icon「なりたい自分になれる権利」がぶつかる課題

1章ではメタバースの必須要件として「自己同一性:自分のアイデンティティを投影した唯一無二の自由なアバターの姿で存在できる世界」を挙げました。アバター技術とは、このメタバース住人の「なりたい自分になれる権利」(「アバターの自己決定権」と呼んでも構いません)を保障するためのしくみと言い換えることもできます。これは、メタバース時代の最重要課題の一つです。

この権利を最も理想的かつオープンなかたちで保障しようとしているのが、現在「VRMコンソーシアム」が推進している世界初の「VR向け3Dアバター」の統一規格フォーマット「VRM」です。さて、この当然とも思える権利のためになぜ統一規格が必要なのでしょうか。

VRMの登場以前、アバターで「なりたい自分になれる」を実現しようとしたとき、大きく分けて三つの問題がありました。

①「なりたい自分の姿を作れない」

まず、アバター用の3Dモデルを作るためのコストが非常に高いという問題がありました。例えば、私が初めて自分専用のアバターを作ったころは、モデラーさんに依頼してフルスクラッチでモデルを作ってもらうしか方法がなく、数十万円~数百万円のコストがかかるのが当たり前で、個人が気軽に手を出せるようなものではありませんでした。フルスクラッチというのは、要は粘土をこねてゼロからフィギュアを作っていくようなものです。また、当時は引き受けてくれるモデラーさんも多くはありませんでした。

②「なりたい自分を着るのが大変」

また、せっかくモデラーさんに3Dモデルを作ってもらっても、それをすぐにアバターとして利用できるわけではなく、ユーザー自身が煩雑な設定作業をしなければならない問題がありました。作ってもらった3Dモデルは、要はただの「お人形」のようなものです。お人形を「着ぐるみ」として着るためには、中に人が入れるように中身をくり抜いたり、外を見るための覗き穴を開けたりする必要があります。

例えば、今でもVRChatでは、Unityというツールを使ってユーザーが自分でこれをする必要があります。2章でも触れたようにUnityはゲーム開発ツールで、本来一般人が触るようなものではありません。素人では環境構築だけで丸一日かかるでしょう。これを使って3Dモデルに身長を設定したり、自分の視点「ビューポイント」の設定したり、動きに合わせて揺れる髪やスカートなどの「揺れモノ」の設定をしたりして、はじめて3Dモデルが「着ぐるみ」であるアバターとして利用できるようになるのです。これはあくまで一例に過ぎず、複数のサービスで利用しようとすると、それぞれで全く違う作業を覚える必要があります。

③「色んな自分が生まれてしまう」

さらに、サービスごとに対応するアバターの形式が異なっており、それぞれ別々でアバターを用意しないといけないという問題がありました。これではサービスごとにアイデンティティがバラバラになってしまいます。

これら三つの問題のせいで、メタバースにおける「なりたい自分になれる権利」は十分に保証されていませんでした。それが「VRM」が登場したことで現在では状況が飛躍的に進展しました。

そんな革命を進めているVRMとは一体どんなものなのでしょうか。どのようにして「なりたい自分になれる権利」を保障しようとしているのでしょうか。