iconファントムセンスの原理:クロスモーダル現象と共感覚

いったいどのような原理でファントムセンスが生じるのでしょうか。よく説明として挙げられるのが、認知心理学などの用語である「クロスモーダル現象」と「共感覚」です。

クロスモーダル現象とは、本来別々である感覚が互いに影響を及ぼし合う現象です。例えば、赤い色(視覚)のシロップからイチゴ味(味覚)を連想してしまうことなどが有名です。経験的にセットで起こることが多い感覚同士の結びつきを脳が一度覚えてしまうと、その後は片方の感覚からもう片方の感覚を脳が補完しようとすることなどによって生じると言われています。経験によって後天的に生じるものなので誰にでも起こりうる現象ですが、人によって経験する体験や感じ方が違うため個人差は大きいです。

先ほど挙げたVRの恋愛シミュレーションゲームで映像(視覚)と音(聴覚)から「吐息」を感じる事例はクロスモーダル現象の一種だと考えられますが、異性と付き合った経験がないと感じづらいなど、感じる感覚に極端に差が出るそうです。また、ソーシャルVRで感じるスキンシップも映像(視覚)から「触覚」を感じるクロスモーダル現象の事例だと考えれますが、こちらはスキンシップを繰り返すことにより感じやすくなることが経験的に知られており、現実の感覚と紐付けるためのコツのようなものがあるのかもしれません。

一方、共感覚(シナスタジア)とは、ある刺激に対して、本来起こるはずの通常の感覚だけでなく、異なる種類の感覚も自動的に生じる現象です。例えば音楽の世界などには、音を聞いた際に、音階の高さによって「はっきりと音に色が付いて見える」人がいるそうです。こちらは多くの場合は先天性のもので、一種の特殊能力のようなものです。

このうちの一種で「ミラータッチ共感覚」というものがあります。映画の中の俳優などが身体を触られているのを見ると、自分自身の身体も触られているような感覚をはっきりと得るといった現象です。これは「幻の身体」であるアバターの感覚を感じる現象に近いと言えそうです。特に訓練をしていなくても初めから強い触覚をファントムセンスで感じる人などもおり、そういう人の感覚は一種の共感覚である可能性があるかもしれません。

「クロスモーダル現象」にせよ「共感覚」にせよ、現象が起こっている際の脳活動を調べると、実際に感じている時と同じ脳の部位が反応していることを示す研究があります。つまり、脳にとっては実際にその感覚を肉体で感じているのとなにも変わらないということです。