メタバース時代の覇権を握るには山積する課題現行のソーシャルVRの中では圧倒的な人口で賑わうVRChatですが、今後メタバースとして一般層に普及していく上ではいろいろと課題があります。
よく指摘されるのが「大規模同時接続性」がそれほど高くないことです。非常にリッチな映像表現力の代償として、同じワールドに一度に集まれる人数には制限があり、一箇所に大人数集まる巨大イベントをやるのには不向きです。バーチャルマーケットでも、人数が多い場合は複数のインスタンスに分かれてアクセスせざるを得ず、せっかく同じ時間に同じイベントにいるのにお互いに会えない、ということもよく起こります。
また、それ以上に私が問題だと考えているのは「自己同一性」「創造性」の観点です。アバターやワールドの自由度が圧倒的に高くどんなものでも作れるためクリエイターの評価が高い反面、コンテンツの制作やアップロードにはUnityというゲーム開発ツールをインストールして使いこなす必要があり、最も普及しているソーシャルVRに関わらず、完全にライトユーザーお断りの世界になっています。日本のVRChatユーザーはなぜかみんな当たり前のように使いこなしているので混乱しますが、Unityは本来プロがゲーム開発を行うのに使うツールであり、習熟には長い忍耐を要します。私は3時間ほど悪夢を味わったあと二度と触らないと決意し、アンインストールするに至りました。ブログシステムが普及する前の、HTMLを直接編集するのがWebサイトを公開する唯一の時代だった、黎明期のインターネットを彷彿とさせますが二次元と三次元の違いがあり難しさは比較になりません。
もちろん、公開されている他人のアバターを着て遊ぶので満足できるのであればUnityは必要ないのですが、私はメタバースで生きていくためには唯一無二のアイデンティティであるアバターは絶対的な必要条件だと考えています(4章で詳しく解説します)。アップロードにすらUnityが必要なため、ツールで自作したり他人に制作を依頼したアバターを持ち込むのも難易度が高く、今後万人に向けたメタバースとして発展するのであれば、こうしたユーザビリティの根本的な改善は必須です。
ちなみに、私は現在では知り合いのUnityエンジニアの方何名かに作業を全てアウトソース(業務委託)するルートを確立しており、VRChatで自由なアバターを利用できる唯一のライトユーザーかもしれません。要は、カネとコネの力で本来あるべきメタバースの姿を無理やり実現しているわけですが、万人におすすめできる方法とはとても言えません。しかしこのおかげで、私にはVR外のインフルエンサーの方々をVRChatにゲストとして彼ら自身の姿で連れて行く道が開け、メタバースの世界をさまざまな界隈の方にお伝えするのにとても役立っているのは確かです。
また、これはVRChatに限らないのですが、「経済性」の観点では課題がさらに山積みです。バーチャルマーケットの例を挙げたように個人間の商用利用もあるにはあるのですが、VRChat自体には実はまだ決済の仕組みが存在しません。いざ実際にVR内でアイテムやサービスを購入しようとするとブラウザでWebサイトが開くだけで、VRゴーグルを脱いでパソコンで決済操作をするという非常に残念なことになっています。
イベントの開催にも課題があります。VRChat内で商業イベントを行うには規約上VRChat社とのライセンス契約が必要な場合が多く、個人で簡単に行えるような整備はまだできていません。
さらに、先述したとおりコンテンツのアップロードにはUnityの知識が必要なため、せっかくアバターや3Dモデルなどのアイテムを購入しても、一般人はそれをVRChatに持ち込む手段がないためそもそも使い道がないという問題があります。
後述するNeos VRやバーチャルキャストでは当然のように実現している「アイテム」の概念も存在しません。VRChat内のオブジェクトは基本的にアバターとワールドのみです。たとえば、「テニスをするためのラケット」のような道具を作ることができません。現状はアバターやワールドの一部として無理やり実装するしかないため、例えば人とアイテムを交換したり、あるワールドのアイテムを他のワールドにもっていく、といったことができません。自分のカメラを人に渡して写真を撮ってもらうこともできません。
現時点で世界最大のユーザー数と美しいワールドの数々を誇り、豊かなメタバース文化を生み出したVRChatですが、一般人が仮想空間で気軽にモノやサービスを売買し、本格的な経済が回り始めるにはこれらの問題をひとつひとつ解決していく必要があります。私がメタバースを「魔法が使える代わりに、まだ貨幣経済が成立していない旧石器時代の荒野」と表現したのはそういう事情なのです。
VR機器や自分のアバターがなくてもVRChatの世界を覗くことはできるので、ゲーミングPCをもっている方は、ぜひその壮大な世界をご覧いただきたいです。初心者の方はまず初心者案内のワールドに行くと、だいたいどの時間でも親切な方がどこからともなく現れ、操作方法やマナーを教えてくれるはずです。