高校を卒業したら〝卒業〟しよう。
私は悠美と約束していた。
こんな関係、いつまでも続かないってわかっていたから。
けれど唇を合わせるたび、私の決意は揺らいだ。
「――、ん」
思わず声が漏れてしまっても、悠美は離してはくれなかった。
それどころか制服の内側に指をくねらせて、私の熱い熱い身体に触れる。
衣替えしたばかりの冬服に、汗が浮いてしまいそうだ。
「ちょっと、ここ学校」
私は焦って悠美をにらみつけた。
窓の外から聞こえる運動部のかけ声が、熱っぽい心を現実に引き戻す。
「残念、できると思ったのに」
悠美は笑って手をあげると、乱れた制服を直して吐息をついた。
私は座っていた椅子を軋ませ、どっと力を抜く。
「するわけないでしょ」
「理子は流されやすいから」
「うるさいな」
声をあげたものの、反論はできない。
確かに、私は流されやすい。だからこうして、生徒会室の一席を担っている。
未だに慣れない肩書きだ。この私が。生徒会室で女の子とキスをしている私が、生徒会長だなんて。
「ねぇ」
ひとり落ち込む私の顔を、悠美がじっと見つめていた。
その顔はまるで見捨てられた子犬みたいに切なげだ。いつもの話だと気づいた私は、彼女に冷めた視線を返した。
「やめない? 卒業」
「またその話。変わらないよ」
私は内心の揺らぎを隠して、目を伏せた。
「でも、別に卒業したって連絡とれるじゃん」
「嫌よ、遠距離なんて」
悠美と私は、既に進路を決めている。私は東京の大学に進学するために受験勉強に励んでいたし、悠美は家の都合で就職することが決まっていた。
「こっちが行けばいいでしょ。お金なら、働けば」
「そんな余裕、ないでしょ。続かないよ」
「けど」
「もう帰ろう。私も勉強あるし」
私は会話を打ち切ろうと立ちあがり、鞄を持った。悠美はまだ言い足りないとばかりに、行く手を阻もうとする。
「ちょっと。今日しつこいよ」
怒気をふくめて、私は悠美を見た。
先まで甘いキスをしていたというのに、これでは喧嘩のようだ。
私は彼女を押しのけて、生徒会室の扉を開こうとした。だって、いま心を乱されたら、本当に折れてしまいそうだったから。
「あのさ」
「なに? もう帰るよ、私」
顔をしかめて、背後を振り返る。
悠美の様子がおかしい。どうして、今日にかぎってこんなに――
「難しいんでしょ? 志望校」
心が凍った。
「噂になってるよ。模試のこと」
「なんで。そんなこと」
知ってるのよ。とは、言葉にならなかった。背後から抱きしめられて、声が詰まった。強引に奪われる唇から、熱い揺らぎは感じられなかった。
「理子が東京の学校に行きたいってわかってる。だけど」
「やめて」
「こっちにだって大学は」
「やめてっ!」
悠美を振りほどくと、私は生徒会室の扉を開け放つ。
あふれた涙を止めようがなくて、奥歯を固く噛んで飛び出した。
「――あ」
廊下脇で、窓を見ている女の子とすれ違う。
しまったな、聞かれていたかもしれない。私は涙目でその子をにらみつけた。
青色のタイ。一年生。見知らぬ生徒のことは、それ以上気にならなかった。それよりも悠美のことが気になった。
――どうして、追いかけてこないのよ。
私は制服の裾で涙を拭い、歯を食いしばった。