インターミッション:忘却か、覚醒か

『見事だと思わないか? この完成美と優れた独創性には舌を巻く。数十億の人々がこの中で生涯を過ごす。忘却と共に…。

そもそもマトリックスは、人々が苦しまず幸せに暮らせる理想郷を築くために考案された。だがプログラムは拒絶され、中の人々は全滅した。我々のプログラムが、理想郷を描くには不十分だったと言われた。だがそれは違う。人類は、不幸や苦しみがないと現実だと思えない種なのだ。だからこそ理想郷は、人類の原始的な脳には悪夢となり拒絶された。

そしてマトリックスは「今の形」になった』

──エージェント・スミス、映画『マトリックス』

1999年に公開されたSF映画『マトリックス』で描かれた仮想世界マトリックスでは、人々は物理現実と全く同じように、そこがコンピュータにより再現された仮想現実であることにすら気づかずに一生を送っていました。まさしくマトリックスは、本書1章で定義した七要件を全てを完璧に満たす「完全なメタバース(Perfect Metaverse)」の一例であると言ってよいでしょう。

しかし、そこで生きる人々は、幸せに暮らせる理想郷として作られたはじめのマトリックスを受け入れることができませんでした。最終的にマトリックスは不幸や苦しみにまみれた物理現実をそっくりそのまま再現したものになってしまいます。キアヌ・リーブス演じる主人公「ネオ」は、そこが実は仮想現実である真実に気づき、救世主として覚醒。マトリックスの中で自分の意思によって望む通りの奇跡を起こせるようになります。