「わたしはここで待っているのです。だから、ちゃんと見届けてきてください」
「……おう。ありがとうよ」
リーゼに見守られながら、タクミはドアの前に立つ。
「さて……どうなることやらな」
軽く息を整え、タクミは意を決して部屋のドアを開けた。
数々の調度品に
その中央に立つミルトが、ゆっくりと振り返る。
純白のドレスに身を
その所々には金糸の
色素の
「た、たたたタクミ!? え、えとっ、どうしてタクミがいるんですかっ!?」
リーゼを呼ぶつもりでベルを鳴らしたのか、ミルトがあわあわと慌てふためく。
「え、あ、どこか変でしたか!? 着替え直した方がいいですか!?」
「
動転してドレスを脱ぎ出そうとするミルトを制してから、タクミは
「本当に……見違えるほど成長したな」
「そ、そんなに見られると恥ずかしいんですけど……」
「今さら何言ってんだ。互いに子供の
「そう、ですね……たしかに、お互い子供の頃から
過去を思い返すように、ミルトは軽く俯く。
「子供の頃から、ずっとタクミと一緒でした。タクミがいなかったら……今の私はここにいることすらできませんでした」
それは
タクミがいなければ、ミルトは既にこの世を去っていた。
「二年前――父が亡くなったと聞かされた時、私は世界が終わったような気持ちでした」
いつも自分を守ってくれていた父の存在。
それが
「あの時の私は……本当に
今の姿からは想像できないくらい、当時のミルトは酷かった。
父を失った悲しみから心を閉ざし、誰の言葉にも耳を貸さず、部屋に閉じこもったまま食事も取らず、日に日に
そしてある日――ミルトは部屋から姿を消した。
父の後を追い、ヴェルヌ湖へ身を投げるために。
「あの時、どうしてタクミは私が湖に行ったとわかったんですか?」
「……
苦々しい表情と共にタクミは答える。
それはこの世界の話だけじゃない。
前世……地球でも、タクミはそんな人間を数多く見てきた。
タクミのせいで人生を
拳を
「だけど……そんなあなたのおかげで、私は助けられました。湖から引っ張りあげて、そのまま思い切り殴って、あれは本当に痛かったんですから」
「お前も俺を本気で殴る
「あはは、最終的にお互い鼻血まみれの
そして……タクミはミルトに言い放った。
「『いつまでそんな姿をヴァテルさんに見せるつもりだ』って……あの言葉が無かったら、私は本当にあのまま死んでいたかもしれません」
しかし、その言葉によってミルトは立ち直った。
父を亡くした悲しみ、
「あの時と比べても、私はまだまだダメです。父どころか、他の方たちにすら追いつけていないでしょう。だけど――」
言葉を区切ってから、ミルトは顔を上げる。
「――今の私は、ちゃんと父に
堂々とした佇まいで、誇らしげに胸を張る。
自分を見つけ、確固たる自信を得た姿。
だからこそ、タクミはミルトに言わなければならない。
「――すまなかった」
悔恨の念と共に、深く頭を垂れる。
「俺は……自分の計画のために、お前の父が生きていることを隠していた」
事故で重傷を負ったヴァテルを救えるかわからなかった、ということもある。
しかし、それは言い訳に過ぎない。
「俺は人間らしい考えが苦手だ。だからお前が計画に必要な人間だとわかった後、環境を変えることでお前の成長は
ヴァテルの事故は
事故よりも以前に、何かをきっかけにしてミルトの成長を促すと決めていた。
それが最も効率的な方法だったから。
「お前と初めて会った時から、お前がどれだけ傷つき、悲しみ、死を願うほどに追いつめられると知りながら……お前に
今まで隠し続けてきた事実を、タクミは包み隠さず
そんなタクミの
その話を聞いた上で――ミルトは柔らかく微笑んだ。
「だけど……タクミはずっと私の
タクミの頭に手をかけ、ゆっくりと起こしながら言う。
「私はタクミのことをよく知っています。お
そして、ミルトは
「私は、そんなあなたのことが大好きですから」
暖かな
その真っ直ぐな想いに、思わずタクミは目を丸くする。
少しの間、部屋の中が
「ふふっ、どうでしょう。今のはちょっと自信があります」
「…………ええと、何がだ」
「前に『俺を
イタズラを成功させた子供のように、ミルトは
「それに……タクミはあの時、私に理想を
成長した少女が、成長を促した男の言葉を借りて告げる。
その言葉を聞いて、タクミは普段通りの笑みを浮かべる。
「……ああ。お前を傷つけた分、ちゃんと責任を取ってやる」
「そ、それは先の告白に対する
「いやそれとは違うが」
「じゃ、じゃあっ! 私の
「妹に告白されたようで何とも複雑な気分になった」
「あり得ないほど最悪の返答がきました!?」
「さっきも言ったろ。俺はそういう人間らしい考えが苦手なんだよ」
そして、改めてミルトに向き直る。
「お前はもう十分に成長した。それこそ、女王として相応しい人間になった」
そう告げてから、タクミは
複雑な衣装と
エルスに
「今のお前なら、神王国家リヒテルトを正しく導くことができる。俺と共にいなくても、この国を理想の形にすることができると、他でもない俺が保証する」
既にミルトは女王として十分な資質を得た。
これから先、タクミたちと共に世界を敵に回す必要はない。
だからこそ、タクミはこの場で決断を
「こいつに署名したら、カリンや他の奴らと同様に――って、おい」
「わぁっ……これ、私がもらってもいいんですか!?」
差し出された『念書』を見て、ミルトがきらきらと
「これに私の名前を書けばいいんですよねっ」
「あ、ああ……署名して血判を
「わかりましたっ! すぐに済ませちゃうので待っててくださいね!」
「はいっ! これでバッチリです!」
「すげーな。他の奴らはもうちょっと迷ったりしたってのに」
「だって嬉しいんです! 今まで、私はみんなと違っていましたから」
共に在りながらも、ミルトは心のどこかで
特別な人間と自分を比べて、心の
「これでやっと……私もみんなと同じになれました」
「……そうだな。これでお前も俺たちの仲間だ」
「はい、質問ですっ! 女王と
「テンションたけーな」
「たぶん今までの人生で一番高いですっ!」
「それじゃ人生の中で一番落ち着け。それと俺に『念書』を渡してくれ。他のと違って特別製なんだから、あんまりくしゃくしゃにされると困る」
「特別製……っ! その響きだけで天まで
ミルトがくるくると回り始めたところで、タクミは
「ったく……このままじゃ
小さな呟きと共に、タクミはドアへと顔を向ける。
「ということで――そこで聞いている全員、さっさと部屋に入ってこい」
そうタクミが言い放った