心象イメージによる超空間デザイン自由に空間を創造できるメタバースで、なぜわざわざ実在の都市を再現する必要があるのでしょうか?
5章では、人と人との心理的距離が「空間性」により可視化されることがメタバースにおける「コミュニケーション」の本質である、という話をしました。実はこの現象は、何も人と人との間だけに限ったものではないのです。先ほどの「秋葉原」のように、誰でも町並みがぱっとイメージしやすい、人々の心の中にはっきりとした心象風景がある都市は、ある種の人格をもった存在とみなすことができ、「人と都市とのコミュニケーション」とも言うべき現象が頭の中で起こります。物理現実の空間における「心象イメージ」が頭にあるので「秋葉原では改札をくぐったら広場があるはずだ」という期待があります。それを裏切って出現するからこそ、メタバースの秋葉原における「エヴァンゲリオン初号機」の出現は衝撃的なものになっているのです。
これこそがメタバースにおける「超空間デザイン」の本質です。メタバースでの空間デザインというと、なにもない空間に必要なものを効率的に配置するだけの無機質なものに思われがちですが、このように、人々が共通認識として持っている心象イメージを利用したり、時には裏切ったりして、物理現実を超えた感動を演出することが「超空間デザイン」の基本なのです。
このように物理現実における「都市」は、私たちの心のなかにある「都市」でもあります。今後メタバースにおける「都市」は仮想空間内で群衆の感動や行動をコントロールするツールになっていきます。これから世界中の有名都市の「デジタルツイン」がメタバース上に次々と出現し、たくさんの人がそこに集まり、メタバースにおいても「都市」は経済の重要なドライバーとなるでしょう。リアルタイムで同期する情報も増えていき、究極的には物理現実側の都市を実際に訪れている人と、デジタルツイン側を訪れているアバターの姿の人がお互いにコミュニケーションできるような世界観も考えられます。
逆に、メタバースで先に訪れた都市に、物理現実で旅行して初めて訪れると、初めてのはずなのに街に親近感や既視感を抱く、といった事例も今後は当たり前のことになっていくでしょう。