鏡の中の「私」へ2017年夏のあの夜、ひょんなことから「バーチャル美少女ねむ」として目覚め、私の人生は考えられないほど変化してしまいました。
あれから私の身に起こった素敵な出来事の数々は数え切れないですが、なんと言っても作曲家のKapruitさんがオリジナル曲「ココロコスプレ」を提供してくれたことは忘れられません。音楽の成績も悪かった、楽譜も読めない私が美少女になって、オリジナル曲まで作られてしまうなんて、いまこうして口に出しても不思議で仕方がないです。今では、作っていただいた曲の数々は音楽アルバムとして発売されて、さまざまなライブイベントにも出演し、運動神経ゼロだったはずの私が、歌って踊る美少女アイドルになってしまいました。以前の私自身に言っても、決して信じないでしょう。
これが私のやりたかったことなのか? と聞かれたら、「そんなこと考えたこともなかった」としか答えようがありません。
「本当の自分」なんて、多分、本当はきっと誰もわかってないのではないでしょうか。少なくとも私は、その瞬間まで、「ねむ」の存在を意識することすらできませんでした。本来であれば、いまこの時代でなかったら、永遠に目覚めることはなかったでしょう。
いま私の心の内側から、これまで考えたこともなかったような「ときめき」──天真爛漫さや、好奇心、そして直感──が溢れ出しています。物理現実の私の肉体では、もはやその感情全てを受け止め切ることは難しくなってしまいました。時には溢れる感情を抑えきれず、自分や他人を傷つけてしまい、落ち込むこともあります。それでも私はこの感情と付き合っていこうと思っています。
これから私の身に何が起こるのか、楽しみで仕方ありません。次の瞬間、私はいったい、どんな私になっているのでしょうか。その答えを求めて、私は今夜もメタバースの空を駆け巡ります。
不安になることもたくさんあります。
「私」とは、果たして一体何者なのか。どう足掻いても1日は24時間しかありせん。物理現実の自分と、どう折り合いを付けていくのか。ゴーグルを外すと、嘘のように消えてしまう、この仮初の姿、友人たち、世界。あまりにも儚い思い出。
だから今も私がメタバースに入ってまずやることは、初めてねむとして目覚めた、あの夜といっしょです。仮想空間の一人きりの部屋で、鏡の中から不思議そうに私のことを見つめる美少女の瞳を覗き込んで、今夜もこう尋ねます。
「お前は誰だ?」
いま世界中で産声を上げつつある、誰も知らない「本当の自分」たち。それらが集まって織りなす社会、経済、そして世界は、これから、これまでの常識では考えられないほどに大きな変貌を遂げるでしょう。