「ふふん。わかればよろしい。ネロはね、本当に凄いんだから。もっと自信持っていいんだからね」
僕が凄い、か──水属性だから、これまでは諦めていたところもあった。それは事実。でも、水の理を知って賢者の紋章を授かって、僕の魔法は変われた。
だから、きっともっと自信を持っていいんだね。もちろん自惚れは禁物だけど。
自分の両手を見ながら考える。水の紋章と賢者の紋章。この二つのおかげで僕は救われた。
「でも、雷が水を通すってよくわかったね」
「うん。前に沼で武芸を使ったときにピンっと来たんだ──あれ?」
エクレアが説明してくれるけど、途中で目をパチクリさせて僕の右手の甲をじっと見てきた。
「どうかした?」
「ちょっと見せて!」
「え?」
エクレアが僕の手を取って食い入るように手の甲を見ている。う、なんか照れる。
「やっぱり! 視えるよネロ! 君の言ってた紋章ってこれだよね!」
「え?」
嘘、エクレアにも僕の賢者の紋章が視え、た?
「エクレアにもこの紋章視えるの!?」
「うん! 視える! バッチリ視えるよ!」
思わず僕はエクレアの手を取って飛び跳ねた。エクレアも一緒になってぴょんぴょんしている。
「あ、ご、ごめん!」
それに気がついてパッと手を放しちゃった。ヤバい、嬉しくなって露骨に接触しちゃったよ! サンダースの形相が思い浮かぶ。
「なんで謝るの? 嬉しいならもっと喜ぶべきだよ!」
エクレアがムキになった感じに声を張り上げた。この子は本当に裏表がないなぁ。そこが凄く好感持てるよ。
「スイムもそう思うよねぇ?」
「スピィ~♪」
エクレアがスイムを抱きしめる。なんか凄く埋もれている……いやだからそういうとこだぞ僕!
「はは、でも紋章が視えたのはびっくりだね」
「うん。でもどうしてかな?」
エクレアが不思議そうに小首を傾げた。あぁ~確かに何か理由があるはず。
確か賢者の紋章は、賢い人に視えるとかそんな言葉が頭を過ぎったんだけど……。
「もしかしたらさっきの雷と水の関係かも。エクレアがそれに気がついて、僕の魔法で実際に効果を確かめたから──それで視えるようになったのかも」
あくまで憶測だけど思ったことを口にした。
「え? そうなの?」
エクレアが不思議そうに聞いてきた。
「うん。恐らくそれでエクレアも水の理に触れた、とかかなぁ?」
更に考えを話す。中々断言はできないけどね。
「でも水が雷を通すなんて、あ──」
ふと思い出す。サンダースと試合したときのことを。
「どうしたのネロ? 顔青いよ?」
「いや、君のお父さんと試合したとき、水の盾で攻撃を守ったんだけど一撃で消えちゃったんだ。今思えば水が雷を通すからで──」
水の盾が僕から離れていたからまだいいけど、もし僕と接触していたらと思うと、背筋が凍りつく思いがした。これは僕も気をつけないといけないね。エクレアが仲間で良かった。
「そういうことね。確かに私もネロを巻き込まないように気をつけないとね」
そうだね。そこは僕も意識しておかないと。攻撃面では、僕の水でエクレアの雷がパワーアップするわけでそこは大事なところだけどね。
「じゃあ、折角だからもっと連携を高めていこうよ!」
「うん──そうだね!」
「スピィ!」
そして僕たちはダンジョン攻略に専念した。二層を終え三層も攻略できた。それほど規模は大きくないしうまく行けば今日中に攻略できるかも。
この間に魔物とも出くわしたけどエクレアと協力して倒した。牛系の魔物は肉が美味しいから途中で遅めの昼食を取ったよ。
何個か宝箱も見つけた。中身は宝飾品や金貨だ。どれも換金用だね。
「いよいよ第四層だね。最初の攻略だし多分次の層でボス戦だよね」
ダンジョンの多くは五層区切りだ。だからエクレアも次に期待しているんだと思う。
ボスを倒せば更に良い宝にも期待できるしね。
「「「「グルルゥ──」」」」
流石に四層ともなると敵も手強くなってくる。今対峙しているのはコボルト。二本足で歩く犬の頭を持つ魔物だ。ラットソルジャーみたいに武器や鎧を装備しているけど質はこっちの方がいい。盾も持っていて動きもどこかしっかりしている。
「はぁああぁあああ!」
とはいえ流石エクレアは強い。コボルトが盾で防ごうとするけど鉄槌で殴られて盾が破壊された上、電撃を喰らってしまう。おまけに前もって水を掛けておいたからダメージ大だ。
「水魔法・水ノ鉄槌!」
僕も負けじと魔法でコボルトに攻撃。こっちは水の槌でコボルトを叩き潰した。
「やったねネロ!」
「うん」
僕たちは手を上げて叩きあった。パンっと心地よい音が広がる。
「スピィ~♪」
「ありがとうスイム」
コボルトは銅貨や銀貨を所持していた。これらは今はそのままお金として使うことはない。金貨もそうだけど換金してしまうのが当たり前になっているね。
「スイムってば本当にいい子いい子」
「スピッ!」
エクレアが愛でてあげている。スイムも嬉しそうでエクレアにもすっかり心を開いているね。
「ここも結構歩き回ったね」
結構広い階層とはいえかなり歩いたし、そろそろ次の階層に下りる道が出てくると思うけど。エクレアも気分的には僕と同じなようだよ。
「うん。そろそろ五層に下りられると思うんだけど──」
「た、助けてくれーーーー!」
そのとき助けを呼ぶ声が聞こえてきた。これって誰か他の冒険者だったり?
このぐらいの層なら例えばダンジョンで夜を明かした冒険者がいたとしてもおかしくはない。
悲鳴の聞こえた方に向かうと、ちょっとした広い空間に三人の冒険者がいた。
そして彼らが赤い毛をした熊と相対している。
「嘘、あれって魔獣レッドベア?」
その光景を見ながらエクレアが呟いた。魔獣、そんなのがこの迷宮に?
「そんな、魔獣なんてこの規模のダンジョンに出てくることないはずなんだけど──」
エクレアから聞いて不可解といった感情が言葉になって漏れた。
レッドベアは知らない魔獣だけど、エクレアの真剣な目に嘘はない。
「私も初めて見るけど、パパから聞いたことあるの。赤毛の熊型で赤い物を見ると興奮して手がつけられなくなる危険な魔獣だって」
そうか──確かにギルドマスターなら僕たちなんかよりずっと魔物や魔獣に詳しいだろう。エクレアがあの魔獣を知っていた理由がわかったよ。
「お、おいお前たち同業者だろう? た、助けてくれよ!」
「怪我した仲間を見て、こいつすっかり興奮しているんだ!」
見ると一人、頭から血を流して倒れていた。出血を見てレッドベアが興奮したってことか。
「とにかく放ってはおけないよねエクレア!」
「…………」
エクレアに呼びかけた。だけど、襲われている冒険者とレッドベアを見るだけでエクレアは動こうとしない。
「エクレアどうしたの?」
「え? あ、ごめん。そのなんか違和感が──」
「うわぁああぁあ! こっちくるな! ひぃ、早く手を貸してくれ!」
エクレアどうしたのかな? もしかして相手が魔獣だから緊張しているのかも──でもそうこうしているうちに襲われている三人の冒険者から悲鳴があがる。
「わかった、まず僕が行くよ!」
「スピィ~!」
「あ、待ってネロ!」
エクレアの止める声が聞こえたけど、大丈夫。エクレアの不安を払拭するようレッドベアに向けて魔法を行使する。
「水魔法・水飛沫!」
「ガッ!」
水を浴びてレッドベアが怯んだ! 冒険者たちの間に割って入り魔獣と睨み合いになる。
「エクレア! 水は掛けたよ。これで君の技も通じやすくなるはず!」
「う、うん。わかった!」
どうやらエクレアも迷いを吹っ切れたようだね。
「はぁああぁああ!」
エクレアが飛び込んできて雷を纏わせた鉄槌でレッドベアを殴りつけた。
「グォオォッォォオオ!」
レッドベアが叫び声を上げ傾倒した。よし、魔獣にもしっかりエクレアの攻撃は効いている! これなら──。
「スピィ!」
「チッ、この糞スライムが!」
「え?」
スイムの声が聞こえて、かと思えば僕の肩からスイムがずり落ちた。そしてさっきまで倒れていたはずの冒険者がナイフでスイムを刺していた。これってスイムが僕を庇って──。
「おい! 何失敗してんだ!」
「スイム!」
連中が声を張り上げるけど、僕にはスイムの方が大事だ! てかなんでこいつらこんな真似を──。
「スピッ!」
だけど、スイムは元気そうに鳴いた。よく見ると冒険者のナイフを受けた箇所は既に塞がっている。
スイムの体はこの程度のナイフじゃ傷つかないんだ。よ、良かったぁ。
「ネロ! 何があったの? これどういうことよ!」
エクレアがこっちを見て叫ぶ。彼女もこいつらが僕たちを狙ってきたことに気がついたんだ。
「おい、あっちの女は厄介だぞ!」
「大丈夫だ。おいレッド! これを見ろ!」
男の一人がレッドと呼んだ魔獣に向けて赤い玉を投げつけた。いやそもそもなんでこいつらあの魔獣の名前を? それってつまり──。
「魔獣もグルだったのか!」
「今さら気がついたのかよ、馬鹿が」
「グォォォォオォォォォォオオオ!」
僕が奴らに向けて声を張り上げると同時にレッドベアが雄叫びを上げた。
見るとレッドベアの瞳が真っ赤に染まり体も一回りほど大きくなった。まさかさっきの赤い玉で?
「はは、これでレッドは三倍強くなった。あの雷女でも今のレッドには勝てやしねぇよ。そしてテメェもここで死ね!」
こいつら──最初から僕たちの命が狙いだったのか。
いや、そういえばエクレアが怪訝そうにしていた。今思えばレッドベアの様子に違和感を覚えていたんだろう。
今思えば怪我をした冒険者がいる状態で魔獣を相手にしながら僕たちが来るまで無事だったのはおかしい──こんな単純なことに気がつけなかったなんて僕は馬鹿だ!
だけど、失敗を引きずっても仕方ない。今はこの連中をなんとかしないと──。
「はぁ。本当こんなの極一部だって思いたいのに。ねぇ確認だけど君たち冒険者なんだよね?」
「──答える必要あるか?」
僕が問うと、逆に聞き返された。これって、もしかして冒険者じゃない?
「お前は余計なことなんて知る必要ないんだぜ。どうせここで死ぬんだからな!」
「ま、あっちの女は持つようなら愉しませてもらうがな」
こいつら──チラッとエクレアを見てみた。強化したレッドベアは楽な相手ではなさそうだけど、気を引き締めたのかエクレアは上手く立ち回っている。
それなら僕はまずこいつらをなんとかしよう。どうやら僕が水属性だからって侮っているようだし。
「こいつを倒すだけで一人一〇〇万だっていうんだからちょろいぜ。死ね!」
一〇〇万? 一体なんのことだろう? 疑問に思っていると長柄の斧を持った男が攻撃を仕掛けてくる。他の二人が持っているのはナイフと鞭だ。
「水魔法・
目の前に盾が浮かび男の一撃を防ぎきった。
「な、なんだこりゃ! こんなただの水に何で俺の武器が!」
男が驚いているけど水の理を知らなかったのが仇となったね。
「水魔法・水鉄砲!」
「ガッ!」
至近距離から行使したことで指から発射された水弾が纏めて男の腹に命中した。
鎧が砕け男がゴムボールみたいに飛んでいく。この魔法近接だと侮れない威力だ。
「な、なんだこいつ! ただ水が使えるだけの雑魚じゃなかったのかよ!」
「し、知るかよ。とにかく二人でやるぞ!」
一人が鞭を振り回し、もう一人がナイフをチラつかせながら動き回る。
でもなんだろう? 鞭使いの方はあまり怖くない。動きも拙いし──もしかして紋章に適した武器じゃない? 可能性はあるね。鞭使いは魔獣を利用していた。だとしたらレアではあるけど獣使いの紋章持ちの可能性がある。話に聞いたことがあるだけで、見たことはないから手の甲にある紋章がそうとは断言できないけどね。
ただ、その可能性は高いと思う。だとしたら鞭を使うにしてもそこまで恐れることはない。どうやらあのレッドベアを使役するのがやっとみたいだから他に魔獣がいる心配はなさそうだし。
「どこ見てやがる!」
「スピッ!」
ナイフ使いが迫りスイムが注意を呼びかけてきた。こっちは間違いなく短剣の紋章持ちだろう。
「武芸・三方投げ!」
ナイフ使いが同時に三本投げつけてきた。正面が一本、残り二本は斜めに広がるような軌道。
「水魔法・水ノ鞭」
「な!?」
水で鞭を顕現させナイフを全て搦め捕った。更に増やした鞭でナイフ使いを吹っ飛ばす。これでまず一人を無力化した。残ったのは鞭使い。だけどこいつは魔獣を扱うのがメインのはず。それなら本人は大して強くないはずだ。
「今、お前俺が弱いと思ったな?」
鞭使いから問われる。まさに今僕が思っていたことだ。
「だとしたら大きな間違いだぜ。俺にはこれがある!」
鞭使いが腕輪を取り出して装着した。腕輪には宝石が嵌まっているけどこれは──。
「スキル発動! 炎の鞭!」
「え?」
突如鞭から炎が噴出した。しかもスキル──まさか!
「その腕輪に嵌まっているのはスキルジュエル!?」
「はは。よくわかったな」
鞭使いが笑って答えた。スキルジュエル──ダンジョンでのみ手に入るとされている希少な宝石だ。
スキルジュエルはミスリルなどの特殊な素材で作成された腕輪に嵌めることでスキルと呼ばれる特殊な効果が発動できるとされる。
確かスキルの効果は宝石の種類で変わるはず。効果が一番大きいのはSランクのダイヤモンド──あいつの腕輪に嵌まっているのは見たところサファイヤ。確かCランクだったはず。
とはいえ侮れない。あのジュエルのスキルは炎の鞭? あいつがそう叫んだだけだから実際そうかはわからないけど、確かに鞭がメラメラと燃えている。
「行くぜ!」
鞭使いが鞭を振り回す。炎が追加されただけで厄介に思える。
「ははは、ただ燃えただけだと思うなよ!」
「くっ!」
「スピィ!」
スイムも怯えている。鞭を振るうと鞭から炎が広がる仕組みだ。その分間合いが広くなっている。
ただでさえリーチの長い鞭でこれは厄介──僕が水でなければね!
「水魔法・放水!」
「なッ、何ぃッ!」
魔法で水を放出し鞭に当てた。みるみるうちに火力が落ちていくのがわかる。
「残念だったね。水は火に強いんだ」
「ば、馬鹿なぁあぁあぁあああッ!?」
男が叫んだ。仰天しすぎて顔が崩れたようになっている。
「馬鹿な! 火より水が強いだと! そんなはずあるわけないだろうが!」
鞭使いが更に叫ぶ。瞳が揺れてかなり動揺しているな。
水は火を消せる。それ自体は常識的な話だ。だったら水は火に強いだろうと思うけど戦いとなると話は別となる。それはこれまでの経験で水魔法は戦闘には使えないという常識が根付いているからだ。だから戦闘で扱うような火が水に負けるなんて考えもしない。
だけど今の僕は違う。この水魔法で戦闘もそれなりにこなしてきた。今の力なら断言できる。そう──。
「水は火に強い! 水の鉄槌!」
「な、ぐわぁああああぁああ!」
水で生み出した槌に潰されて鞭使いも戦闘不能となった。
「これで三人とも無力化した! エクレア!」
「武芸・
「ウガァアアァアァアアアァアアッ!?」
エクレアの状況が気になって見てみるとちょうどレッドベアが倒されたところだった。
こ、これは杞憂だったみたいだね。
「ふぅ。何だか急に動きが鈍くなって助かったぁ。あ、そっちも片付いたんだ。やっぱりネロの魔法って凄いねぇ」
エクレアが額を拭いながら戻ってきた。いや、魔獣を単身で倒せるエクレアが凄すぎる気も──ただ、今言っていたこと。動きが鈍く──そう考えたら……。
「やっぱりこいつ獣使いの紋章持ちだったのかも」
「獣使い? あ、それで!」
エクレアも得心がいったようだよ。獣使いは使役している相手を強化できる。だからあの男の意識が途切れて強化が解け弱体化したんだろうね。
「途中までは手強かったしそう考えたらこの勝利はネロのおかげだね」
「スピッ!」
エクレアとスイムが僕を称えてくれた。なんとも照れくさい。
「でも、今の技なら強化状態でも倒せたかも」
「そんなことないよ。あの技は威力が高いけど最初に溜めが必要なの。レッドベアの攻めは強烈だし中々武芸にシフトできなかったんだから」
なるほどね。僕があの鞭男を倒したことで動きが鈍り溜めを作れたわけだね。
「とにかく勝利できて良かったよ。でもこいつらなんだったんだろう?」
「そうよね。何者かしら? それに冒険者がこんな真似しているなんてちょっとショックね」
「スピィ~……」
エクレアが眉を顰めて言った。スイムも残念そうにしている。
「そこなんだけど、この連中もしかしたら冒険者じゃないのかも」
「そうなの? だとしたら、あ、盗賊とか?」
エクレアの意見に頷く。可能性としてはありえる。盗賊にはもちろんダンジョン探索の許可なんて与えられないけど、犯罪集団がそんなの気にするわけもなく勝手に入ることも少なくないからね。
「だけど──なんでわざわざあんな真似したのかが謎なんだよね」
助けを呼ぶ振りをしたあたり他の冒険者をわざわざ呼び寄せていたってことになる。
──これってまさか僕たちを狙って? いや、でもなんのために──そういえばこれで一〇〇万手に入るみたいなことを言っていたっけ。
ということはまさかエクレアを?
彼女はギルドマスターの娘だし何か企みがあって狙った可能性がある。
でも、なんだろう? やっぱり引っかかるんだけど──。
「とにかく今はこの連中だよね。どうしよう?」
「そうね、縛った後、ギルドへの報告用に持ち物は回収して放置しておくのが一番ね」
「え? でもそれだと魔物に狙われるかも」
「だとしても仕方ないわよ。わざわざ連れて歩くわけにもいかないし、こっちは命を狙われたんだしね。ダンジョンでそんな行為を働くぐらいなんだから覚悟はできているでしょう」
なるほど──エクレアはあのサンダースの娘だけあってそのあたりの考えは合理的だね。僕も見習わないといけないかな。
「私ロープ持ってきているからさっさと縛ってしまおうよ」
「その必要はありませんよ」
「え?」
奥の通路から声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だった。直後ヒュンヒュンという音が聞こえてきて何かが横切ったかと思えば──僕たちを襲った三人の首が飛んだ。
「誰ッ!?」
「スピィ!」
エクレアとスイムが叫ぶ。コツコツと足音を響かせて一人の男が姿を見せた。
この顔、僕は覚えている。執事服を身に纏い冷たい目をした──アクシス家に仕える執事の一人……。
「ハイルトン──なんでここに?」
「フフッ、覚えていてくれましたか。何、大したことではない。無能な塵を処分しに来たまでですよ──」
僕を? どうしてこの男が……。