはずだろう!?

「そんなもんけ出したに決まってんだろ。とにかく、あんたたちは『ゲーム』の件を国に持ち帰る大事な客人だ。ちゃんと奴を止めて無事に帰すから安心しておけ」

 ひらひらと手を振りながら、タクミは会議室の外へと向かっていく。

 そして、振り返りながら告げる。

「それと……よく見ておけ。新しいリヒテルトの力ってやつを」

 自信に満ちた笑みを浮かべながら、タクミは会議室を後にする。

 いつしゆんせいじやくの後、ラクリアがおもむろに口を開く。

「リヒテルト女王、こちらの助力は必要でしょうか」

「あ、いえいえ。皆さんはお客様ですし、ここでのんびりくつろいでいただければと」

「くつろいでいろッ!? この状況で座して待てと言うのかッ!?

「これはなかなか……できれば、リヒテルト側による脅しだと思いたいものですなぁ」

「あー、死ぬ前に一度アルフェンをブン殴りたかったなぁ……」

 ケリンズたちが三者三様の反応を見せる中――ミルトがふにゃりと笑みを作る。

 気の抜けるような表情と共に、パンパンと手を叩く。

「まぁまぁ皆さん。エルヴィスの問題はこちらの落ち度ですし、今からその対処はバッチリしっかりと行ってきますから。それに……そこにいるヘリリアントのおひめさまはすごく強い方ですから、少なくとも皆さんは何があっても生き残ることができますよ」

 ミルトの言葉を聞いて、初めてラクリアの表情に変化が生まれる。

 海色の瞳を大きく見開き、きようがくと共に口を小さく開けた表情。

「……リヒテルト女王、今の言葉について質問させてください」

「あー、すみませんね。私もかれの下に向かわないといけませんから」

「向かう……? まさか、女王自らが戦地に赴くのか?」

 ミルトは『そうてんけん』を手に取ってから、ケリンズの疑問に答える。

「ええ。リヒテルト女王は……国と国民のしようちようとして、誰よりも前を歩く者です」

 長年の友のように、こくじんの大剣を肩にかつぐ。


「その姿こそが――リヒテルトの女王です」


 自信に満ちた笑みと共に、『女王』はそう答えた。