そして――なだれ込むように、金銀赤黒の色が部屋に入ってくる。
「あははー……やっぱりバレちゃってましたねー。カリンが二人の会話を聞きたいとか言うからこんなことになっちゃうんですよ」
「なっ、なんであたしなのよ! あんたも『わたしの耳なら丸っと会話を
「わたしはそれよりも、予想外の展開にドキドキなのです」
「わ、私はあれだぞ? 最初に止めたし、仕方なく付き合ってただけだからな?」
クノン、カリン、リーゼ、エルスの四人が口々に弁明を始める。
そんな中、四人の姿を見てミルトがあわあわと口を開閉する。
「も、もしかして……ぜんぶ、聞いていたんですか?」
「ミルトさん、
「やめてください解説しないでください説明しないでくださいっっ!!」
「それに対して、タクミさんの返答は最悪の
「たしかにあの返事は下層のドブより酷かったですねー」
「あたしが同じ立場だったら殴ってるわね」
「タクミは根が良くてもそれ以外クズだからなぁ……」
「助け
散々こき下ろされながらも、タクミは
「さて……これで役者は揃った」
七年前から進めていた計画に必要な人間は揃った。
あとは……どこまでも走り続けるだけでいい。
どこまでも高みを目指し続けるだけでいい。
「さぁ――世界を敵に回しに行こうじゃないか」
◇
王都リスティナの上層。
許可証が無ければ立ち入ることのできない区域だが、今は下層中層問わずに人々が
期待、不安、
そんな民衆を
「本日は
ルクスが深々と頭を下げると、その内の一人が不愉快そうに鼻を鳴らす。
用意された
綺麗に白く染まった髪と顔に刻まれた
「この俺を名指して呼びつけた上に……こんな
「申し訳ありません、ケリンズ将軍閣下。こちらとしては民の混乱を治めるため、急ぎ女王就任の
「ハッ……内心で笑いながらペラペラ
旧帝国デンメルグ最高司令、ケリンズ・ヴァルド将軍。
デンメルグが保有する
それと同時に、リヒテルトと
デンメルグがリヒテルトへの
しかし、エルヴィスが立案した
リヒテルトとの戦があったからこそ、ケリンズは今の地位を築けた。しかし最後の戦で大敗したことで、その誇りはこの上なく
そんなケリンズからしてみれば、混乱の最中にあるリヒテルトに再度侵攻し、過去の
「――まぁまぁ、
ドワーフ特有の
「我々セプテリオンとしては、新体制のリヒテルトに興味がありますんでなぁ。最近新設された大商会と数度取引をしましたが、なんとも興味が
そう、商人としての観点から意見を述べる。
海上国家セプテリオン意見役、ヤコル・ヴィットリオ。
複数の列島から形成される国、セプテリオンで貿易商としての成功を収め、魔具機構を有する
そして驚くべきことに、その巨大海上船の設計開発を行ったのはヤコル本人である。
セプテリオンは魔具に
その中でも
才能と成果、その二つを示すことでヤコルは王直属の意見役に
「しかしまぁ……竜人やら鳥人なんぞに
コココ、と
ヤコルはある意味でドワーフらしく、他の
セプテリオンは競争社会を
しかし競争が激しいため、人だけでなく亜人間での格差も大きい。
成果が挙がらず、能力も無いと判断された者は奴隷と同じかそれ以上に
身に着ける
その言葉にルクスが
「本っっっっ当に申し訳ありません、フェアシュタット様っっ!!」
少女が
「
「あー……まぁ顔を上げてください、アリッサさん。そちらのアルフェン様についてはいつものことですし、むしろ王都に来ただけ進歩があったということで」
「いやもう本当にそう言っていただけて毎度助かっていますっ! 見つけたらブッ飛ばしておきますっつーかアルは本当にどこいったあああああああああっっ!!」
この場にいない相手に
十人の英雄種を首脳とし、
その中でアリッサは第二位の実力を持ち、平時は第一席であるアルフェンの
英雄国家シュトラーゼは西方からの魔獣
が、英雄国家第一席のアルフェンはとにかくサボり
祭典などの
英雄国家の『謝罪係』として、何かと苦労の絶えない少女である。
「さ、こちらの薬をどうぞ。効き目は
「いつもすみません、フェアシュタット様……。リヒテルトに来るたび、あなたからいただけるこのクスリだけが
「誤解を生むので変な笑いを浮かべないでください。ただの胃薬ですから」
胃痛仲間として馴染み深いアリッサに溜息を
白い、どこまでも白い少女。
「何か、私に
ルクスの視線に気づいてか、白の少女が無機質な
それが自分に向けられたものと気づき、ルクスは
「
「先の問いに対する応答としては不適格です。再度回答を」
人形のように表情一つ動かさず、ルクスの言葉を
その様子に、ルクスは面倒な挨拶を省いて問いに答える。
「いえ……まさか最北の断界国ヘリリアントの人間が
ルクスの率直な意見に対し、甲冑を着た少女――ラクリアは何も反応を寄こさない。
リヒテルトの北方には広大なデンメルグ領が広がっているが、そのさらに北……世界の果てと呼ばれる場所に一つの国がある。
それが――断界国ヘリリアント。
その
ヘリリアント領は世界の果てと言われているが、その先には陸地が存在している。
しかし……ヘリリアントは国そのものを利用して、地上には
その先へと何人たりとも踏み入らせないという姿勢の下、他国の者を一切立ち入らせず、またヘリリアントの民も自国の外へ出ることは少ない。
そのため、断界国ヘリリアントについての情報は他国と比べても
確定している情報は「旧時代から続く
その他で言えば「大陸を分断し、その先にある資源を
事実、ルクスはラクリアが来訪するまで、最高指導者といった立場、そして当人の名前すら知らなかった。ラクリアがリヒテルト印章の手紙を持参せず、蒼銀の甲冑を身に着けずに訪れていたら、知らずの内に追い返していた可能性すらある。
だからこそ、ルクスは再び率直な質問を投げかける。
「なぜ、ラクリア様は此度の戴冠式を訪れたのでしょうか。ヘリリアントの民は他国との交流が絶えて久しいと
「招待状をいただいたので、せっかくだから行ってきなさいと母に言われました」
思っていた以上に
「ええと……そもそも、うちの人間はどうやって手紙を?」
「鳥の背中に
「…………鳥ですか」
「はい。朝の散歩をしながら鳥と
「鳥と戯れていたんですか」
「はい。そして招待のお礼と共に、手紙を運んだ鳥を
言いながら、ラクリアは背後に置かれていた
「その……大変言いにくいのですが、そちらの鳥は伝令用に訓練されているので、そのまま放っておけば我が
「なるほど。つまりこのアルフレッドは
「……名前を付けられたのですね」
「はい。道中で
思わずルクスが面食らっていた時……ラクリアが気になる言葉を放つ。
「それと、エルヴィス・フォルテシアが
「……へぇ、我がフォルテシアと貴国に何か関係が?」
エルヴィスが方々に
他国と関係を絶っていたヘリリアントがその中にいても不思議ではない。
しかし、ルクスの問いにラクリアは何も答えない。
人形のように整った表情を
再びルクスが問いかけようとした時――開会を告げるラッパが
民衆の視線を追うように、ルクスは最上層の高台に顔を向ける。
高台に佇む……純白のドレスに身を包み、毛皮のコートを羽織る少女。
その手には一本の
光すら通さない
リヒテルト王家に伝わる神器。
どこまでも続く
剣を高々と掲げた瞬間、民衆から
その声が、ミルトの振り
その剣を振り抜き立つ、堂々たる佇まい。
ミルトの一閃を目にして、
場を完全に支配したミルトが、
だというのに、誰よりも力強い。
剣が風を
その音楽に合わせて、ミルトは見えない相手と剣を交えていく。
剣を自在に取り回し、黒の
少女らしい
そして時に
そして――終幕を
残身するミルトの姿を見て、民衆たちも終幕を理解する。
その直後……
女王として剣舞を
民衆の反応を眺めていたミルトの下に、拡声
呼吸を整えてから、ミルトは口を開く。
「――初めまして。私はミルト・ファミリエ……いえ、リヒテルトと名乗るべきですね」
改めて自分の名を言い直してから、民衆に向かって語り
「十五年前……私の母は
「正直に言えば、私が女王になることを疑問視する方々も多いことでしょう。女神の血を引くというだけで、何も知らない小娘が国を治めることができるのか……と」
包み隠さないその言葉に、民衆たちがにわかにざわめき出す。
それを制するように、ミルトは再び口を開く。
「しかし……何も知らなかったからこそ、私は多くのことを知ることができました」
何も知らずに過ごしてきた日々は決して
「日々生きることが、どれほど大変なのか知っています。生きるために作物を育て、食べるために
どこまでも
「だから……私はそんな現状を変えたいと思いました。下層とそこに住む人々を見て、他人を犠牲にしなくても生きることができるようにしたいと願い、養父の後を
最初は父の
そして首領になると決めた時、ミルトの中にあった理想が
「その想いは女王となった今でも変わりません。下層だけじゃない、リヒテルトに住む全ての人々が、生きるために何かを犠牲にしなくていいようにしたいと思いました」
女王になると決めた時、自分だけでなく多くの人間を変えたいと願った。
その理想を貫きたいと願った。
「
「だから……私の理想を叶えるために、
一人ではなく、誰かが欠けることもなく、全員で理想を叶えると決めた。
「だから――私という女王の姿を、皆さんで見届けてください」
その想いに――静かな
先ほどのように、称賛を送るためのものではない。
女王に対する敬意を込めた拍手。
そんな民衆たちに対して、ミルトは敬意を込めて頭を下げる。
「皆さん……ありがとうございます。それでは理想への第一歩として、レナント村を救った勇士たち、そして女神の代行者と成った者をご
ミルトの背後から、ゆっくりと亜人たちが姿を現す。
種族も容姿も異なる七人の亜人。
その七人を率いるように、タクミが丘の上に立つ。
そのままリーゼから魔具を受け取り、民衆たちを見下ろす。
「――さて、知ってる
「レナント村で起こった魔獣被害を抑え……
その宣言によって、民衆が
家名を
それだけでは終わらない。
「そして――両名には、新たな三大公の一角として国を
一瞬、その場が静まり返った。
というよりも、理解が追いつかずに言葉を忘れたという方が正しい。
それでもタクミは畳みかけるように言葉を続ける。
「さてさて、神獣を下した者たちに勲章を与えるのは理解できる。だけど三大公の座まで与えるってのはやり過ぎているって顔をしてるじゃねぇか」
動揺する民衆を
「だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。この神王国家リヒテルトは危機に
そんなタクミの言葉に顔をしかめたのは、他国の代表たちだった。
民衆の不安を煽るだけでなく、他国の人間がいる場で公言する必要はない。
「だが……俺はこの
タクミの言葉に
「そして俺は現状
自身の言葉に調子を付けるように、タクミは
「まさか――あの男ッ!!」
タクミの意図にいち早く気づいたのはケリンズだった。
言葉を
その後に
「――我々は、大陸全土の国に対して『ゲーム』の宣戦布告を行う」
揺るがない不敵な
「俺の望みは大陸の全てを手に入れることだ。国や資源だけじゃない、知識に文化に
女神を
「今のリヒテルトは最底辺にいる。
揺さぶった民衆たちの心の
「しかし今が最底辺だということは、後はひたすら上がるだけだ。ただ上だけを目指して、過去の英雄たちのように勇気と英知を持って理想を貫き続ければいい」
絶対に理想を叶えるという揺るがない意志。
実現できると他者に思わせるほどの自信。
「
そう
王都が揺らぐほどの
その中で、貴賓席だけが混乱の最中にあった。
「今の宣言はどういうことだ、フェアシュタットッ!!」
「これは……なかなか、キナ
「せ、宣戦布告って……うちとリヒテルトは友好国のはずですよねっ!?」
各国の代表が
しかし、ルクスは
「いやぁ、やっぱり事前に聞いていると胃へのダメージが
「ほう……つまり、宣戦布告はリヒテルトの総意ということか」
「ええ。まさか本気で祝辞を読むつもりでいたんですか?」
煽るようにルクスが言葉を発した瞬間、ケリンズが
一閃によって、その剣が
「――まぁまぁ。少しは落ち着いて話を聞いてくださいよ」