そして――なだれ込むように、金銀赤黒の色が部屋に入ってくる。

「あははー……やっぱりバレちゃってましたねー。カリンが二人の会話を聞きたいとか言うからこんなことになっちゃうんですよ」

「なっ、なんであたしなのよ! あんたも『わたしの耳なら丸っと会話をき取れます!』とかノリノリだったじゃないっ! それにリーゼとエルスも賛同してたでしょ!?

「わたしはそれよりも、予想外の展開にドキドキなのです」

「わ、私はあれだぞ? 最初に止めたし、仕方なく付き合ってただけだからな?」

 クノン、カリン、リーゼ、エルスの四人が口々に弁明を始める。

 そんな中、四人の姿を見てミルトがあわあわと口を開閉する。

「も、もしかして……ぜんぶ、聞いていたんですか?」

「ミルトさん、らしい告白だったのです。その真っ直ぐでじゆんすいな想いを告げたからこそ、タクミさんのおどろいた表情を引き出せたのだと思うのです」

「やめてください解説しないでください説明しないでくださいっっ!!

「それに対して、タクミさんの返答は最悪のきわみだったのです。ミルトさんからの告白を受けて、あの返事は点数すら付けられないゴミ以下のものです」

「たしかにあの返事は下層のドブより酷かったですねー」

「あたしが同じ立場だったら殴ってるわね」

「タクミは根が良くてもそれ以外クズだからなぁ……」

「助けぶねは求めたが、寄ってたかって俺をボコれとは言ってねぇよ」

 散々こき下ろされながらも、タクミはそろった面子を見回す。

「さて……これで役者は揃った」

 七年前から進めていた計画に必要な人間は揃った。

 あとは……どこまでも走り続けるだけでいい。

 どこまでも高みを目指し続けるだけでいい。


「さぁ――世界を敵に回しに行こうじゃないか」




 王都リスティナの上層。

 許可証が無ければ立ち入ることのできない区域だが、今は下層中層問わずに人々がつどい、最上層のあるおかに視線を注いでいる。

 期待、不安、せんぼうあん……様々な想いと共に新たな女王を待ち続けている。

 そんな民衆をいちべつしてから、ルクスはひんせきの面々に向き直る。

「本日はがリヒテルトのたいかんしきにご足労いただき、きようえつごくに存じます」

 ルクスが深々と頭を下げると、その内の一人が不愉快そうに鼻を鳴らす。

 用意されたが小さく見えるほどのきよかん

 綺麗に白く染まった髪と顔に刻まれたしわ。しかし軍服の上からでもわかる筋骨りゆうりゆうとした肉体は、老いやおとろえといったものをいつさい感じさせない。

「この俺を名指して呼びつけた上に……こんなまつかんたいを受けるとはな」

「申し訳ありません、ケリンズ将軍閣下。こちらとしては民の混乱を治めるため、急ぎ女王就任のを行う必要があったものでして。かと言って他国に告知しないわけにも――」

「ハッ……内心で笑いながらペラペラしやべるな小僧。我がデンメルグとリヒテルトは休戦状態に過ぎない。混乱最中にあるのなら、一息にってもいいのだぞ」

 かくすことなく、ケリンズはそのとうそうしんをむき出しにする。

 旧帝国デンメルグ最高司令、ケリンズ・ヴァルド将軍。

 デンメルグが保有するどうだんのトップであり、その勇名と戦果は広くとどろいている。

 それと同時に、リヒテルトといんねん深い人物でもある。

 デンメルグがリヒテルトへのしんこうを決めた際、数多の戦場で戦果を挙げ、三十前という若さで侵攻部隊の指揮を任されるまでにのぼめた。

 しかし、エルヴィスが立案したほうしゆじくの戦術、地形を利用した戦略によって侵攻部隊はかいめつにまで追い込まれ、最終的に両国は休戦を結ぶことになった。

 リヒテルトとの戦があったからこそ、ケリンズは今の地位を築けた。しかし最後の戦で大敗したことで、その誇りはこの上なくどろまみれた。

 そんなケリンズからしてみれば、混乱の最中にあるリヒテルトに再度侵攻し、過去のせつじよくを晴らそうと考えていても不思議ではない。

「――まぁまぁ、たびはめでたい席ですんでなぁ。ケリンズ殿どのも血気をはやらせるのではなく、国の代表として素直に祝福すべきではないですかねぇ」

 いらちを隠さないケリンズを見かねてか、となりすわるドワーフの男が口をはさむ。

 ドワーフ特有のがらな体形、しかしそのひげは綺麗に整えられており、金銀の刺繍ときらびやかなそうしよくに彩られたあくしゆな服は職人らしさとかけはなれている。

「我々セプテリオンとしては、新体制のリヒテルトに興味がありますんでなぁ。最近新設された大商会と数度取引をしましたが、なんとも興味がきませんでのぉ」

 そう、商人としての観点から意見を述べる。

 海上国家セプテリオン意見役、ヤコル・ヴィットリオ。

 複数の列島から形成される国、セプテリオンで貿易商としての成功を収め、魔具機構を有するきよだい海上船を利用した輸出入によって多大な利益を挙げるごうしようである。

 そして驚くべきことに、その巨大海上船の設計開発を行ったのはヤコル本人である。

 セプテリオンは魔具にぞうけいが深く、貿易だけでなく技術国としても名高い。

 その中でもくつの技術屋であり、同時にたぐいまれな商才を持つ実力者でもある。

 才能と成果、その二つを示すことでヤコルは王直属の意見役にばつてきされた。

「しかしまぁ……竜人やら鳥人なんぞにくんしようを与えることについて、個人的にはどうかと思っておりますがねぇ。今度の女王はお人好しなんですかい?」

 コココ、とのどを鳴らしながらルクスにたずねる。

 ヤコルはある意味でドワーフらしく、他のじんたちをべつしている。

 セプテリオンは競争社会をかかげており、たとえ亜人であったとしても、その成果と能力に応じた地位を得ることができる。

 しかし競争が激しいため、人だけでなく亜人間での格差も大きい。

 成果が挙がらず、能力も無いと判断された者は奴隷と同じかそれ以上にこく使され、ヤコルはそういった『無能』を使い、だいにすることで今の地位を築き上げた。

 身に着けるそうしよくひん一つにしても、どれだけのせいを出して得たものかわからない。

 その言葉にルクスがあいわらいを向けていた時、不意に席を立つ音が生まれる。

「本っっっっ当に申し訳ありません、フェアシュタット様っっ!!

 少女がうすべにふたいを激しくみだし、その額を地面にこすりつける。

ちゆうまでっ! 途中までちゃんとアルフェンをつかまえていたんですよ! だけど王都をめぐるって書き置きを残して、そのままどこかへ消えてしまってぇぇぇぇえええっっ!」

「あー……まぁ顔を上げてください、アリッサさん。そちらのアルフェン様についてはいつものことですし、むしろ王都に来ただけ進歩があったということで」

「いやもう本当にそう言っていただけて毎度助かっていますっ! 見つけたらブッ飛ばしておきますっつーかアルは本当にどこいったあああああああああっっ!!

 この場にいない相手にいかりをぶつけるように、アリッサが少女らしさの欠片かけらもない、無骨な義手をブンブンと振りまわす。

 えいゆう国家シュトラーゼ第二席、アリッサ・ハングベル。

 十人の英雄種を首脳とし、じゆう蔓延はびこるベスティア原生林にきよてんを構える都市国家。

 その中でアリッサは第二位の実力を持ち、平時は第一席であるアルフェンの、そして魔獣討滅戦では自ら前線に立ち、こぶし一つで数多の魔獣たちをほふ猛者もさでもある。

 英雄国家シュトラーゼは西方からの魔獣がいおさえることを条件に、リヒテルトから物資の供給を得ている立場であるため、本来ならば第一席であるアルフェンが代表としてこの場に顔を出さなくてはいけない。

 が、英雄国家第一席のアルフェンはとにかくサボりぐせが酷い。

 祭典などのもよおしには毎回アルフェンもしようしている。しかし毎度適当な理由をつけて欠席しており、その代役としてアリッサが出席することも通例にすらなっている。

 英雄国家の『謝罪係』として、何かと苦労の絶えない少女である。

「さ、こちらの薬をどうぞ。効き目はぼくが保証しますから」

「いつもすみません、フェアシュタット様……。リヒテルトに来るたび、あなたからいただけるこのクスリだけがはげみでして……へへっ」

「誤解を生むので変な笑いを浮かべないでください。ただの胃薬ですから」

 胃痛仲間として馴染み深いアリッサに溜息をこぼしてから、ルクスは隣に視線を向ける。

 白い、どこまでも白い少女。

 とおる白銀の髪に、血の気すら感じない白いはだ

 ゆいいつ色づいているのは、海のように深い色をたたえたあおの瞳と――かのじよが身に着けている、少女にはいな蒼銀のかつちゆう

「何か、私にようでしょうか」

 ルクスの視線に気づいてか、白の少女が無機質なこわで言葉を発する。

 それが自分に向けられたものと気づき、ルクスはうやうやしく頭を下げる。

あいさつおくれて申し訳ありません。しつけながめた無礼を――」

「先の問いに対する応答としては不適格です。再度回答を」

 人形のように表情一つ動かさず、ルクスの言葉をさえぎる。

 その様子に、ルクスは面倒な挨拶を省いて問いに答える。

「いえ……まさか最北の断界国ヘリリアントの人間がおとずれたというだけでなく、最高指導者であるラクリア様が姿を現すとは予想もしていなかったもので」

 ルクスの率直な意見に対し、甲冑を着た少女――ラクリアは何も反応を寄こさない。

 リヒテルトの北方には広大なデンメルグ領が広がっているが、そのさらに北……世界の果てと呼ばれる場所に一つの国がある。

 それが――断界国ヘリリアント。

 そのえんは言葉通り、この世界とヴェリル大陸を断絶しているところにある。

 ヘリリアント領は世界の果てと言われているが、その先には陸地が存在している。

 しかし……ヘリリアントは国そのものを利用して、地上にはけんろうじようへきを、空と海上には防護結界をり巡らせて世界と大陸を分断している。

 その先へと何人たりとも踏み入らせないという姿勢の下、他国の者を一切立ち入らせず、またヘリリアントの民も自国の外へ出ることは少ない。

 てつていして、他国との交流を断絶している。

 そのため、断界国ヘリリアントについての情報は他国と比べてもとぼしい。

 確定している情報は「旧時代から続くゆいしよ正しき国」、「国の最高指導者はしようちようとして蒼銀の甲冑を身に着けている」といったもの。

 その他で言えば「大陸を分断し、その先にある資源をせんゆうしている」、「大陸の先にいる特異な魔獣たちのよくせいせんめつを行っている」、「ヘリリアントに侵攻した国の部隊を、単身で壊滅させた」など、しんも定かでない話ばかりだ。

 事実、ルクスはラクリアが来訪するまで、最高指導者といった立場、そして当人の名前すら知らなかった。ラクリアがリヒテルト印章の手紙を持参せず、蒼銀の甲冑を身に着けずに訪れていたら、知らずの内に追い返していた可能性すらある。

 だからこそ、ルクスは再び率直な質問を投げかける。

「なぜ、ラクリア様は此度の戴冠式を訪れたのでしょうか。ヘリリアントの民は他国との交流が絶えて久しいとおよんでいましたが」

「招待状をいただいたので、せっかくだから行ってきなさいと母に言われました」

 思っていた以上につうの返答がきた。

「ええと……そもそも、うちの人間はどうやって手紙を?」

「鳥の背中にくくけてありました」

「…………鳥ですか」

「はい。朝の散歩をしながら鳥とたわむれていた時、偶然発見しました」

「鳥と戯れていたんですか」

「はい。そして招待のお礼と共に、手紙を運んだ鳥をへんかんしに来ました」

 言いながら、ラクリアは背後に置かれていたとりかごを胸に抱える。その中にはおとなしくつばさたたんでいる大型鳥がいた。

「その……大変言いにくいのですが、そちらの鳥は伝令用に訓練されているので、そのまま放っておけば我がくにに戻ってきます」

「なるほど。つまりこのアルフレッドはかしこい鳥でしたか」

「……名前を付けられたのですね」

「はい。道中でひまを持て余したので、名前を付けて呼びかけていました」

 まゆ一つ動かない鉄面皮とは裏腹に、みように人間らしいことをしている少女だった。

 思わずルクスが面食らっていた時……ラクリアが気になる言葉を放つ。

「それと、エルヴィス・フォルテシアがとうごくされたと耳にしたのが来訪の理由です」

「……へぇ、我がフォルテシアと貴国に何か関係が?」

 けいかいを隠すことなく、ルクスはラクリアをにらみつける。

 エルヴィスが方々につながりを築いていたことはすでに判明している。

 他国と関係を絶っていたヘリリアントがその中にいても不思議ではない。

 しかし、ルクスの問いにラクリアは何も答えない。

 人形のように整った表情をくずすことなく、ただ静かに座り続けている。

 再びルクスが問いかけようとした時――開会を告げるラッパがひびいた。

 民衆の視線を追うように、ルクスは最上層の高台に顔を向ける。

 高台に佇む……純白のドレスに身を包み、毛皮のコートを羽織る少女。

 その手には一本のたいけんが握られている。

 光すら通さないしつこくやいば

 リヒテルト王家に伝わる神器。

 どこまでも続くそうくうのように未来を切り開く――『そうてんけん

 剣を高々と掲げた瞬間、民衆からきようたんの声が生まれ――


 その声が、ミルトの振りろしたいつせんによって静まり返った。


 あざやかな黒の一閃。

 その剣を振り抜き立つ、堂々たる佇まい。

 ミルトの一閃を目にして、だれもが言葉を失っていた。

 場を完全に支配したミルトが、かろやかに一歩を踏みす。

 だというのに、誰よりも力強い。

 剣が風をり、地を踏みしめる音が乗り、一つの音楽をかなでる。

 その音楽に合わせて、ミルトは見えない相手と剣を交えていく。

 剣を自在に取り回し、黒のせきの中でおどる。

 少女らしいれんな容姿とは対照的な力強さ。

 そして時にかいえるりんとした横顔に、誰もが目を奪われる。

 けんと呼ぶに相応ふさわしい、剣と共にう姿。

 そして――終幕をかざるように、剣によって大きく円をえがいた。

 残身するミルトの姿を見て、民衆たちも終幕を理解する。

 その直後……れるほどのかつさいかんせいいた。

 女王として剣舞をろうした姿に、誰もがしみないしようさんを送っていた。

 民衆の反応を眺めていたミルトの下に、拡声を持ったリーゼがってくる。

 呼吸を整えてから、ミルトは口を開く。

「――初めまして。私はミルト・ファミリエ……いえ、リヒテルトと名乗るべきですね」

 改めて自分の名を言い直してから、民衆に向かって語りける。

「十五年前……私の母はきようじんたおれ、赤子だった私はゼルエルきようと養父ヴァテルの手によって救い出されました。そして何も知らされずに一人のむすめとして育てられました」

 つむがれるミルトの言葉に、民衆たちは静かに耳をかたむける。

「正直に言えば、私が女王になることを疑問視する方々も多いことでしょう。女神の血を引くというだけで、何も知らない小娘が国を治めることができるのか……と」

 包み隠さないその言葉に、民衆たちがにわかにざわめき出す。

 それを制するように、ミルトは再び口を開く。

「しかし……何も知らなかったからこそ、私は多くのことを知ることができました」

 何も知らずに過ごしてきた日々は決してではなかった。

「日々生きることが、どれほど大変なのか知っています。生きるために作物を育て、食べるためにあせを流して働き、時にはぬすみや殺しをして、他人を犠牲にしなければいけないほど大変なことだと、女王ではなく一人の人間として知ることができました」

 どこまでもなおに、ミルトは自身のおもいを語る。

「だから……私はそんな現状を変えたいと思いました。下層とそこに住む人々を見て、他人を犠牲にしなくても生きることができるようにしたいと願い、養父の後をいで商会の首領になることを決めました」

 最初は父のごとでしかなかった。

 そして首領になると決めた時、ミルトの中にあった理想がりんかくを帯びた。

「その想いは女王となった今でも変わりません。下層だけじゃない、リヒテルトに住む全ての人々が、生きるために何かを犠牲にしなくていいようにしたいと思いました」

 女王になると決めた時、自分だけでなく多くの人間を変えたいと願った。

 その理想を貫きたいと願った。

だれ一人ひとりとして例外はありません。人間も、亜人も、ろうにやくなんによも関係ありません。何一つへだてなく、私はその一人一人と共に在りたいと思っています」

 鹿げた理想と理解しながらも、それを貫き通すかくを決めた。

「だから……私の理想を叶えるために、みなさんのお力を貸してください。私と共に歩んでください。私も女王として、皆さんと共に歩み続けるとちかいます」

 一人ではなく、誰かが欠けることもなく、全員で理想を叶えると決めた。


「だから――私という女王の姿を、皆さんで見届けてください」


 だまりのように、全てを包み込む暖かい笑顔と共に想いを告げる。

 その想いに――静かなはくしゆが沸く。

 先ほどのように、称賛を送るためのものではない。

 女王に対する敬意を込めた拍手。

 そんな民衆たちに対して、ミルトは敬意を込めて頭を下げる。

「皆さん……ありがとうございます。それでは理想への第一歩として、レナント村を救った勇士たち、そして女神の代行者と成った者をごしようかいします」

 ミルトの背後から、ゆっくりと亜人たちが姿を現す。

 種族も容姿も異なる七人の亜人。

 その七人を率いるように、タクミが丘の上に立つ。

 そのままリーゼから魔具を受け取り、民衆たちを見下ろす。

「――さて、知ってるやつもいるだろうが、たんしんもんを終えて女神の代行者になったタクミだ。女王の素晴らしい演説の後ってこともあるし、俺の話はサクサクと済ませよう」

 うでを広げ、おおぎような動作でカリンたちを指し示す。

「レナント村で起こった魔獣被害を抑え……しんじゆうった者たちだ。レヴィン、エイグル、クロリス、メリノ、ラングの五名には戦功勲章を。そして前回のぜん試合でしようごうを得たカリン、クノンの両名には――女王のきゆうせい、ファミリエの家名をあたえる」

 その宣言によって、民衆がどうようと共に顔を見合わせ始める。

 家名をたまわるということは、正式に貴族としてむかえ入れるということになる。

 それだけでは終わらない。

「そして――両名には、新たな三大公の一角として国をけんいんすることになる」

 一瞬、その場が静まり返った。

 というよりも、理解が追いつかずに言葉を忘れたという方が正しい。

 それでもタクミは畳みかけるように言葉を続ける。

「さてさて、神獣を下した者たちに勲章を与えるのは理解できる。だけど三大公の座まで与えるってのはやり過ぎているって顔をしてるじゃねぇか」

 動揺する民衆をあおるような口調で語る。

「だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。この神王国家リヒテルトは危機にひんしている。デンメルグの侵攻で領地はせばまり、海上ではセプテリオンがはばかせ、シュトラーゼではものを抑え切ることができない。遠い未来にこの国はめつするだろうよ」

 そんなタクミの言葉に顔をしかめたのは、他国の代表たちだった。

 民衆の不安を煽るだけでなく、他国の人間がいる場で公言する必要はない。

「だが……俺はこのていたいした現状を望まない。だから亜人たちを迎え入れ、現状を打破するために必要な戦力にすると決めた」

 タクミの言葉にこたえるように、カリンとクノンが地面に得物をてる。

「そして俺は現状を望まない。現状維持という言葉にまどわされてまんぜんと日々を過ごし、破滅という名の最底辺にちることを望まないッ!」

 自身の言葉に調子を付けるように、タクミはじよじよに熱を込めて語る。

「まさか――あの男ッ!!

 タクミの意図にいち早く気づいたのはケリンズだった。

 言葉をかえし、煽るような言葉で心を揺さぶり、その揺れをしようする。

 その後にひかえた戦に備えるために――


「――我々は、大陸全土の国に対して『ゲーム』の宣戦布告を行う」


 揺るがない不敵なみを貴賓席に向けながら宣言する。

「俺の望みは大陸の全てを手に入れることだ。国や資源だけじゃない、知識に文化にきように精神、その全てをけ……最後には女神の愛した世界をもどす」

 女神をしんこうする者たちを発奮する言葉を織り交ぜる。

「今のリヒテルトは最底辺にいる。ほうが無ければ旧帝国の侵攻におびえ、海上国家に貿易の主導権を握られ、英雄国家の助力が無ければ魔獣にじゆうりんされる弱者だ」

 揺さぶった民衆たちの心のすきつかむように、タクミは言葉を紡いでいく。

「しかし今が最底辺だということは、後はひたすら上がるだけだ。ただ上だけを目指して、過去の英雄たちのように勇気と英知を持って理想を貫き続ければいい」

 絶対に理想を叶えるという揺るがない意志。

 実現できると他者に思わせるほどの自信。


おれたちの手で――リヒテルトを最底辺から押しげるぞ」


 そうめくくった瞬間、民衆がさけぶように声を上げる。

 王都が揺らぐほどのだいおんじよう

 くすぶっていた国民たちに火が付き、ねつきようでんして広がっていく。

 その中で、貴賓席だけが混乱の最中にあった。

「今の宣言はどういうことだ、フェアシュタットッ!!

「これは……なかなか、キナくさい様子になってきましたなぁ」

「せ、宣戦布告って……うちとリヒテルトは友好国のはずですよねっ!?

 各国の代表がうきあしち、口々にこうの声を上げる。

 しかし、ルクスはだんと変わらない笑みをかべている。

「いやぁ、やっぱり事前に聞いていると胃へのダメージがちがうなぁ」

「ほう……つまり、宣戦布告はリヒテルトの総意ということか」

「ええ。まさか本気で祝辞を読むつもりでいたんですか?」

 煽るようにルクスが言葉を発した瞬間、ケリンズがこしの剣を抜き放ち――

 一閃によって、その剣がはじばされた。

「――まぁまぁ。少しは落ち着いて話を聞いてくださいよ」