別れの言葉は、なんだったかしら。
わたしは顎に指をあてて、そればかりを考えた。視線を彷徨わせても、いくら考えても答えは出ない。まるで体育倉庫のようにごちゃついた記憶の渦は、悠美の大事な言葉さえどこかにやってしまったようだった。ボールに跳び箱。堆く積まれたマットに、三角コーン……嗚呼、なんだったかしら。
「伊織」
そう。確かこんな台詞だった「アタシは、アンタのモノじゃない」悠美ったらまるでドラマみたいな夕陽を背に、わたしを指差したのだ。
「伊織」
涙をこぼして謝るわたしを、悠美は決して許してはくれなかった。それどころか、次の日には別の女の子を従えて、王子様のように微笑んでいた。
「ねぇ、伊織」
わたしはそれが許せなくって、その子の机を窓から放り投げた。ノートも教科書も破り捨てて、上履きに鼠の死体を入れた。
もう何年も前の話。懐かしいわね。
わたしは、そういう女。
「わかっているわ」
彷徨う視線を真っ直ぐに正して、わたしは理子を見た。肩を強く揺する彼女は、奥歯をきつく噛みしめていた。それがなにかを我慢している時の癖だって、わたしは知っていた。
「わかってる。わかってるわ」
わたしは、力なく理子に笑いかけた。理子はそれが許せなかったのか、とうとう泣き出して肩から手を離した。
「……なにもできない。私、なにもできないよ」
「わかってる。なにもしなくていいわ」
ジャージを直しながら、わたしは目を伏せて立ちあがった。まぶたの隙間から脇坂を見やる――真城は身体を乱したまま、こちらをにらんでいた。
「先生には、言っておくから」
わたしがそう呟くと、真城は視線を逸らした。理子が、脇坂が、なにごとか叫んでいる。わたしはそれを無視すると、ふらつく足で体育館を後にした。
別れの言葉は――なんだったかしら。職員室の戸を開けるまで、わたしはそればかりを考えていた。