
ライアーを倒した後は当然拘束した。ロープは近くから見つけてきた。
ライアーは信じさせた嘘を本当にするという力があるので、口に猿轡を噛ませたよ。
「後は一応荷物もチェックしておかないと──」
ライアーの服や袋を確認する。袋は見た目よりも多くの物が入る魔導具だった。
戦っているときに見せてきた魔石っぽいものや玉があったけど、他に気になるものとして砕けた人形が一つあった。
「これって身代わり人形じゃ……」
「身代わり人形?」
フィアの呟きが気になった。僕は初めて聞いた代物だったからだ。
「ダンジョンでたまに手に入る人形で、持っていると使用者がやられそうになったときに、どんな攻撃でも一度だけ身代わりに受けてくれるのよ。その代わり役目を終えたら見ての通り砕けるんだけどね」
「あ、そうか。もしかしたら僕が重水弾を当てたとき──」
フィアのおかげで気がつけた。正直あの魔法がどうして通じなかったのか疑問に思っていたんだけどこれで合点がいったよ。
「やっぱり本物の道具も混ぜていたんだね。抜け目ない相手だったよ」
「スピィ~……」
「そういえばスイムも危なかったよね」
エクレアがスイムを撫でながら言った。確かにスイムはライアーの電撃を受けている。
実はあれも不思議な点の一つだ。単純にスイムが純粋で相手の嘘に騙されないから通じなかったのかなと思ったけど、ライアーはスイムに電撃が通じなかったことに随分と驚いていた。
考えてみると理解はできる。ライアーの言っていた攻撃が通じないといった嘘はスイムには通用しない。言葉だけの説明でしかなかったからだ。
だけどライアーが見せた電撃は一見すると本物だった。それはスイムだって理解できたはずでそれならスイムにも影響が出てもおかしくなかった。
だからライアーは驚いていたんだろうね。もっともただの憶測だけど。
他には何かあるかな? と袋の中を弄ってみる。この手の袋は通常持っている人間が出したいものを念じるだけで出せるんだけど、中身がわからない場合は適当に漁るしかない。
「あれ? これって?」
「紙束?」
「スピィ~?」
そう、袋からは何かが記された紙の束が出てきた。人相書きと他にも説明書きがいくつか。これって──。
「処刑リスト……」
フィアが細い声で呟いた。緊張感の感じられる声だった。確かに上に処刑リストと書かれている。これはつまり彼らがこのリストの人物を処刑するためにやってきたことを意味する。
「ちょ、ちょっと待って。これって! パパじゃない!」
「それだけじゃないよ。信じられないけどエクレアの名前もある」
「スピィ!」
紙を一枚一枚捲っていくとサンダースとエクレアのことが記された紙もあった。エクレアに関しては情報がなかったのか人相書きはなかったけどサンダースの娘という情報が書かれていた。
「…………」
そんな中、フィアが三枚の紙に真剣な目を向けていた。
「どうしたの?」
「これ──」
フィアが見せてくれた紙にはガイとセレナ、そしてフィアの情報が記載されていた。つまり──。
「勇者パーティーが狙われている!」
「うん…………まずいよ。きっと今頃ガイも……」
僕が声を上げたタイミングでフィアが不安そうな顔を見せた。仲間が危ないんだから当然だね。
「それなら急いで探さないと!」
「え?」
僕がそう伝えるとフィアが目を点にさせた。
「探してくれるの?」
「当たり前じゃないか。ガイとは元々パーティーを組んでたんだし」
「スピィ~」
フィアの問いかけの意味はちょっとわからなかった。ガイやセレナが危険かもしれないんだしそれならぼやぼやしてられない。
「……ネロはガイのこと恨んだりしてないの?」
「へ? なんで?」
まさかそんなこと聞かれると思ってなくてびっくりしたよ。
「だって追放したし」
「それは、仕方ないよ。当時の僕は確かに戦いの役には立たなかったしね。だからってそんなことで恨んだりしないよ」
正直な気持ちだ。ガイたちを恨んだことなんて僕にはないから意外な話だったりする。
「フフッ、そうだよ。ネロってこういう男なの。ま、だからこそ私もパーティーを組みたいと思ったんだけどね」
「スピィ~♪」
エクレアとスイムがそう言って僕を評価してくれた。なんだかこそばゆいな~──。
「──私はここに残るわ」
リストも見つけガイを助けに行こうという話になったところで、フィアがそんなことを言った。
「私、魔力がだいぶ減っててね。それにこのライアーって奴を見張っとく必要があるでしょう?」
フィアが笑いながら言う。確かに一応縛ってはいるし猿轡も噛ませた。武器や道具類も奪ったから打てる手はないだろうけど、それでも黒い紋章という不気味な力の使い手だ。
誰も見張りがいない状態にして何かしらの手で逃げ出さないとも限らない。
「──それなら私も残った方が」
「いえ、エクレア。あなたは行って。だってネロの水を今一番活かせるのはあなただから」
フィアがエクレアの手を取ってから微笑んだ。
「フィア……」
「うん。それにネロも早く行ってあげて。なんとなくだけど今ガイに必要なのはあなたな気がする」
「……わかった。でも──うん。フィア口を開けて」
「こう?」
「水魔法・魔力給水──」
フィアの口に手を持っていき魔力の込められた水を直接喉に流し込んだ。コクンコクンっとフィアの喉が鳴る。
「ん、んぁ、美味、しい」
「ちょ、フィア何その顔ぉ!」
エクレアが拳を上下に振って叫んだ。えっと。なんかフィアの表情も恍惚としてるっぽいというか、いやいや何変な想像しているんだ僕!
「ほ、本当は瓶に入れるのがいいんだろうけど今は道具がないからごめんね」
「ううん。この方が、いい」
フィアが首を振って答えたけど、なんで?
「え?」
思わず聞き返すような声が漏れた。目の前のフィアの顔がみるみる赤くなっていく。
「あ、いや! ありがとう! おかげで魔力が回復したわ!」
良かった、フィアも少し元気になったようだ。それで体温が上がって赤くなったのかな。
「これなら大丈夫よ。だからもう行って」
「わかった。フィアも気をつけて!」
「こっちは任せてね!」
そして僕たちはガイを探すためにその場を離れた。
「──ね、ネロ。あのね。私も魔力がた、りないかな、て」
すると走りながらエクレアが僕にそんなことを言ってきた。
そっか、エクレアもさっきの戦いで結構武芸使ったもんね。エクレアは雷を発生させるから武芸でも魔力が減るようだし。
「わかった。なら口を開けて」
「う、うん──」