男子なんて置物だ。先生なんて獣だ。
アタシの世界には女子しかいない。
可憐で儚く壊れやすい、アタシの最愛の同種たち。
なかでも、高梨理子は特別だった。
理子はいつだって輝いて見える。地味で流されやすくて、いつでも困難を背負い込んで生きている。そんな彼女が愛しかった。
長く伸ばした黒髪は彼女の真っ直ぐな性格を表すようで、顔を埋めると爽やかな香りがした。身体は少し固いけれど、柔らかいところは指がふやけるくらい熱かった。
なのにアタシは、やってしまった。つい悪戯心がすぎて、彼女の触れてはいけないところにまで手を伸ばしてしまった。
結果、あれから数日会話すらしていない。彼女は生徒会長を引き継ぐ時期に差し掛かっていたし、生徒会室は、ひとであふれ返っていた。そうなれば、アタシはただの不良学生だ。昼休みの予定なんてない。
まったく部活なんてやってる連中は、昼間っから練習だの集会だのつるんで、アタシみたいに迷うことなんてないんだろう。双子の妹、伊織はバスケットボールをやっていたけれど、アタシに言わせれば「楽でいいね」だ。こうして悩むことも、手持ち無沙汰になることもないんだから。
アタシにはなにもない。
性に乱れた、この指先だけ。
「――」
学校ですることは、もう当たり前になっていた。
別に聞かれたってかまわない。噂によればアタシは喫煙していることになっていて、先生は目を光らせていたけれど――目を光らせててこれかよ。笑ってしまう。穴場のトイレに駆け込めば、誰もアタシを見つけられないのだ。
寒気に震える背筋を便座に押しつけて、アタシはトイレの個室に水気を漂わせた。熱く深く濡れた指先はアタシの言うことなんてひとつも聞かず動物のように蠢く。アタシは孤独のなか、恍惚と快楽を彷徨わせた。
考える。理子のことを。彼女の柔らかな唇を。ゆるやかな吐息を。蕩けそうな熱を。甘く香しい匂いを。そして舌先がひりつくような、蜜の味を――考える。考える。考える。
「――は、ぁ」
しぜんと吐息が漏れた。流石に声はまずい。アタシは口元を押さえてしばらく大きなうねりに身を任せる。まったくだらしがない。アタシは昂ぶりが終わるまで、自らを罰するようによくないことを考えた。
どうして、理子はアタシから離れようとするのか――今まで誰も離れようとはしなかったのだ。有紀。鏡花。里美。伊織。今まで抱いた女の子たちは、アタシが飽きるまで離れようとはしなかった。なのに、理子にかぎって何故?
最悪な気分になってトイレから出ると、窓の外を見ている女子の隣をすり抜けた。まさか、本当に聞かれてやしないだろうな。一瞬、その女子が気になって視線を向けた。すると、ばっちり目が合った。
「聞いてた?」
思わず口を開いたアタシに、
「ええ、まあ」
女子は真っ赤な顔で答えた。