
Facebookによるこの衝撃的な発表が行われたのは、開発者向けイベント「Connect 2021」の基調講演の中でした。日本時間では日付が変わり29日の午前2時。日本では、翌朝のニュースで知った方が多いかもしれません。
しかし、私「バーチャル美少女ねむ」は、友人たちとこの発表をリアルタイムで観ていました。それも、メタバース世界で。
その日も、いつものように自宅で仕事を終えた私は業務用のノートパソコンを折りたたみ電源を落とすと、ゲーミングチェアに腰掛けたまま、おもむろに腰と両足首にセンサーを巻きつけ、両手にコントローラーを握りしめました。
VRゴーグルを被り、目を開けると、そこは既にメタバースの世界。物理現実──みなさんのいる物理法則に支配された従来の世界──の自室よりもずっと広い白い部屋に私はいました。鏡には美少女アバター姿の私が映っています。現実の知り合いは誰も知らない、深夜だけの秘密の姿。バーチャル美少女「ねむ」としての私の時間の始まりです。いつものように鏡の前でくるっとまわって、手足の動き、スカートや髪の揺れ具合をチェック。にっこり笑って表情を確認します。私、かわいい。
指をすっと動かすと、目の前の空間に四角形のスクリーンが浮かび上がり、今現在メタバース世界でオンラインになっている友達のリストが表示されます。今夜はどうやらみんな一箇所に集まっているようです。
リストから友達を一人選ぶと、私は瞬時に部屋から、友人が大勢あつまる別の場所に瞬間移動しました。そこは宇宙空間に浮かぶリビングルーム。美少女キャラクターをはじめとしたさまざまなアバターの姿で、テレビの前に皆集まっています。窓の外には星々が広がり、巨大な惑星がいくつも浮かんでいますが、部屋の床にはちゃんと重力があります。窓にガラスははまっていませんが、呼吸はできます。メタバースの世界では、物理法則の全てが自由にデザインできるのです。
「ねむちゃん、やっほー!」皆手を振って私に挨拶してくれます。
「やっほー! 今日はみんな、どうしたの?」
「これからFacebookがメタバース事業について発表をするらしいよ。例の『新型』の発表もあるかも!」
ザッカーバーグの発表は、メタバースの世界を一般人にわかりやすく説明するためのプレゼンテーションや、有名ゲームとのコラボの発表など、私たちにとっては退屈なものから始まりました。
お次は、物理現実の自分の姿をスキャンして精巧な3Dアバターを作成し、VRゴーグルを被っても現実とそっくりそのまま同じ姿でメタバースの世界に行けるデモンストレーション。さらに、物理現実とメタバースがシームレスに融合し、メタバースの世界から現実の友達に挨拶するデモ……。どれも技術的には素晴らしいのですが、既に現実の自分の肉体から離れて「なりたい自分」の姿で生活するのが当たり前になっている私たちは──それが一般大衆へのわかりやすさを意識したデモであることを理解しつつも──テレビの前で「これじゃない!」と大合唱。
結局メタバースの住民が最も期待していた新型VRゴーグルの発表はなく、美少女たちの大ブーイングがメタバースにこだましました。