途中でフィアにしてあげたように僕の魔力水を注いであげた。

「ん──」

 で、でもなんで皆して飲むときにそんな顔をするんだろう? 頬も赤くなっているし、そういう効果がもしかしてあるとか?

「ありがとうね。なんか元気が出た気がする」

「そ、それなら良かったよ」

「スピィ~……」

 するとスイムも何かおねだりするように擦り寄ってきた。これはなんとなくわかったよ。僕はスイムにも水を与えてあげた。

「スピィ~♪」

 スイムが機嫌よく肩の上でプルプルと震えたよ。その後甘えるように寄ってきた。

 可愛い──だけど、今は急がないと……。

「おい! 向こうの通りに妙な畑ができているらしいぞ」

「なんであんな大きな通りに畑が……」

「今勇者が誰かと戦っているみたいだけどピンチだって──」

 そのとき、暴徒から逃げてきた人々の声が耳に届いた。勇者──もちろんガイたちのことだろう。

「ネロ!」

「うん! 急ごう!」

「スピィ!」

 そして僕たちは話にあった通りまでやってきた。そこにはあのライアーと一緒にいた鍬持ちの男がいた。確かガルって呼ばれていたはずだ。

 そして遠目に見える捕まったガイの姿。更にスイカに囲まれるセレナ。て、スイカ?

『あぁそうだ。スイカだ。もちろんただのスイカじゃねぇぜ? あれは言うならば爆弾スイカ。その名が示す通り獲物の近くで派手に爆発するスイカだ。面白いだろう?』

 疑問に思っているとガルの声が聞こえた。ば、爆弾スイカだって!? そういえばあのスイカ、眼があるしどうみても普通じゃない。事情は詳しくわからないけどセレナが危険なのは確かだ。

「ネロ早く助けないと!」

「スピィ~!」

 エクレアの言う通りだ。スイムも慌てている。だけど距離が結構ある。走っていっても間に合うとは思えない。

 このままじゃ……。どうするどうする。あのスイカを纏めて遠ざけることができたら。そう洗い流すように──そうか!

「閃いた! 水魔法・まもりたて&水魔法・鉄砲水波!」

 頭の中に浮かんだイメージを魔法にして放つ! 途端に水が激しく流れセレナを囲っていた爆弾スイカを押し流した。

 遠くで次々と水柱が上がるのが見えた。スイカが爆発したんだろう。一方でセレナは盾で守ったから流れずに済んだよ。そのまま僕たちは彼らに向けて駆け寄りながら、ガイに向けて言葉を紡ぐ。

「なんとか間に合ったね。ちょっとだけ荒っぽいことになったけど──無事かい? ガイ」

「ぐっ、うぅうう、ネロぉぉおお!」

 ガイが嗚咽混じりの声を上げた。涙まで流している。あのガイがこんな顔を見せるなんて──それだけ追い詰められていたってことなのか。

「──どういうことだ? お前らはライアーが狙っていたはずだ」

「悪いけどその仲間はもう倒したよ。だから覚悟を決めることだね!」

 不思議そうな顔を見せるガルにはっきりと言い放った。さぁここからは僕の戦いだ。

 とにかくまずは、ガルに捕まっているガイをまずなんとかする必要がある。

 ただ距離はあるし水の鞭で引き寄せるには心もとない気もする。

「ライアーを倒しただと? しかもあいつ水属性? それなのに何故戦える──」

 ガルは僕が水魔法なのに疑問を持っているようだ。黒い紋章持ちの間でも水属性は弱いという認識らしい。だけどそれならそれでチャンスだ。僕を侮っているならそれだけ隙も生まれやすい。

「水魔法・水槍!」

「なんだと!?

 射出した水の槍にガルが怯む。それでも避けたあたりやはり手強いけど、ガイから意識が逸れて手も放した。問題はここから──鞭よりも強力な物──。

「閃いた! 水魔法・水ノ鎖!」

 杖から水でできた鎖が発生。伸長しガイに巻き付いた。

「うぉ!」

 ギュンッと鎖に縛られたガイを引き寄せた。随分と驚いていたガイが僕の横に落ちる。

「痛ッ! テメェ! もう少し丁重にやりやがれ!」

「ご、ごめん。て、そんな余裕ないし!」

 ガイが歯をむき出しに怒鳴ってきた。確かに少々手荒になったけどこの状況だから許して欲しいよ。

「そうだ、セレナは!」

「大丈夫、と言うには怪我が酷いけど命に別状はないと思う」

 慌てたガイにエクレアが答えた。セレナの顔色は確かに悪い。だけど命が奪われるようなことにはならなかった。そこが救いだ。それに──。

「スイム。生命の水をお願い」

「スピィ!」

 スイムが体から瓶を出してそれをエクレアが受け取り、セレナに飲ませてあげていた。

 これでセレナの傷も治せるはず。

「あ、あれ、私?」

「良かった、意識も戻ったわね」

「スピィ!」

 セレナが目を開けたようだ。口調もしっかりしているしもう大丈夫だろう。

「──どうやらライアーを倒したというのもまんざら嘘でもなさそうだな」

 ガルが口を開いた。それに僕も答える。

「そうだよ。仲間がいないんだから諦めたら?」

 警戒心を込めた目でこっちを見てくるガル。鍬を肩に担いでいる。この男の力はまだよくわかっていないけど、あの不気味な野菜はこのガルが生み出したのか? この畑もそうだけど黒い紋章を持つ連中は奇妙な力を使うようだね。

「ハッハッハ。この俺が? 馬鹿言え。ライアーの使う力はどちらかと言えばからめ。その様子だと能力がバレてやられたってところか。あいつめ油断したな」

 油断、ね。正直言うと危険な相手だったよ。確かにフィアのおかげで能力の正体には気がつけたけど、それでもギリギリだったと思う。

「だが俺は違う。俺の力は純粋に強いのさ。さぁ生まれろ野菜たち!」

 ガルが叫ぶと畑がボコボコと盛り上がり、眼のある奇妙な野菜が次々と生えてきた。

「ネロ! こいつの扱う野菜は人を襲う。毒を持っているのもいる上効果も色々だ。きぃつけやがれ!」

 ガイが忠告してくれた。あのガイをここまで手こずらせたのだから油断できない能力なのはわかっている。

 それにしても──おそらくこの野菜のせいなんだろう、傷ついた人々が大量に倒れている。もちろん既に食べられたりしていて──。

 当然だけどこいつらをこれ以上野放しにはできない。

「皆にお願いがある。この畑の周辺から生き残っている人は離れさせて。できれば遺体もここから引き離して欲しい」

「あ?」

 僕がそう伝えるとガイが怪訝そうな声を上げた。意図を掴めないのかもしれない。

「ガイ、僕の予想だと条件さえ揃えばあいつはすぐに倒せる。ただそのためにここから皆引き上げて欲しいんだ」

「…………」

 ガイが黙って僕の話を聞いてくれていた。何かを考えてそうな空気を感じる。

「アッハッハ! この俺をすぐに倒せるだと? 随分と大きく出たな。寝言は寝てからほざけ! やれ! 野菜たち!」

 野菜が動き出した。あまり時間がない!

「みんなお願い!」

「わかった。ネロがこう言っているんだからきっと考えがあるのよ! あんたも動けるなら手伝いなさい!」

 エクレアがガイを促した。セレナも立ち上がりガイに向けて声を上げる。

「そうです。私も生き残っている人はできるだけ治療して、ここから離すようにします! だからガイも早く!」

「スピィ!」

「……チッ、まさかこの俺がテメェに指図されるとはな」

「ガイ……」

 伏し目がちにガイが言った。まさかガルにやられて自信をなくしているわけじゃないよね? そんなのはガイらしくない──そう考え、つい彼の名前を呟いてしまった。

「フンッ。俺はあいつに負けてお前に助けられた。それが現実だ。仕方ねぇから言う通りにしてやるよ!」

 だけど違った。いつもの口調に戻り、ガイもみんなと一緒に動き出したんだ。良かった、こういうときのガイは頼りになる。

 さて、僕は襲ってきた野菜を水魔法で対処していく。

「野菜は僕ができるだけ引き付ける!」

「チッ──行くか。それと──ありがとよ……」

 え? 今ガイがボソッと、でも確かに──はは、なんだろう。結構嬉しいかもね。

 さぁ僕もひと仕事頑張らないといけないね。

 ガイたちは周囲から人や遺体を離そうと頑張ってくれているし、僕はこの男に集中する。

「やれやれ随分と舐められたもんだ。お前みたいな水野郎に俺がやられると本気で思っているのか?」

 小馬鹿にしたようにガルが言った。こういった偏見には慣れっこだけど、相手がこっちを舐めてくれているなら今は助かる。

「君こそ僕が水だからって甘く見すぎだよ。水魔法・重水弾!」

 魔法を行使。圧縮された水弾がガルに向けて直進する。

「生えろ、かぶ!」

 ガルが声を張り上げると、奴の目の前の畑から巨大な蕪が姿を見せた。それが丁度壁のようになって僕の魔法を受け止め崩れていく。

「──こいつを一撃で破壊するかよ!」

 僕は蕪に魔法が防がれたことに驚きだったけど、ガルは一撃で蕪が破壊されたことに驚愕していた。

 あの蕪、それだけ防御面では優れていたということか。

「ならスイカだ! 木端微塵になれ!」

 ガルが叫ぶと今度は畑からボコボコっとスイカが飛び出してきた。爆弾スイカと言っていた奴か。

 でもこの数はまずい。盾だと防ぎきれない。そう、これまでもそうだけど盾だけだと防御が甘くなる。もっと全身を──。

「閃いた! 水魔法・一衣耐水!」

 魔法を行使すると水が変化し衣のように纏うことができた。スイカが爆発する。耳がキーンとするほどの轟音も水によって抑えられた。

 そして凄まじい爆発と衝撃だったけど──僕の衣は耐えきった!

「なん、だと? 何故だ! 何故貴様はまだ立っている!」

 無事だった僕を見てガルが叫んだ。水の力を侮っていたガルから見たら信じられないのだろう。

「これが僕の水の力だ」

「──ライアーがお前を片付けるべきと言っていた意味がわかったぜ。お前は厄介すぎる! 俺たちの常識さえも覆す危険な存在だ!」

 ガルの目つきが変わった。完全に僕を排除すべき人間と判断したらしい。でもそれはありがたい。 僕に集中してくれるならその分他のみんなが逃げる時間を稼げ──。

「と、言えばテメェは俺がお前しか相手しないと考えているな? あめぇんだよ! 野菜よ他の連中もやってしまえ!」

「しまった!」

 僕の思惑は完全に外れた。こいつは予想以上に周到だった。

 そしてガルが命じると畑の広範囲から野菜が出現し、逃げようとしているみんな、そして逃がそうと動いてくれているガイたちに襲いかかった──。

「武芸・らいげきつい!」

「うざってぇんだよ! 勇魔法・大地剣!」

「スピィ!」

 だけど野菜たちはエクレアの電撃やガイの魔法で排除されていった。スイムもあの燃える水で撃墜。その上でセレナが避難誘導を進めていた。

「どうだい? 戦えるのは僕だけじゃないよ」

 ガルは既に皆は戦えないと判断していたのかもしれない。だけど僕たちの必死さはお前よりも遙かに上なんだ。

「カカッ、だとしてもこれだけの野菜。あの二人だけでどこまで耐えられるかな?」

「僕だっている。水魔法──」

「させるかよ! 土轟発破」

 ガルが鍬を振り下ろすと地面が畑に変わり、それが爆発しながら直進してきた。何この技!

「くっ!」

 爆発に巻き込まれ僕も吹き飛んだ。水の衣も今ので破壊された。

「お前、野菜に戦わせるだけじゃなかったのか」

 正直驚いた。てっきり野菜を使った攻撃が主体だと思っていたからだ。

「誰がそんなことを言った。俺は畑を使った戦い方も心得ている。知っているか? 畑に使われる肥料には爆発する力も宿っているってな」

 正直知らない。だけどこいつはどうやら畑について熟知しているようだ。

「更に言えば今ので更に畑が広がった。ほーら!」

 ガルが種を大量にばら撒いた。すると規模が大きくなった畑から更に大量の野菜が生まれていく。

「まずい! 数が多すぎるわ!」

「畜生捌ききれねぇ!」

「スピィ~!」

「私だけじゃ全員の避難は──」

 後方からみんなの声が聞こえてきた。ガイやエクレア、そしてスイムが野菜の処理に追われていては、セレナだけじゃ運べない怪我人だって出てくる。

 僕はガルとこっちに迫る野菜で手一杯だ。駄目だ戦力が足りてない!

「ハッハッハ。そりゃそうだ。畑がここまで広がっちまえば、この俺の『凶作の開拓者』は無敵だ。残念だったな。どうあがいても貴様らはこの俺一人に敵わない──」

「こっちだ! お前ら今助けてやるぞ!」

 既に戦いに勝利したように強気な発言をするガルだったけど、割り込んだ声にギョッとした顔を見せた。

「冒険者を舐めるなよ!」

「何をしたらいいかしら? 指示をお願い!」

 それはまさに天の助けと言えた。どこかで話を聞いた冒険者が数多く助けに来てくれたんだ。

「お前ら──よく聞け! あそこにいるネロがこの場をなんとかすると言ってやがる! だがそのためには人払いが必要だ! 遺体も含めてとっととここから引き上げさせやがれ!」

 指示を求める冒険者たちの声を聞き、ガイが率先して命令を下していった。相変わらずの口調だけどこういうときには頼りになる。

「おいおい。助けに来たってのにあいつ偉そうだな」

「あれが勇者ガイって男だよ」

「あっちにいるのはネロじゃないかい?」

「水魔法でなんとかなるのかよ」

「馬鹿知らないの? あの子の水魔法すんごいんだから」

「とにかくだ──今は勇者ガイの言葉とネロを信じてやるぞお前ら!」

「「「「「「「「オオォオォオオオォオオォオォオオオオ!」」」」」」」」

 冒険者たちのときの声が鳴り響く。とても力強くて頼りになる声が──。

「どうやら形勢逆転のようだね」

「テメェ──」

 そして冒険者の協力もあって野菜の脅威から一般人は守られ、僕は野菜とガルの猛攻をなんとかしのいだ。

「どうやらこれで全員いなくなったようだね」

 そう。既に畑周辺に冒険者の姿はなかった。最後にガイが「仕方ねぇからここは譲ってやるよ!」と言い残して去っていったことで、残されたのは僕とガル、そして──。

「スピィ~」

「はは。スイムは残ってくれたんだね」

「スピッ!」

 僕の肩の上にスイムが乗っていた。エクレアからもスイムは責任持って守ってあげてねと言われてしまったよ。

「これで決着がつく……」

「状況わかって言っているのか? 俺にはテメェの頭がいかれたとしか思えないぞ」

 僕の周囲にはギョロッとした眼をした野菜が集まっていた。完全に僕を取り囲む形で逃げ場はない。

「まさか自分を犠牲に全員を逃がすのが目的だったのか? だとしたら無駄なことだ。他にも仲間はいるしな。それにお前を殺した後改めて片付けに行くだけだ」

「いや、そんなつもりはないよ。僕だって命は惜しい。それに好都合だ」

「言ってろ! 野菜共こいつを食らいつく──」

「水魔法──酸性雨!」

 ガルが野菜に命じる前に僕の魔法は完成した。こいつが広げた畑を倒すためにずっと温存してきた魔法──。

「なんだ? 馬鹿が雨ごとき、熱ッ! な、なんだこの雨は!」

「見ての通り強力な酸の雨さ。そして知っているかい? 強い酸は──植物を枯らせるんだ。それは結果的に土にもダメージを与える」

「グッ、く、くそ! お前、それで全員を、ぐ、ぐおぉおぉおおおああぁあああああ!」

 ガルが悲鳴を上げた。そして僕を囲っていた野菜たちもあっという間に枯れ果てていく。

「グゥウゥウ!」

 酸によって畑は壊滅しガルは顔を押さえながら呻き声を上げていた。鍬も手放しているね。

 全身が焼け爛れていて見る影もない。かなりの大ダメージを与えたのは確かだ。

 僕とスイムは無事だ。前もって水の衣を纏っておいたからね。

 それにしても手強い相手だった。ライアーといい強敵と連戦はきつかったけど──どちらにせよ、これで僕たちの勝利だ。

「ネロ! 終わったのね」

 エクレアがやってきて歓喜の声を上げた。すぐ後ろにはガイの姿もある。

「うん。畑も消え去ったよ」

「──そいつが生きていても消えるのか」

 僕が答えるとガイが傷ついたガルを見ながら呟いた。

 どうやらガイはこの男が死んだら畑が消えると思っていたようだけど、僕の酸性雨の効果なのか、それともガルが畑を維持できる状態ではないからなのか、既に畑はただの地面に戻っていた。

「で、ネロ、そいつどうするんだ?」

「え? どうするって?」

「チッ──」

 聞かれて返答に困る僕を見て、ガイが舌打ちし倒れているガルに近づいていった。

 その手には剣がしっかり握りしめられている。

「ガイ。どうするつもり?」

「首を刎ねる。こんな奴野放しにできねぇだろうが」

 そう言いながらガイが手に持った剣を振り上げた。僕は思わず声を上げる。

「ま、待って! そいつにもう戦う力はないよ!」

「──予想はしていたがやっぱりテメェは甘ちゃんだな」

 剣を振り上げたままガイが顔だけを向けた。苦虫を噛み潰したような顔つきで更に言葉を続ける。

「妙な力を持った連中だ。始末しておくにこしたことはねぇだろうが」

 ガイが言った。言っていることはわからなくもないし僕は甘い──そうかもしれないけど……。

「ガイ。その連中は処刑リストを持っていた。黒い紋章も問題だけど組織立って動いている可能性もあるんだ。それなら生きたままギルドに引き渡した方がいいと思うんだよ。情報も必要だし」

「──私はネロの考えに同意します。何故こうなったのか原因を突き止めるためにも生け捕りにした方がいいのでは?」

 セレナも戻ってきてくれたんだ。そしてガイを説得するように問いかけてくれた。

「…………クソが。おい! 何か縛る物あるか!」

 ガイが周囲の冒険者に呼びかけた。良かった、ガイが思いとどまってくれた。

 セレナが僕に同意してくれたのも大きいのかな。

 一緒に来ていた冒険者が縄を持ってやってきてそれで縛り始める。

 ガイの言うこともわかる。だけどこいつらの情報が必要になるかもしれないのも事実、いやそれも確かに言い訳かもしれないし甘いのかも、しれないけどね──。

「これでもう動けねぇだろう。言っておくがお前の言うことにも多少は! 少しは! なんとなく! 一理あるかもしれねぇと思っただけだからな! それにお前が甘いのは確かだ。その甘さが命取りになるってことも覚えとけコラッ!」

 詰め寄ってきたガイに激しい口調で諭されてしまったよ。凄く機嫌が悪そうにも見える。

「──ま。その甘さに俺は救われたのかもしれねぇけどな」

 あれ? 背中を見せたガイがまた何かボソッと呟いたような?

「何か言った?」

「い、言ってねぇよクソが!」

 結局怒られたよ……。何か頭をボリボリ掻いてブツブツ呟いているし。やっぱり僕にまだ言い足りないことがあるのかも。

「本当にガイは素直じゃありませんね」

「スピィ~」

「あはは。あなたたちも大変よね」

 ため息を吐くセレナにエクレアも苦笑いだった。そんなセレナはスイムを撫でてくれていた。スイムは癒やしだね。

「──実は一つ気になる点があるんだよね。ガルは仲間がまだいるようなこと言っていたんだ」

 ライアーが僕たちに倒されたことを知った上でのあの口ぶりだと、他にもまだいるってことだと思うんだけど……。

「そうね。それにまだ町で人が暴れている原因が掴めていないし──」

「た、大変だーーーー! マスターがギルドマスターが、ギャァアァアアア!」

 そのときだ、冒険者と思われる男性が叫びながらやってきて、直後バチッバチッ! という音と共に吹っ飛んでいった。

「フゥ、フゥ、フゥ、ウ、ウガアアアアアアァアアァアアア!」

 建物の陰から見覚えのある豪傑が姿を見せた。それはサンダース──でも明らかに様子がおかしい。

 以前から迫力があったけど、今の形相はどこか怪物じみている。

「ちょ、パパ! どうしたの!?

「駄目だ! 今のマスターは普通じゃない! 完全に乱心している!」

 やられた冒険者とは別の男たちが強張った顔で叫んだ。

 これってマスターも暴徒と同じ状態になったということ?

「マスターだけじゃねえ! 来るぞ! 正気を失った冒険者たちが!」

 更に別の誰かが忠告するとほぼ同時に、四方八方から血走った目をした冒険者がぞろぞろと姿を見せた。折角ガルを倒したばかりだというのに休む暇もなしだよ。

 この状況で一番厄介なのはやっぱりサンダースだと思う。

 だけど、どうしてサンダースがこんなことに──やはり連中の仲間が他にもいてこの暴徒化に一役かっているのだと思う。

「おいネロ。こいつら、いくら倒してもきりがねぇぞ!」

「うん。それに操られているとしたら下手なことはできない」

「……本当甘い奴だな。こいつら全員冒険者だ。こういったときの覚悟ぐらいはできているはずだぜぇ!」

 そう口にしつつガイが向かってきた冒険者に切りつけた。容赦ない、と言いたいところだけどしっかり急所を外したりと無力化程度に収めている。

 口は悪いけどこういうところはガイもしっかりしているんだよね。

「ネロ……もしかしてこれもあのガルという男の仲間が関係しているのですか?」

 セレナから質問が飛んだ。

「多分そうだと思う。そこのガルもだけど黒い紋章持ちなんだ。僕たちが最初に戦ったライアーという男もそうだった」

「黒い紋章……まさかそれで?」

「え? セレナ、何か気がついたの?」

「スピィ~?」

 セレナが何かを察したような真剣な目を見せる。

「そこのガルという男。生命力に黒い靄が掛かったような反応が見えるのです」

「生命力?」

「セレナは生命力を感知できるんだよ。範囲内の弱っている相手も見つけることができる、て」

「ウウォオォォオオォオオォオオオ!」

 サンダースがガイに殴りかかっていた。まずい援護しないと!

「水魔法・まもりたて!」

「うぉ!」

 盾をガイの前に出してなんとか攻撃を凌いだ。だけど電撃が弾けて盾が消え去った。前もそうだったけど水だと雷は防ぎきれない上、雷の増幅で電撃が弾ける。

 一応ダメージを防げてはいるけど対象から離すようにして発生させないと逆に危険だ。

「ネロ! ガイ! 私の生命感知なら残った敵も見つけられるかもしれません」

「うん。私もセレナと一緒に行って、残った仲間を見つけて倒してみせるよ! だからネロ──パパをお願い!」

 どうやらエクレアは、セレナと一緒にまだ残っているであろう奴らの仲間を探しに行くようだ。だからかサンダースのことはお願いされた。

「わかったよ。君のパパも暴徒化した冒険者もここで食い止めてみせる!」

「信じてるよ、ネロ!」

「ガイもお願いね!」

 そう言い残して二人がどこかにいるであろう敵を探しに向かった。

 そして僕も暴徒たちに対応するため水魔法・一衣耐水で守りを固める。

「チッ、んなこと一々言われなくてもわーってんだよ!」

「グォオオォオォオオオッ!」

 二人を見送りつつ叫ぶガイにサンダースの拳が放たれた。魔法が間に合わない! 雷を纏った拳を受けてガイが吹っ飛んだ。

「ガイ!」

「ぐっ! 一々俺を気にかけるんじゃねぇ! そっちはそっちで考えてろ!」

 良かった。どうやらガイは無事なようだ。攻撃を受ける寸前後ろに飛んでいた気がする。それで威力を殺したんだろうね。とはいえ相手はサンダースだけじゃない。多くの冒険者が暴徒化している。正気を保っている冒険者も抗ってくれているけど数が違いすぎだ。

 できるだけ纏めて無力化しないと。纏めて──ふと脳裏にこの街にある物が思い浮かんだ。

「閃いた! 水魔法・噴水!」

 魔法を行使すると地面から勢いよく水が噴出し範囲内の冒険者を纏めて吹き飛ばした。

「よし! これで結構減ったよ!」

「──意外とテメェも容赦ねぇな」

 ガイが目を細める。いやでも意識を奪う程度にとどめているから!

「ウガァアアアアアァアアァアア!」

 そこで再びサンダースの叫び声。ビリビリと空気が振動しているようだ。そして放たれた電撃の先に、スイム!

「スイム逃げて!」

「スピィイイィィイイ!?

 そ、そんな……スイムがまともにサンダースの攻撃を。そんな、そんな──。

「スピッ?」

「て、全然無事じゃねぇかあぁああ!」

 ガイが叫んだ。僕もスイムを確認してみるけどケロッとしている。え? 今何かあった? みたいな様子だ。

「良かった無事で……」

「スピィ~♪」

 スイムがピョンピョンっと戻ってきて僕の肩に乗った。本当に安心した。でも、どうして……いや、そういえばライアーと戦ってたときにもスイムは電撃に撃たれて平然としていた。

 まさかと思ったけどスイムには雷が通じない? でも一体どうして──。

 とにかく、スイムには雷が通じないようだ。そのおかげでサンダースが放った電撃を受けてもケロッとしていた。そしてそれには当然理由があるはずだ。前にライアーの電撃を受けても平気だったときはスイムが純粋だから嘘が通じなかったのかな? とも思っていた。ただ、それにしてはライアーの驚きようが謎だったわけだけどね。

 待てよ? 純粋──スイムはどこか他のスライムと違う。そもそも最初に出会ったときにも水と一緒に現れた。

 スイムの体は綺麗で透き通るような、そう、まるで一切汚れのない水のようでもあり──汚れない水。純粋な、み、ず?

「ネロあぶねぇ!」

 ガイの声が耳に届く。しまった、つい物思いに耽ってしまって周りが見えてなかった。サンダースが虎になって僕に襲いかかる。

 以前試験で見た技だ! 事前に魔法で防御力は上げているけど、今のサンダースは雷を纏っている。

 まともに喰らったら、水を纏っている今は逆にまずいし前みたいに反撃する余裕はない。どうする。いや、僕には一つの考えがあった。

「閃いた! 水魔法・純水ノ庇護!」

 僕が魔法を唱え効果が発生するのとサンダースの突撃がヒットするのはほぼ同時だった。

「本当に危なかったよ──」

「ガッ!?

 だけど僕は無傷だった。サンダースの驚く顔が目に飛び込んでくる。

「ネロ。お前一体何をした?」

 僕が無事だったことにガイも驚いているようだった。

「スイムのおかげだよ」

「スピ? スピィ~♪」

 肩のスイムを撫でてあげる。スイムが心地よさそうにしていた。そう、スイムのおかげ──。

「スイムは恐らく体内の多くが水、なんだと思う。だけどそれなら雷を受けたら本来無事では済まない。だけどスイムには雷が通じない。それで思ったんだ。もしかして汚れのない純粋な水、純水なら雷は通らないんじゃないかってね。それで今の魔法を閃くことができた」

 僕がそう答えるとガイが首を捻る。

「チッ、言っている意味がよくわかんねぇよ。大体水で戦えるのが常識外なんだからな」

「ハハッ、と!」

 ガイと話しているところでサンダースが再び攻撃してきた。雷は今の僕には通じないけど攻撃そのものが防げるわけじゃない。

 物理的なダメージも水の衣で防げるけど、こっちはあまりダメージを受けると破壊されてしまう。

 サンダースの攻撃は強烈だ。そこまで長くは持たないだろう。

「オラッ!」

 するとガイが背後からサンダースに近づき加勢してくれた。サンダースが加速回避し一旦距離を取る形になる。

「チッ、はえぇな……」

「あれもギルドマスターの武芸だよ。雷の力で加速しているんだ。でも今のうちだ。ガイ、君にも純水の魔法を──」

 僕がガイに杖を向けると手で杖をどけられた。一体どうして?

「うっせぇ、余計な真似すんな。大体テメェだってもうそこまで魔力残ってないだろうが」

「え?」

 厳しい目の中にどこか気遣っているような感情が垣間見えた、気がした。

 ガイの意外な発言で自然と疑問の声が漏れる。

「──話を聞いてればわかる。お前今日はずっと戦いっぱなしだろうが。しかも今の魔法は閃いたばかりだ。武芸も魔法も閃いた直後は消耗が激しい。いくらテメェの魔力が潤沢でも無限じゃねぇんだからな」

 ……気づかれていたんだ。確かに閃いたばかりだと、まだ扱いに慣れていないから魔力にしても体力にしても消耗が激しくなる。ある程度使いこんでいけば安定してくるんだけどね。

「でもほら。こうやって魔力水を飲めば」

「それはテメェ自身には効かねぇだろうが! 無駄に魔力使ってんじゃねぇ!」

 平気だってアピールしてみたけど、逆に怒られたよ……ガイもそこは忘れてなかったか~。

「とにかくだ。セレナを信じて今はあいつを足止めするぞ!」

「──うん。そうだね! それなら水魔法・水ノ鎖!」

 僕は魔法で水の鎖を発生させサンダースの動きを封じた。これで少しでも足止めできれば──後はセレナとエクレア次第だね。信じているからね!



「セレナ。どう? わかりそう?」

「感知してみます。範囲内にいてくれたらいいのですが──」

 エクレアとセレナは、どこかにいるであろう黒い紋章持ちの仲間を探していた。セレナは生命力を感知することで不穏な生命力を知ることができる。