嘘が羽化する瞬間ってわかる?
アタシは知ってる。ひとの口に戸は立てられないってこと。学校は、眠らないってこと。噂は噂と結合。放課後の延長戦のなかで、真実味を帯びていく。
そして、拡散――あの子とその子のLINEグループに拡散。その子とこの子の裏・LINEグループに拡散。別の学校の、知らない誰かのタイムラインに拡散。拡散。拡散。拡散――
気づけば噂は、
「ねぇ、知ってる?」
「聞いた聞いた――なんでしょ」
本当になっている。
アタシは事件の翌朝、通学路を飛び交う噂に耳を傾けた。
前を歩く下級生の集団は、ひそひそ。ひそひそ。
互いの耳元でささやき合っていた。
「噂じゃバスケ部の――」
「――でしょ。一年の真城」
「いじめなんでしょ」
「――じゃなくて」
下級生は〝加害者〟の家族が後ろにいるっていうのに、なにも気づいていない。
きっと知らないのだ。なにも知らない。だから、真実なんてわからない。
「そもそも浮気で――」
「――じゃないの?」
続いていく。伝言ゲームは夜の喧噪から朝の学校へ受け継がれていく。
変わっていく。世界が。秩序が。常識が。未来が。
移ろっていく。
「でもさ」
アタシはそれに加担していた。
誰もいない夜の生徒会室で、ひとつの噂を流した。
そこに〝彼女〟がいなかったから。それだけの理由で、アタシはひとり闇のなかでスマートフォンをなぞった。
「なんか嫌だよね」
噂と嘘は結合。転化。拡散。伝言ゲーム。
正解なんて、誰もわからない。
「生徒会長が――なんてさ」
アタシはダイスを投げたのだ。
卒業なんてさせない。逃げようとしたって許さない。アンタが道を選択するなら、その選択肢をアタシが作ってあげる。アンタが泥にまみれて潔癖な顔を歪めるさまを、一番近くで眺めてあげる。なにもかも諦めるまで。
アンタが再びアタシの隣に戻るまで。
それがハッピーエンド。
少なくとも、アタシにとっての。
冷笑を欠伸で噛み殺して、朝の通学路をひとり歩いた。
ひそひそ。ひそひそ。
まるで舞い落ちる紅葉のような色とりどりの内緒話をかきわけて進んだ。
やがて見つける。獲物を。アタシが欲しいものを。
「おはよう、理子」
さあ、はじまるよ。
アタシの描いた選択の物語が。
願いは叶えるものだって教えてあげる。
手加減はしない。なんだって使って、優しくしてあげる。
欲しいものは、必ず手に入れる。
アタシは、そういう女。