メタバースが広まるために本当に必要なこと「メタバースが広まるために、欠けているものはなんだと思いますか?」
執筆中、テレビ局から取材を受けていて、番組のプロデューサーの方にこう聞かれました。
VRゴーグルの値段や、ゲーミングPCの性能、今のソーシャルVRに足りないさまざまな機能、色んなものが頭をよぎりました。
まず、「機材の値段」でないことだけは明らかです。
世間的にはVRゴーグルやゲーミングPCの値段がまだ一般人には高すぎるとよく言われますが、3章で解説したように、いま最新のPCVRとゲーミングPCを揃えて、私と同様に全てのソーシャルVRを快適に楽しめる万全の環境を作っても、せいぜい30~40万円程度です。そして、ソーシャルVR自体は全て無料で遊ぶことができます。たったそれだけの値段で無限の空間が手に入り、移動の手間からも解放され、この革命性に溢れたメタバースの世界を存分に楽しめるのです。私は基本的に毎日使っていますし、生活必需品である車や住宅の値段が何百万円、何千万円もすることを考えると、ほとんどタダみたいな値段であると言えるでしょう。
また、「機材の性能」や「サービスの機能」についても、もちろんまだまだ発展途上ではあることは確かです。しかし、本書で定義したメタバースの七要件に照らし合わせて考えても、既にそこで豊かな人生を日々送っているメタバース原住民たちの生活を振り返っても、「必要最小限のメタバース(Minimum Viable Metaverse)」がすでに成立していることは明らかです。
悩んだ末、私はプロデューサーさんに「メタバースで生きていく覚悟」だと答えました。
2021年10月、アメリカのValve社が運営する世界最大のソフトウェア配信サービス「Steam」は、配信しているソフトウェアにおける、仮想通貨やNFTの交換を全面的に禁止することを宣言しました。2章の「Neos VR」でも触れましたが、これにより現在ソーシャルVRをはじめ各種サービスが仮想通貨関連の機能を停止したり、止むなくSteamから撤退するなどして、メタバースにおける自由な経済活動は一歩後退してしまいました。
現在アメリカではオンラインゲーム内で行われるギャンブル(賭博)が若者の間を中心として深刻な社会問題になっています。ゲーム内に登場するアイテムが物理現実のお金に換金できてしまうと、ゲーム内の行為がギャンブルに当たるのではないかと訴訟問題にも発展しており、社会的な風当たりが強くなってきているのです。
Valve社の判断は、こうした状況を重く見て、「Steam」が健全なソフトウェア配信サービスであることを社会に示すための苦渋の決断だと思われます。
でも、よく考えてみてください。メタバースが「私たちが生きていく、デジタル世界の新しい宇宙」であるなら、そこで現実と同じ価値の交換が行われるのはごく当たり前のことではないでしょうか。いいえ、むしろ生きていくために必須のことです。もしメタバースで価値の交換が行われることを禁止にするのであれば、物理現実も禁止にしなければならないということになってしまいます。
つまり、メタバースが広まるために本当に必要なのは、社会の「価値観のアップデート」なのです。社会がメタバースを、単なるゲームではなく、そこで生きてく新たな宇宙だと認める覚悟。私たち一人一人が、これからまっさらな荒野に踏み出して、畑を耕し、街を作り、そこに根付いて、生きていく覚悟。
簡単なことではないと思いますが、いずれ人類の価値観が徐々に変化し、人類全体が「ホモ・メタバース(Homo Metaverse)」に進化する瞬間を私は信じています。