iconアバター経済圏

現在のメタバースで最も大きな「分人経済」の事例と言えるのは、「アバター経済圏」つまり、アバターを媒介としたクリエイターエコノミーです。

分人にさまざまな姿かたちを与えることのできる「アバター」は、4章で解説したように自分自身の存在を示す大切な「アイデンティティ」の一部であるため、クオリティの高いものを手に入れたいという需要が高まるのは当然です。また、さまざまな制限のある物理現実と違い、自己表現としての容姿のクオリティアップには制限がありません。

さらに、アイデンティティを示す顔や身体の部分は保ったまま、アバターの着ている「衣装」だけ変更してさまざまな「ファッション」を楽しみたいという需要も非常に大きくなります。現在ソーシャルVRユーザーの9割近くが物理男性にも関わらず、8割近くが女性アバターを使っている背景の一つとして、美少女キャラクターになって幅広いファッションを楽しみたいという理由がかなり大きいのではないかと私は考えています。

3章で詳しく紹介したように、アバターの統一規格「VRM」やアバター制作ツール「VRoid Studio」の登場により、「生産者」であるアバターや衣装を作るクリエイター、そして、「消費者」であるアバターや衣装を着たいメタバース住人との間でクリエイターエコノミーが成立しました。そのまま着ることのできる「アバター自体」も販売できますし、VRoid Studioでアバターに着せる「衣装パーツ」を販売することもできます(なお、VRMがあまり普及していない海外では、アバターの違法コピーが横行している場合もあり、現時点では日本ほどの経済圏にはなっていない印象です。iTunesが登場する前の音楽ファイル市場を彷彿とさせます)。

ピクシブ株式会社が運営する個人向けネットショップ「Booth(ブース)」では、数多くの個人クリエイターからさまざまなアバターや衣装が販売されています。例えば、「VRoid」と入力して検索してみましょう。Tシャツ、ジャージ、カーディガンなどのトップス、ハーフパンツ、ジーンズなどのボトムス、メイド服や制服などのセット衣装、髪型なども出てきます。値段は数百円のものが多いですが、無料のものもあります。高くても概ね2000~3000円程度です。一度買うと洗濯の必要もなく無限に着れますから、物理現実の服と比べるとかなり安いと言えるのではないでしょうか。ちなみに、体型に合わせて自動的に調整されるので、サイズを気にする必要は一切ありません。