
私がメタバースの魅力に気付いたきっかけは、2018年に起こった世界最大の仮想通貨盗難事件「コインチェック事件」でした。
私は、「なりたい自分」として本当の意味で生きていくためには、単に姿や声を仮想化するだけでは不十分で、バーチャルキャラクターのまま経済活動に参加することが何より重要だと考えています。その観点で仮想通貨・ブロックチェーン技術も一大テーマとして着目しており、実は私の名前「ねむ」も仮想通貨「NEM(ネム)」が由来の一つになっています(本書で解説しますが、「経済性」はメタバースの必須要件です)。
しかし、2018年1月26日、仮想通貨をめぐって大事件が起こりました。日本の仮想通貨取引所「コインチェック」が外部からハッキング攻撃を受け、580億円相当ものNEMが盗難されたのです。動揺は全世界に広がり、成長段階であった仮想通貨市場は史上最大規模の暴落を起こしました。
混乱のさなか、正体不明のホワイトハッカー「JK17」が犯人追跡に立ち上がりました。JK17はブロックチェーン上で犯人の痕跡にマーカーを付け、犯人を追い詰める一部始終をネットに次々にリーク、全世界の注目が集まりました。JK17はアイコンをアニメ風の美少女キャラクターにしており、そのコードネームから「正体は17歳の天才女子高生(JK)ではないか?」という説が浮上、次々と応援のためのファンアートが描かれるなど、ネットは一種の「お祭り」状態になりました。当然NHKをはじめ各種メディアから取材依頼が殺到しましたが、JK17は一切応じることはありませんでした。
仮想通貨の世界を守るために立ち上がったJK17の想いを伝えたい! そう思った私が早速コンタクトすると、JK17は「応援してくれる方々の夢を裏切りたくないので、ねむちゃんのように美少女の姿で出演できるなら取材に応じる」と語りました。こうして、私は当時始めたばかりだった自分のVR環境やボイスチェンジャーをJK17のパソコンに移植、メタバース空間(2章で解説するソーシャルVR「バーチャルキャスト」で実施しました)でJK17を美少女に変身させ、公開単独インタビューを実現しました。その正義感溢れる行動とは裏腹の、素朴で可愛らしい人柄はたいへんな反響を呼びました。
こうして私は、メタバースがネットで「なりたい自分」として活動している匿名の著名人にインタビューする上でも非常に有効なことに気づきました。正体は隠したまま、しかし味気ない文章ではなく、三次元空間で生きている生の姿をお見せできるのです。これをきっかけとして、私はメタバース世界でさまざまな方へのインタビューを自身のYouTubeチャンネルで生中継するようになりました。活動を通してさまざまなメタバースの世界を巡り、ネットの著名人や、メタバースの世界で日常を送る個性豊かな住民たちと出会ううち、いつしか私自身もその魅力の虜となり、今ではVTuberとして動画配信している時以外も毎晩VRゴーグルでメタバース世界に入り「バーチャル美少女ねむ」として人生を送るようになったのでした。
現在では、Facebook改めMetaと並ぶVRゴーグル開発大手「HTC VIVE」公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命していただき、最新VR技術のPR活動も行っています。