トラッカーには、単体だとバッテリーが3~4時間しか持たないという欠点があり(十分なように思えるでしょうがすぐに物足りなくなります)、私は市販されているモバイルバッテリーを内蔵したバンドなどをつかって、10時間以上フルトラができる環境を構築しています。

以前はフルトラをやるには、このようにライトハウス方式のVRゴーグルとVIVEトラッカーを使ってやる方法しか簡単な手段がありませんでしたが、現在では、インサイドアウト方式のMeta Quest2などの独立型VRゴーグルでも後付で使えるように、足や腰に地磁気センサ・加速度センサを内蔵したバンドを巻きつける「Haritora」など、様々な新しい商品も生まれています。

私もソーシャルVRを始めたばかりのころは、仮想空間に入るためだけにこんな面倒なことをするなんてとても考えれませんでしたが、一度はじめると病みつきになってしまい、いまでは普段から基本的に6点トラッキングでプレイしています。10点トラッキングはさすがに面倒なので、動画やMVの撮影をするときだけです。

フルトラの具体的な用途としてイメージが湧きやすいものには体操・演劇・ダンスなどがあります。例えばソーシャルVRでは、運動不足解消のために毎朝みんなで集まってラジオ体操をするイベントや、リアルタイムでの役者の演技を皆で鑑賞する「VR演劇」などが行われています。全身の身体の動きで繊細な感情表現を行う「フルトラ」はかかせません。

しかし、実はフルトラはなにもそういった特別な時だけに使われているわけではありません。ソーシャルVRには「kawaiiムーブ」という文化があり、普段の挨拶やおしゃべりの最中にもさりげなく可愛らしい動きをして場を和ませる文化があります。このkawaiiムーブのために、一般ユーザーでも常にフルトラを利用している人が数多くいるのです。

kawaiiムーブは単なるお遊びではなく、極めるとそれだけで人気者になれます。スポーツのような側面もあり、研究会や講座などもVR内で行われているほどです。中の人の性別や年齢に関わらず、これまで埋もれていたであろうkawaiiムーブの才能が次々と開花していくのは、実にメタバースらしい現象だと言えるでしょう。フルトラで全身の動きを見れば、声やアバターを変えてもだいたい誰かわかってしまうと言われています。身体の動きは個性を表現するツールでもあるのです。

COLUMN

日本人が活躍するVRダンスの世界

VRでのダンスは既に一大文化になっており、日本人が活躍しています。アメリカ・オースティンで毎年開催されている世界最大級のクリエイティブの祭典「SXSW(サウスバイサウスウェスト)」は2021年、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で現地開催が見送られ、なんとVRChatの中にオースティンの街を再現した「VR開催」となりました。その最終日に行われたアバター・ダンスコンテストで優勝の快挙を遂げたのが、VRChatで有名な日本人ダンサー「yoikami」さんです。

yoikamiさんは片麻痺の障害で日常生活に支障が出てしまい、リハビリのために在宅でできるVRダンスを始めたそうです。地道に練習を積み重ねた結果障害をある程度克服し、今では片手倒立のアクロバティックな激しい動きから、たおやかな扇子さばきによる繊細な感情表現、ダンス中にアバターの衣装を次々と切り替える生着替えダンスなど、様々なテクニックを編み出しVRダンスを芸術と言えるレベルまで昇華、さまざまなイベントで活躍しています。

運動神経ゼロの私がMVの中でダンスシーンを取り入れたいと言ったときには、yoikamiさんが私の代わりに曲に合わせて軽快なダンスを踊ってくれました。このときは、曲に合わせて歌う顔や口の表情の動きは私に連動させたまま、フルトラの身体の動きのみyoikamiさんと連動させて、複数人で一つのアバターを動かす、言わば「VR二人羽織」とも呼べるVRならではテクニックを使いました。このように、VRでのダンスは現実を超えた新たなカルチャーとして広がりつつあるのです。

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ねむとyoikamiさんの「VR二人羽織」によるMV『Virtual Stargazer』