「フルールさん。せっかくだから依頼を受けたいと思ってるんだ」

 襲ってきた人たちの話も終わったし、僕は冒険者として改めて動き出そうと考えた。もうパーティーに属してないからソロになるけどね。だけど、スイムも一緒にいてくれるから寂しくはないかも。

「そ、そう、依頼。依頼ね。あ、だったらいい薬草採取の依頼があるわよ!」

 依頼について相談すると、フルールが薬草採取を勧めてきた。でも──。

「薬草採取って、GかFランクの依頼……」

 薬草採取は基本的な依頼の一つだ。GランクやFランクになりたての冒険者がこなす代表とも言える仕事。さっき魔法の検証をした森あたりが採取スポットで若い新人冒険者も多かった。ただ僕は一応Eランク冒険者だ──ガイたちはもうDランクだったけどね。

 とにかく、Eランクである以上、それなりの依頼は受けたい。別に驕りではないと思う。薬草採取は本当に散々やったし。

「確かに今はソロになったけど、ランク相応の依頼はこなしてみせます」

 僕は今の気持ちをフルールにぶつけてみた。だけど彼女が難色を示す。

「あのね? これまでは他に守ってくれる仲間がいたから、例えばダンジョン攻略なんかも行けたと思う。でもネロくん一人じゃそうもいかないよね?」

 フルールはまるで子どもに言い聞かせるような口調で僕に聞いてきた。だけどここでただ頷くわけにもいかない。

「いえ。さっきも言いましたが僕も魔法で戦えるんです」

「だからそれは──」

 説明しても全く納得してくれない。うぅ、駄目だ。このままじゃ信用されない。信用、そうだ!

「見てくださいフルールさん! 実は僕右手にもう一つ紋章が浮かんだんです。ほらほら!」

 フルールに右手の甲を向けて訴えた。そうだ最初からこうしておけば!

「え? どこが?」

「は、い?」

 だけどフルールが疑問混じりの顔を見せた。

 あれ? ま、まさか紋章が消えた!?

 慌てて僕は右手の甲を見たけど確かに紋章があった。

「いや、これだよフルールさん。これこれ」

 右手を翳してフルールにアピールすると、どこか生暖かい物を見るような目を向けられてしまった。

「そう──少し遅いけどそういう年頃なんだね。わかるよ、何かこう自分には特別な力が宿っていて、それが解放されたような感覚に陥る。そういうのって誰でも一度は通る道だもんね」

「えぇええぇえ!」

 何かもの凄い勘違いされてるよ。思春期特有の思い込みとかそんな風に思わてるよコレ! うぅ、でもどうして……。

 ん? あれ? 何か閃きが──。

「えっと。賢者の証は、賢き者以外には視え、ない?」

「あ、ひっど~い! 私が利口じゃないってこと~?」

 あ、しまった! なんとなく頭に流れてきたような情報をつい口にしてしまったよ!

「いや、今のは違うんです! そうじゃなくて」

「ふふ、冗談よ。でもそういう設定はわからない人から引かれる可能性があるから注意してね」

 お茶目な笑みを浮かべつつ、フルールが言った。う~ん、どっちにしろ信じてはもらえてないね。でも仕方ないか。この条件で、どうしてフルールに視えないのかわからないけどね。僕なんかよりずっと賢いと思うんだけど。

「紋章のことはもういいや──とりあえずボードを見てみるよ」

 折角フルールが勧めてくれた依頼だけど、やっぱり僕はもう少し上の仕事をしてみたい。だからボードから選んでみようと思う。

「そう……ネロくんが他の依頼を受けると言うなら止める権利は私にはないけど、しっかり考えて選んでね。冒険者に怪我はつきものとはいうけど、無茶していいことなんてないんだからね!」

「う、うん」

 心配してくれるのは嬉しいけど、フルールももう少し信用してくれると嬉しいんだけどね。僕はボードの前に立った。ギルドの壁に備わったボード、ここに沢山の依頼書が貼られている。冒険者は基本ここから依頼を選んで仕事を受ける。ただ、依頼書は朝のうちに大体なくなってしまう。だからさっきみたいに受付嬢に直接聞く場合もある。まだボードに貼られていない、新しい依頼が入ってきてることもあるからね。

 さて、見てみたけどやっぱりほとんど依頼書が残ってないね。あ、でも──。


依頼内容

・魔草採取

推奨ランク E以上

詳細 北東のブルーフォレストに生えるブルーローズを二五〇〇本採取して欲しい。

報酬 五〇万マリン


 おお。凄くいい依頼があるね。ちょっと数が多いけど報酬は悪くない。一見すると薬草採取と変わらないっぽくもあるけど、報酬が段違いだから薬草採取よりも難易度が高いと見ていい。ランクもEランク以上だしね。とはいえブルーフォレストは極端に強い魔物が出るわけでもないから、今の実力を知る上でも丁度いいかな。

「これ良さそうかも」

「スピ~♪」

 肩に乗ってるスイムも行きたそうにしてる。よし、依頼書を剥がしてフルールの前に持っていこう。

「これを受けたいんだ」

「えっと。ブルーローズの採取……う、う~ん。確かにEランク以上だし、そこまで危険な魔物は出ないと言われるけど、植物系の魔物が多い場所よ。周囲に溶け込んでるからソロだと厳しくない?」

 やっぱり心配されてしまった。植物系の魔物……トレントやビビルローズとかだね。これらの魔物は、普段は似たような植物のフリをして獲物を狙う。だから油断して不意を突かれやすいんだ。ただ、Eランク推奨の森に出る程度なら攻撃手段は多くないし、擬態もわかりやすいタイプが多い。

「大丈夫だよ。そんなに心配しないで。それにほら、スイムもついてるし」

「スピィ!」

 安心してもらおうとスイムについても触れると、僕の肩の上でぴょんぴょん跳ねて任せて~とアピールしてくれた。

「その子が可愛いのは認めざるを得ないけど、戦えるの?」

 フルールもスイムの愛らしさにはメロメロだ。ただ戦闘面では疑問に思ってるみたい。

「冒険者に襲われたときも、スイムのおかげで助かったんだよ。頼りになるんだ」

「へぇ……この手のスライムはあまり戦えるイメージがなかったけど。凄いんだね、スイムちゃん」

「スピィ~♪」

 僕から話を聞いたフルールはスイムを褒めて撫でた。スイムが嬉しそうに声を上げている。戦闘力と言うよりはあの水を飛ばす方法が参考になったわけだけどね。

「じゃあ受けていくね」

「……わかった。流石に適正ランクなのに駄目とは言えないしね……でも本当に気をつけてね! 余裕があるなら回復薬も忘れずにね!」

 フルールは本当に僕のことを心配してくれているようだ。依頼は受けられたけど準備を怠らないよう色々指摘されたよ。

 でも回復薬か……何かあったときのために持っておくのはいいかもね。

 とはいえ依頼をこなすのは明日かな。今日は宿に泊まって明日に備えないと。それとスイムの食事も考えないとね。

「スイム、何を食べようか」

「スピィ~♪」

 ギルドを出た後、スイムと一緒にとりあえず市場に顔を出してみた。森でスイムは果物を食べていたから、もしかしたらそういうのが好きかもと思ったんだけど。

「このリンゴがいいの?」

「スピッ♪」

 案の定スイムは果物が好みなようだ。だから何個か買って与えたら、嬉しそうに取り込んで食べていた。その後は知ってる宿で泊まることにした。勇者パーティーに入る前に利用していた宿で、値段が手頃なのに食事もつくんだよね。スイムを連れていても特に問題なかったし、ゆっくり休めたよ。

「さて! 今日から本格的にソロでの仕事だね」

「スピィ~」

「あはは、そうだったね。スイムも一緒にだよ」

「スピッ!」

 スイムもどこか張り切ってる感じだね。僕はスイムをつれて、まずは教会に向けて歩き出した。

「スピィ?」

「どこに行くの、って? えっと。ね。これから神父様に会って、お願いしたいことがあったんだ」

 足の向く先が門の方と違っていたからスイムも気になったみたいだね。だから寄り道があることを教えたんだ。

「ネロ!」

「ガイ──」

 聞き覚えのある声がした。教会に向かう途中で元仲間のガイと遭遇してしまったんだ。何か不機嫌そうに思える。

「お前、まだこの町にいやがったのか! 出ていけと言っただろうが!」

 またその話か。確かにガイは前にもそんなことを言っていたけど、承諾した覚えはないんだよね。お金はただの手切れ金だって言って聞かなかったし。

「スピィ?」

 すると肩の上のスイムが不思議そうに、誰~? と僕に聞いてきた気がした。

「えっと。一応元パーティーメンバーで勇者なんだ」

「……なんだそのちっこいのは?」

 スイムにガイのことを教えてあげると、ガイから質問が飛んだ。

「スライムのスイムだよ。ちょっとした縁があってね。今は一緒にいるんだ」

 僕が答えるとガイがスイムのことを睨み始めた。その後ろにはフィアとセレナの姿がある。なんかフィアもスイムを見てるね。ガイみたいに睨んでるわけじゃないけど。

「……スイムに何かあるの?」

「な、なな、何もねぇよ! それよりいつ出ていくんだ!」

 ガイが睨んでいるのが気になって聞いてみた。すると慌てて元の話に戻してくる。

「いや、そもそも出ていく気がないよ」

「な、ふざけんな! いいから出てけ!」

 ガイがムキになって街から出るよう要求してきたよ。はぁ、全く。なんなんだろう。

 そんなに僕と関わりたくないならそもそも無視してくれればいいのに。

「最初に冒険者になったのもこの町だから、僕にとってはもう故郷みたいなものなんだ。だから出ていくつもりはないよ」

 僕が自分の思いを話すと、ガイが口を結び、険しい顔を見せた。

「冒険者としてやっていくならお前の腕じゃこの町は無理だって言ってるんだよ。決められないなら俺が決めてやる。ここを出て西のノーランドへ行け。あそこは田舎町で危険な魔物も少ない。冒険者ギルドに所属してるのも気さくな連中が多い」

 ……確かにノーランドは知ってるし、ガイの言う通りだけど──。

「もしかして、僕のこと心配してくれてるの?」

「ふざけんな! たたっ切るぞ!」

 気になって聞いてみたら凄い剣幕で怒鳴られちゃったよ。う~ん、確かにそんなはずないか。だったらなんで追放したのかって話だし。ガイがグルル~と犬みたいに唸ってると、その横にフィアが立ってるのに気がついた。その視線がスイムに向いている。

「スイムは人懐っこいから撫でると喜ぶよ」

「え? い、いいの?」

 フィアがスイムを気にしていたから試しに触ってもいいよと伝えてみた。フィアは目を丸くして確認してきたよ。

「うん」

「スピィ」

 僕がそう答えるとスイムがフィアに向けて頭を伸ばした。撫でて撫でて~とアピールしているように見える。

「そ、そこまで言うなら撫でてもいいわよ」

 そんなことを言いながらもフィアの手は既にスイムを撫でていた。頬が緩みきってるよ。

「わ、私もいいですか?」

「うん」

 セレナも一緒になってスイムを撫でていた。それをガイが凄い形相で睨んでる。顔が怖いんだよなぁ……。

「二人がスイムに構うことがそんなに嫌なの?」

「誰がそんなこと言った! ぶった切るぞ!」

「えぇ~……」

 ガイはなんでこんなにカリカリしてるのか……いや、わりと前から不機嫌そうなことが多かったかもだけど……。

「ところでネロはどこに行くつもりで?」

 ガイとの会話が噛み合わなくて困ってるところにセレナから質問された。丁度いいからこっちの問いかけに答えることにする。

「うん。教会で水の回復魔法を込めてもらおうかなって」

「……そうですか。それならこの空き瓶にネロの魔法で水を注いでもらえますか?」

 そう言ってセレナが空き瓶を三つ取り出した。

「あ、もしかして魔力水?」

 セレナに確認してみる。追放されたときに何本か残してきたけどもうなくなったのかもしれないね。

「違います。水だけ入れてください」

 でも魔力水が目的じゃないみたいだ。なら一体何だろう? とにかく瓶に水を入れてみる。するとセレナが瓶の水に生属性の回復魔法を込めてくれた。

「これを使ってください」

「え? いいの?」

「以前いただいた魔力水のお礼です」

 追放されたときに置いていった分のことだね。てっきりそれの追加が欲しいのかと思ったけど、逆に僕に回復効果のある水をくれるつもりなようだ。でもいいのかな? ガイを見てみるとやっぱり不機嫌そうだった。僕がセレナから受け取るのが嫌なのかな?

「セレナがわざわざ用意したんだから素直に受け取れや!」

 ガイに怒鳴られた。えぇ、そっちなの? いや、まぁせっかくこう言ってくれてるなら。

「ありがとう大切に使うよ」

「いえ、危ないときはすぐに使ってください」

 ニコリと微笑みながらセレナが言った。出し惜しみして死んじゃったら意味ないからそこは流石にわかってるつもりだけどね。

 受け取った瓶はベルトに付けてるポーチに入れておいた。ちょっとした物は大体ここに入れている。

「ふん。お前ら、こっちも暇じゃないんだ。さっさと行くぞ」

 話が落ち着いたところで、ガイが二人を促して立ち去ろうとする。

「……ネロ。とにかくこの町からは出ていけ。せっかく可愛いペットまで見つけたんだからな」

 ガイが呟くように言った──なんだろう? まるで警告みたいに聞こえる。更に言えば。

「えっと。スイムを可愛いと思ってくれてたんだ」