ここからは、メタバースがこれから人類にもたらす「アイデンティティ」「コミュニケーション」「経済」の三つの革命について論じていきたいと思います。「ソーシャルVR国勢調査」により明らかになった原住民の生活実態や文化、そして人類の新たな進化の可能性について具体的に解説していきます。
本章では、そのなかでもまず一つめ、あらゆる体験の出発点である「アイデンティティ」について論じていきたいと思います。
そもそも「アイデンティティ(自己同一性)」とは、私たちが私たち自身をどのようなものと捉えるかという「認識」であり、他者や社会からそれが認められているという「感覚」のことです。物理現実では、基本的には生まれたままの名前・姿・声を受け入れるしかありませんでした。つまり、アイデンティティとは「与えられる」ものでした。
メタバースにおけるアイデンティティは「名前」「アバター」「声」という三つの軸で認識されます。前章の「アバター技術」では、課題や懸念はあるものの、さまざまな技術や努力によって現状のソーシャルVRの世界では「アバター」に関して「なりたい自分になれる権利」が基本的には保障されているという話をしました。ネットワークを介して接続するメタバースでは、この「アバター」の視覚的な外見に加えて、「名前」も物理現実とは違ったものを自由に名乗れるようになりますし、「声」もさまざまな加工音声技術により物理現実とは違った望みの声で喋ることができるようになりつつあります。
つまり、基本的には与えられた固定のものを「受け入れる」しかなかった物理現実時代のそれとは違い、メタバース時代のアイデンティティは自由に「デザインする」ものになり、「なりたい自分」として人生を送ることが可能になるのです。さらには、複数のアイデンティティを「切り替える」ことで人生を自在にデザインできるようになります。人生の在り方はこれまでとは大きく変わっていきます。
私は、この概念を「アイデンティティのコスプレ」と呼んでいます。
コスプレイヤーはさまざまなコスプレ衣装を身に纏うことで、物理現実にいながらにして、アニメや漫画の二次元世界のキャラクターに変身することができます。メタバースでのコスプレは、肉体で纏うファッションではなく、魂自体に纏うものなのです。