「なりたい自分になれる権利」への姿勢はまだ不透明このように、仮想世界における「自己同一性」がある程度考慮されていますが、アバターに関してはいくつか懸念事項があります。
まず、いまのところ外部のアバターを自由に取り込む機能はなく、統一された世界観をかなり重視しているようにみえるため、今後もそういった機能はサポートしないかもしれません。
日本的な美少女キャラからロボット、モンスターまで、さまざまなアバターが混在する現在の四大ソーシャルVRの自由でカオスな世界観に慣れ親しんでいる私としては、仮に将来的にHorizonのアバターがデファクト・スタンダードになり、「メタバースではアメリカ的・ディズニーアニメ的な姿で暮らさなければならない」と考えるとゾッとするものがあります。
3章で「なりたい自分になれる権利」として詳しく解説しますが、世界観を強制されない完全に自由なデザインのアバターを利用する権利が保障されていなければ、必要最低限の「自己同一性」があるメタバースとは言えないのではないでしょうか。このあたりは今後正式版で世界展開が始まるにあたってどうなっていくか非常に気になるところです(もちろん株主や一般ユーザーの手前、いきなりカオスな世界を魅せるわけにいかないザッカーバーグの立場もわかるので、私の杞憂だとよいのですが)。
また、一点非常に気になる報告があります。オープンベータにともないアバターシステムが「Meta Avatars 2.0」にアップデートされたのですが、このタイミングでそれ以前に作って使っていた自分のアバターの見た目が大きく変わってしまったユーザーがいるそうなのです。おそらくアップデートにともない、アバターに使用されていたパーツが何らかの理由で別のものに差し替わってしまったことが理由だと思われますが、メタバースにおけるアバターはユーザーのアイデンティティそのものであり、プラットフォーム側の都合で勝手に変更していいようなものでは決してないと私は考えます。
同じく3章で詳しく解説しますが、現在普及が進められているアバターの標準規格である「VRM」などでは、作成したアバターはクリエイターの著作物の扱いで、他者が勝手にどうこうすることは決してできないしくみになっています。対してHorizonでは、少なくとも設計思想としてプラットフォーム側がユーザーのアバターに干渉できるしくみになっています。まだβ版ですし、なにかのミスであると信じたいところですが、ユーザーの権利よりもプラットフォームの権力の行使を重視している可能性があり、「自己同一性」の観点で大きな懸念事項だと言わざるをえません。
加えて、Metaをとりまく昨今のアメリカの社会情勢を鑑みると、別方向からの懸念も考えられます。
今のところHorizonではFacebook(SNS)のように物理現実における実名の表示を強要されることはなく、自由な名前を名乗ることが可能にはなっています。また、アバターのカスタマイズも、現実の自分の性別・人種に合わせたり、実際の姿に似せなければならないルールは存在しません。
ただしアメリカでは、現地人が日本の着物を着たり日本のアニメキャラのコスプレをするだけで「文化の盗用」として周囲から批判が巻き起こるようなこともあります。そういった問題に慎重なMetaが将来的に、メタバースでも物理現実と同じ性別・人種の姿でいるべきだといった「なりたい自分になれる権利」を大きく制限するガイドラインを制定し、世界的なプラットフォームとしてそれがデファクトになってしまう可能性を私は非常に憂慮しています。
4章で「アイデンティティの革命」として実例とあわせて解説しますが、私はメタバースは現実のコピーではなく「なりたい自分」でいられる現実を超えた世界であってほしいと考えており、Metaの今後の動きに注目しています。