本章では、メタバースがもたらす三つめの革命、社会における価値の交換である「経済」について論じていきたいと思います。
そもそも「経済(Economy)」とは、社会のなかで人と人とが価値を交換し、より幸せに生きていくための社会システムのことです。よく誤解されますが、「お金」はそれを効率化するために発明されたツールに過ぎず、お金儲けは経済の本質ではありません。国家の経済政策なども一つの方法論に過ぎず、あくまで本質は社会で生きていく私たち一人一人の人間の幸せを最大化することにあります。
そんな経済がどうあるべきかを考える学問が「経済学(Economics)」です。経済学は一般的に、社会に参加する個々人から見た小さな(ミクロな)視点で経済を捉える「ミクロ経済学」と、社会全体という大きな(マクロな)視点で経済を捉える「マクロ経済学」があります。
メタバースが引き起こす経済の革命には「分人経済」「超空間経済」という二つの側面があり、これまでの経済をミクロ・マクロ両面で大きく拡張します。
ミクロ経済学のこれまでの常識は「個人(Individual)」を経済の最小単位とみなす「個人経済(Individual Economy)」でしたが、4章で論じたように、メタバースでは人間の心のさまざまな側面「分人」が姿かたちを得て自由に活動を始めます。メタバースでは経済の最小単位が「分人(Dividual)」に移行し、多面的な経済参加が可能な全く新しい経済「分人経済(Dividual Economy)」が生まれます。現在個人が経済の鍵をにぎる「クリエイターエコノミー」という言葉が注目されていますが、本章では、その究極形である「分人によるクリエイターエコノミー」について「分人経済学(Dividual Economics)」として論じます。
一方で、マクロ経済学のこれまでの根源的なテーマは、地球という限られた空間資源をどう社会に配分するかということでした。こうした経済の空間的な側面に着目した経済学の新分野を「空間経済学」と言いますが、2章で解説したように、メタバースでは空間自体を自由自在にデザインすることができます。メタバースでの「空間経済(Sspatial Economy)」は地球という枠組みの限界から解き放たれ、全く新しい経済「超空間経済(Meta-spatial Economy)」が生まれます。本章ではこれを「超空間経済学(Meta-spatial Economics)」として論じます。
「分人経済(学)」と「超空間経済(学)」はメタバースでの経済現象を説明するために私が考案した造語ですが、今後のメタバース経済を語る上で必須となる概念だと考えています。
先述したとおり、現時点ではソーシャルVRの経済は機能的にも人口的にも未発達で、メタバース内で本格的な個人間経済が成り立っているとは言えません。ですが、すでに革命の可能性を示す事例は数多くあります。本章では、実際にソーシャルVRで起こっているさまざまな例を紹介し、さらに今後メタバースで生まれる新しい職業について考察することで、今後のメタバースでの経済が起こす革命を考えていきたいと思います。
さらに私は「分人経済」「超空間経済」の二つの概念をまとめて、「経済コスプレ」と呼んでいます。メタバースでのコスプレは、人類が纏うものではなく、地球全体で纏うものなのです。